Tuesday, December 30, 2014

【抗議声明】スリランカ・ベトナムへの集団送還について


  12月18日(木)、法務省は、スリランカおよびベトナムにチャーター機をつかった強制送還をおこないました。

  翌19日の法務省自身の発表によると、今回の被送還者の概要は以下のとおりです。



被送還者総数 32人

内訳
  • スリランカ人26人(男25性人、女性1人)
  • ベトナム人6人(男性6人)


年齢階層別内訳
  • 21歳~30歳 男性6人
  • 31歳~40歳 男性12人
  • 41歳~50人 男性8人
  • 51歳~60歳 男性4人、女性1人
  • 61歳以上  男性1人
      (最年少25歳、最年長64歳)



  法務省によるチャーター機をもちいた集団送還は、昨年7月のフィリピン同12月のタイにつづき、今回で3度目になります。

  本人の同意なしに暴力によって無理やり送還するということそのものにわれわれは反対しますが、集団送還は、いわば被送還者の人数確保が目的化したなかでおこなわれるため、個別の送還以上に、送還される個々人の事情がかえりみられることなく、人権侵害と人道上の問題がはなはだしいものになるよりほかありません。じっさい、今回のスリランカ・ベトナムへの集団送還は、「人権に最大限配慮した」(12月10日付『日経新聞』)という法務省発表とうらはらに、日本に配偶者と11ヶ月の子のいる人を送還したばかりか、被送還者に反政府活動を活発におこなってきた亡命者や人身取引の被害者もふくまれるというものでした。

  仮放免者の会としては、各支援団体と連携しつつ、被送還者について、また送還のありようについて、調査をすすめているところです。

  調査をつうじて現時点であきらかになっているもろもろの事実からみても、送還翌日19日の法務省発表は、誠実なものとはとうてい言いがたいと評価せざるをえません。

  法務省は「日本に配偶者がいたり、難民認定を申請しているケースは含まれていないという」と発表しています(12月20日付『毎日新聞』)。この点についてまずは検証し、さらに今回の送還での人権侵害のはなはだしい事例を紹介していきます。



1.法務省発表「難民認定を申請しているケースは含まれていない」について

  たしかに、今回の集団送還で、われわれは申請者の送還は確認していません。そのかぎりでは、被送還者に「難民認定を申請しているケースは含まれていない」という法務省発表が「ウソ」であるとまでは私たちとしても現時点では言いきれません。しかし、この法務省の発表には、今回の集団送還の問題性を隠蔽しようとするゴマカシがあると言わざるをえません。というのも、私たちが把握しているだけでも、法務省・入管が、難民不認定処分を受けての行政訴訟や難民認定の再申請を妨害するかたちで強引に送還したケースが多数含まれているからです。

  下の図は難民認定の手続きを図解したものです。法務省のページから引用しました。



  図のとおり、難民認定の審査は2段階でおこなわれます。第1次の審査で法務大臣による「不認定」、つまり、難民として認めないという判断がなされた場合、申請者はこれを不服とし、異議申し立てをおこなうことができます。異議申し立てをおこなうと、申請者は第2次の審査を受けることになります。この第2次の審査においては、法務大臣はその諮問機関である難民認定参与員の意見を参考にして、ふたたび認定・不認定の判断をくだすことになります。

  私たちの調査では、今回の被送還者のなかに、多数、難民認定を申請していた人がふくまれていることがあきらかになっています。そして、送還された当事者からの聞き取りで、かれらが送還の直前に上記の異議申し立て、つまり第2次審査の棄却を通知されていたこともわかりました。

  法務省の理屈からすれば、難民認定の異議申し立てを棄却したあとで強制送還したのだから、「難民認定を申請しているケースは含まれていない」ということになるのでしょう。なるほど、難民認定の異議申し立ての棄却前に送還すれば「難民認定を申請しているケース」にあたるが、送還直前にこれの棄却を通知しておけば、形式上、送還の時点では「難民認定を申請しているケース」にはあたらないということに、理屈上はなります。

