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Saturday, September 5, 2015

8月30日付『読売新聞』に掲載された差別扇動記事について



  読売報道の問題についての連載が、第2回を掲載してからだいぶ間があいてしまっています。


  1. 【連載】「難民偽装問題」をめぐる読売報道の問題点(第1回)――偽装された関心としての「難民保護」
  2. 【連載】「難民偽装問題」をめぐる読売報道の問題点(第2回)――だれが技能実習制度を形骸化させているのか?


  連載は後日再開します。今回は、読売新聞に技能実習生といわゆる「難民偽装」をめぐってきわめて悪質な記事がまた掲載されていたので、その問題点を簡単に指摘します。

  問題の記事は、「外国人実習生厚遇求め逃亡」との見出しがつけられ、8月30日付の社会面に掲載されています。この記事も、上記の連載で私たちが批判してきた読売の一連の記事と同様、制度的・政策的な矛盾・問題点をあべこべに外国人に転嫁した差別的な記述にみちたものになっています。

◇        ◆        ◇        ◆        ◇        ◆        ◇        ◆

  読売記事は以下のように要約できます(末尾に問題の記事を転載しておきますので、以下の要約や記事に対する批判が的確なものかどうか判断するさいの材料として、参照してください)。

(1)  実習先から「逃亡」した技能実習生が難民申請をする例があいついでいる。
(2)  (1)は、「より良い待遇」を求めての「偽装申請」とみられる。
(3)  難民申請にはパスポートが必要であり、「逃亡」した実習生がパスポートの返却を求めて労働組合を「利用」した例もある。
(4)  実習生があいついで「逃亡」したため人手不足で廃業した会社もある。

  (3)の、難民申請にパスポートが必要だとの読売記事の記述は、事実とことなります。読売がこの点で虚偽を書いていることの問題性については、あとで述べます。

  最初に、(1)(2)をめぐり、読売が「逃亡」という表現をもちい、またその実習生の「逃亡」は「厚遇」「より良い待遇」を求めてのものだとしている点について、検討してみましょう。

  読売記事は、ミャンマー人女性5人が「逃亡」するにいたった実習先の縫製会社の待遇