  入管法上は、難民の認定・不認定の決定をおこなうのも、また強制送還を執行するのも、ともに法務省(正確には法務大臣)にその権限があたえられています。現行の法制度自体がいわば「胴元がバクチを打っている」あるいは「競技に参加するプレーヤーの一部が審判をもつとめている」という状況をみとめているわけで、入管法そのものが難民認定審査の公正さを担保しえない欠陥立法であると言うこともできます。

  こうした立法上の問題点はここではおくとしても、今回の法務省の強制送還執行および難民認定異議申し立て棄却の手続きには、きわめて重大な問題があるといえます。

  私たちは、今回の被送還者について、異議申し立て棄却の通知がなされていない難民認定申請者が送還の直前に収容されたケースを多数確認しています。そのうちのAさんは、入管に収容された直後に外部への電話連絡を禁止され、「弁護士に電話をしたい」と職員に申し出たものの、許可されませんでした。こうして弁護士などの外部との連絡・通信手段を暴力的にうばわれた監禁状態で、Aさんは入管から異議申し立て棄却を通知されたといいます。

  異議申し立てを棄却された場合、申請者はその行政処分の取消しをもとめて訴訟をおこなう権利があります。入管は、棄却の通知にあたり、行政事件訴訟法にもとづき、その決定を知った日から6ヶ月以内に国を相手に決定の取消しをもとめて訴訟を提起することができるむねを、書面および口頭で教示することになっています。Aさんによると、棄却の通知時に入管は、きめられた形式どおりにこの教示をおこなったといいます。そこで、Aさんはその場で「裁判をします」と即座に言いましたが、入管職員は「いまはできません」などと言い、直前におこなったばかりの教示の内容をみずから反故にする発言をしたとのことです。入管は、Aさんの行政訴訟をおこなう意思を認識しながら、その機会をあたえず妨害し、無理やりに送還したわけです。

  難民認定申請者に対する法務省・入管のこのような送還のやりくちは、裁判を受ける権利(日本国憲法第32条)に対する明白な侵害であり、また、難民認定制度をますます形骸化させ、その公正さを決定的に破壊する暴挙というべきです。



2.送還によって配偶者・子どもと引き裂かれたケース

  さきにみたように、法務省は記者会見で、被送還者のなかに日本に配偶者がいるケースは含まれていないと発表しています。この発表もまた、言葉どおりに受け取るわけにはいかないものです。

  Bさんは、婚姻手続きは済んでいないものの、永住者の資格をもって滞在するフィリピン国籍の女性Cさんと事実上の婚姻関係にあり、Cさんとのあいだに生後11ヶ月の子がいます。Bさんは、送還されて、妻子とのあいだを引き裂かれてしまいました。また、Bさんが送還されたことで、Cさんと子は、夫・父と引き裂かれてしまいました。

  BさんCさん夫妻の婚姻手続きがおわっていないのは、婚姻制度が障壁になっているためです。外国人が日本で婚姻届を受理されるためには、原則として国籍国の政府の発行する婚姻具備証明書類(独身であることを証明する書類)の提出をもとめられます。フィリピンには制度上「離婚」がないため、Cさんが婚姻具備証明の発行を受けるためには、フィリピンの裁判所に前夫との婚姻の無効確認をもとめる訴訟を提起し、これを認められなければなりません(すでに成立した婚姻関係を「離婚」によって事後的に解消することができないため、婚姻の成立した時点にさかのぼってその「無効」を確認するという手続きが必要なのです)。この「アナルメント」と呼ばれる裁判には、多額の費用もかかりますし、時間もかかります。

  入管は、当然、フィリピンの婚姻制度に関する諸事情についても熟知しています。BさんとCさんが実質的に婚姻関係にあること、ふたりのあいだに子がいること、したがって、Bさんを送還すれば、夫婦・親子をむりやり引きはがす結果になることも認識したうえで、Bさんを送還したのです。さらに、Bさんは、夫婦のあいだに子がうまれ、退去強制令書の発付を受けた当時との事情が変化していることもあり、行政訴訟を提起しようとしていました。当会の支援者が入管への収容中にBさんと面会していたさいに、入管は立会官をつけて会話を聞いていましたから、Bさんに行政訴訟を提起する意思があることも把握していたはずです。

  法務省は、これらの事実をすべて認識したうえで、形式的に婚姻手続きが済んでいないのをよいことにBさんを送還対象にえらび、報道発表ではぬけぬけと、被送還者に日本に配偶者がいるケースは含まれていないなど言ってのけたわけです。



3.人身取引の被害者も送還

  さらに今回の集団送還では、被害からの回復途中の人身取引被害者DさんとEさんもむりやりに送還されました。

  DさんとEさんは、母国で日本人のブローカーから、3年の在留資格で日給8,000円の仕事があるともちかけられて、来日。日本に来てみると、日給2,000円の仕事をさせられ、在留資格も短期滞在、仕事の内容もブローカーの事前の話とはまったくことなるものでした。

  ふたりは、未払い賃金の支払い等をもとめて提訴し、雇用主とのあいだに和解が成立、また、裁判所はブローカーの日本人に対しあっせん料の返還を命じていました。ところが、雇用主は8回に分割して支払うべき未払い賃金のうち1回分を支払ったのみで、残金の支払いにいっこうに応じていません。また、ブローカーは居所不明のため、判決に基づく損害金の回収もできていませんでした。DさんとEさんはこれらに対する法的措置を準備しているところでした。

  法務省は、「性的搾取,強制労働等を目的とした人身取引(トラフィッキング)は,重大な犯罪であり,基本的人権を侵害する深刻な問題です」として、その撲滅のための自分たちの取り組みを宣伝しています。


  しかし、今回のDさんとEさんの強制送還は、法務省・入管が人身取引の被害者の権利回復を妨害し、加害者側に加担しその片棒をかついだ、ということにほかなりません。



4.送還のための送還

  以上みてきたように、18日のスリランカ・ベトナムへの集団送還は、難民不認定処分に対する行政訴訟の機会をを不法かつ暴力的にうばったケース、夫婦・親子のあいだを引き裂いたケース、人身取引被害者の権利回復を阻害したケースなど、重大な人権侵害と人道上の問題を生じさせるものでした。昨年度にひきつづき今年度も、このチャーター機による集団送還のために法務省は3,000万円の予算を獲得していました。その予算消化のための被送還者の人数確保が目的化したなかで集団送還がおこなわれたことが、無理やりの送還に必然的にともなう人権侵害をますます甚大なものにしたといえます。

  法務省は今年度、フィリピンおよび中国にあわせて200人を送還する費用として合計3,000万円の予算を計上していました。ところが、この両国への送還が困難とみるや、送還先をスリランカとベトナムに変更。これにあわせて、送還対象者をいわば「かき集めた」ということでしょう。まさに「送還のための送還」であって、このような人権侵害しか生まないチャーター機送還は即刻やめるべきです。

  法務省は、記者会見で、今回の送還には4,000万円の費用がかかったとしています。予算として計上していた3,000万円に対し、1,000万円ほど超過したことになります。また、4,000万円という費用は、今回の32人の被送還者1人あたりの送還費用として、125万円になります。法務省は、チャーター機送還をはじめるにあたって、一般の旅客便で1人ずつ送還する方法にくらべ「費用と安全の両面で利点がある」とし、費用について「送還対象者1人当たりの費用は、最大で現在の約3割に抑えられる」と試算していました(2012年12月19日付『毎日新聞』。チャーター機による強制送還に反対する3月行動(3月6日、水曜日)の末尾に記事を転載しています)。この法務省の試算の前提は、3,000万円の予算で200人を送還するという計画だったわけですから、被送還者1人あたりにして15万円。とすると、法務省がこの試算で一般旅客便での送還費用として想定していたのは、およそ50万円ということになります。

  したがって、今回のチャーター機送還でかかった125万円という1人あたりの送還費用は、チャーター機送還における当初の想定の約8倍、一般旅客便での個別送還とくらべてもその「約3割」どころか2.5倍にのぼる計算になります。チャーター便での送還には費用の面で「利点」があるとした法務省の前提は、完全に破綻したといえます。



5.送還対象者リストはどのようにつくられたのか?

  ところで、今回、送還先として当初の計画であったフィリピン・中国にかわってスリランカ・ベトナムがえらばれた背景のひとつとして、日本政府と送還先の政府との関係という要因も無視できません。日本側が送還をおこなおうとしても、送還先の政府とのあいだで合意が成立し、その協力をえられなければ、送還は不可能なわけです。ですから、当然、日本政府と送還先政府のあいだで事前の協議がもたれたはずです。

  私たちとしては、とくに今回、スリランカ政府とのあいだでどのような事前協議がおこなわれたのかという点に、関心をよせています。

  スリランカに送還されたFさんは、本国でも、また来日後も、独裁政治に反対する活動を積極的にしていた人です。彼は、日本でも、在日スリランカ人に呼びかけて独裁政治反対のデモを在日スリランカ大使館に対しておこなうなど、活発な反政府活動をしており、送還後の動向が危惧されるひとりです。

  こうしたFさんの政治活動については、日本の入管・スリランカ政府双方とも事前に具体的に把握していたのは確実です。大使館前での抗議行動は、Fさんの難民申請の主張に含まれていたのですから、入管がこれを知らなかったということはありえません。スリランカ大使館も、抗議行動の写真撮影などで、Fさんの人物を特定していたとみてまちがいありません。

  したがって、法務省・入管は、Fさんの政治活動の内容を知りながら、かれを送還したということになりますが、これを日本側が独自の判断としておこなったとは考えにくい、ということもいえます。日本でのスリランカ人亡命者は強力なネットワークを形成しており、本国の野党諸政党の本部とのあいだにも密接な連絡がありますから、かりにFさんの身に危害がおよんだり行方不明にでもなるような事態があれば、その情報は日本にもすぐさまつたわることが予想されます。送還翌日の「人権に最大限配慮した」という報道発表が口先だけのものであるとしても、みずからの保身と組織防衛には最大限の配慮をするであろう法務省・入管の官僚たちが、自分たちの責任を問われる大問題にもなりかねない「リスク」の高い選択をすることは、考えにくいのです。法務省にとっての今回の送還の主目的のひとつが、さきに指摘したように予算消化であろうことを考えれば、なおさらそういえます。被送還者の人数確保という観点からすれば、Fさんでなければならない理由はかならずしもなかったはずだからです。

  となると、法務省・入管があえてFさんを送還対象のひとりにえらんだことには、年明けに大統領選挙の投票をひかえたスリランカ政府の思惑・意向が関係しているのではないかということ、また、かれの送還後の処遇について事前にスリランカ側から法務省・入管を「安心」させるようななんらかの条件提示がなされたのではないかということを、強くうたがわざるをえません。

  もちろん、本国で生命・身体に危害のおよぶおそれのある人を無理やりに送還することは、両国間での協議のうえでであれ、日本側の独自の判断の結果であれ、いずれにしても大問題です。しかし、前者の場合、Fさんの人権上の問題にくわえ、難民は保護するという日本の国際的な約束そのものが根底からくつがえされることにもなります。

  Fさんをはじめ、強制送還された人たちのなかには、政治的な迫害のおそれがあることを理由に難民認定をもとめていた人が多数含まれていました。このような集団送還が、送還する側と送還先の政府間での協議のもとおこなわれたということの問題もまた、きわめて大きいといわなければなりません。それは、難民としての保護をもとめようとする人たちからすれば、建前上は難民保護をうたい、難民認定申請を受け付けている日本政府が、自分を迫害する本国政府と通謀して強制送還について話し合いをもっているということを意味するのですから。



  12月18日に法務省がおこなった集団送還は、なんら正当化しうる根拠の存在しない暴挙と言うべきであり、これに強く抗議するとともに、被送還者の今後の状況を注視していきます。




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Thursday, December 4, 2014

東京入管でスリランカ人被収容者が死亡――くりかえされる医療放置による死亡事件

  11月22日(土)、またもや入管の収容施設で死亡者が出てしまいました。

  亡くなったのは、東京入管に収容されていたスリランカ人男性、Mihindukulasuriya Nickeles Emmanuwel Fernandoさん(ご遺族の同意のもと、実名と写真を公開します。以下、「ニクルス」さんといいます)です。57歳でした。

  当会では、亡くなったニクルスさんの親族、当会顧問の指宿昭一弁護士らとともに、12月1日(月)に記者会見をおこない、私たちが東京入管の被収容者との面会等をつうじて把握した事実関係などを、報道関係者に公表しました。




1.死亡日当日の状況――被収容者の証言

  被収容者の証言からあきらかになった、ニクルスさんが亡くなった当日の状況は、以下のとおりです。

  11月中旬から東京入管に収容されていたニクルスさんは、他の被収容者2人と雑居房にいましたが、22日の朝、胸の激しい痛みを訴え、7時半頃に同国人の日本語のできる被収容者の通訳で入管職員と面接をおこないました。このさい、ニクルスさんは、聖書を手に持ち職員に見せるなどして「私はクリスチャンだ。嘘は言わない。本当に心臓がひどく痛む。病院に行かせてほしい」等と泣きながら職員に懇願したといいます。職員は当日が土曜日で局内に医者がいないことなどをを理由にこれを聞き入れず、8時頃にはニクルスさんを雑居房から監視カメラ付きの単独房に移動させました。

  ニクルスさんは、単独房移動後も泣きながら病院に行かせてくれとうったえていましたが、職員はこれに取り合わなかったといいます。8時50分頃ニクルスさんの声は聞こえなくなったそうです。9時半から12時までは開放処遇といって被収容者は、各居室から共用部や他の部屋に移動することができるようになるのですが、ニクルスさんは開放処遇の間中うつ伏せの状態のままで姿勢は全く変わっていなかったようだと他の被収容者は証言しています。13時すぎに他の被収容者がニクルスさんの居室をたずねたところ、ニクルスさんは意識不明で脈がなく、体のつめたくなった状態でした。この被収容者はすぐに職員を呼び、職員は心臓マッサージや人工呼吸、AEDの使用などしたが、まるで反応がなかったといいます。救急車が到着し、13時30分頃にニクルスさんは単独室から運び出されたとのこと。

  その後、ニクルスさんは搬送先の病院で死亡が確認されました。警察で法医解剖(新法解剖)をおこない、病理検査中。死因については内因性のものである(外因性のものではない)という以上のことはまだわかっていません。



2.あいつぐ被収容者の死亡――その背景と問題

  入管の収容施設では、このところ、被収容者の死亡事件があいついでいます。この1年あまりのあいだに、収容中の死亡だけにかぎっても、入管は4人もの外国人を死なせています。

  昨年の10月9日には、東京入管でビルマ(ミャンマー)出身のロヒンギャ難民、アンワール・フセインさんが倒れ、搬送先の病院で10月14日に亡くなりました。死因は「動脈瘤破裂によるくも膜下出血」。フセインさんは9日に東京入管で嘔吐(おうと)、体を痙攣(けいれん)させて倒れ、意識不明の状態におちいりましたが、東京入管は50分ちかくものあいだ救急車を呼ばないという信じがたい対応をとりました(急死した被収容者に対する東京入管の医療放置などについての申入書参照)。

  今年にはいって東日本入国管理センターで、3月29日(土)にイラン人男性のSさん、翌30日(日)にカメルーン人男性のWさんが、あいついで亡くなりました(【抗議のよびかけ】東日本入管センターで被収容者2名があいついで死亡参照)。このうちWさんは、1か月近く医療放置され、最後には自力で歩くのが困難な状態になっていましたが、センターはそれでも彼に診療を受けさせることをしませんでした。

  また、収容中の死亡ではないものの、東京入管から東日本入管センターに移収されたのち出所した中国人男性Hさんが、7月11日に肺ガンで亡くなりました(元被収容者が死亡――東日本入管センターに診療の抜本的改革等を申し入れ参照)。Hさんは、収容中、頭痛や腹痛をうったえていましたが、ガンの発見が遅れ、出所後に死亡したものです。

  今回のニクルスさんの件もふくめ、入管収容施設でこうもたてつづけに死亡事件がおきている背景には、緊急医療体制のいちじるしい不備、処遇のやはりいちじるしい不備、そして、外国人にたいする入管の人権無視の体質があるとみてまちがいありません。

  緊急医療体制の不備については、昨年のフセインさん事件でその問題があきらかになったはずであるにもかかわらず、法務省および東京入管はそれをじゅうぶんに教訓化することなく、またあらたな犠牲者を出すにいたったということになります。

  東京入管がニクルスさんをわざわざカメラ付きの単独室に移動させておきながらも、他の被収容者から知らされるまでニクルスさんの異変にまったく気づかなかったという点には、処遇の「不備」と言うにも軽すぎる、「ずさんさ」があらわれています。複数の職員がニクルスさんの居室を何度も通りがかっているはずであるのに、同じ姿勢で長時間動かないニクルスさんの異変に注意を払うことがなかったというのは、おどろくべきことです。12時の昼食の搬送時などもふくめ、異変に気づく機会は何度もあったはずなのです。ところが、職員がようやく事態の深刻さを認識したのは、ニクルスさんの体がすでにつめたくなった後で、しかも、その状態を発見したのは職員ではなく、おなじブロックの被収容者だったのです。

  そもそも、東京入管はなんのためにカメラ付きの単独室にニクルスさんを移動させたのでしょうか。以上の経過をみるに、結果的にニクルスさんは、他の被収容者とともに雑居房にそのままいたほうが、安全だったにちがいないのです。病状を心配し気にかけてくれる他の被収容者の目が届く雑居房のほうが、深刻な病状をうったえても病院に搬送しないばかりか、人が伏して動かなくなっていてもこれを深刻な異常と認識しないような入管職員の目しか基本的には届かない単独房よりも、はるかに安全であることはたしかです。

  こうした緊急医療体制および処遇のいちじるしい不備のさらなる背景には、入管の組織的な体質としての外国人にたいする人権無視の思考があると言うべきです。東京入管のみならず東日本入国管理センター等、入管施設には重篤な状態にある被収容者に対し救急車を呼ばない、または、重篤な状態にある者でも病院に行かせないといった医療放置がしばしばみられます。入管職員にしても、相手が家族や友人、あるいはそうでなくても、たとえば通りすがりの見ず知らずの他人が相手であっても、けっしてこのような対応はしないのではないでしょうか。ところが、被収容者に対しては、ニクルスさんにたいしておこなったような仕打をしているのです。ニクルスさんが病状をうったえ、聞き入られることなく亡くなるにいたるまでの入管の対応からは、いわば、外国人は死んでも構わないという外国人の人権を著しく軽視した姿勢を見て取らないわけにいきません。

  入管は外国人を収容する限りその人権、生命、安全、健康を守る義務、収容主体責任があります。それらを守ることができないならばそもそも収容をいっさいやめるべきです。

  当会としては、東京入管および法務省にたいし、ニクルスさんを死にいたらしめた経過や組織的構造的問題について、また事後の対応について、今後、抗議や申し入れをつうじて追及していきます。また、みなさまにも、抗議・意見提示をよびかけます。



【抗議先】

法務省



東京入国管理局

  • 東京入管総務課 電話  03-5796-7250
  • 東京入管代表ファクス  03-5796-7125



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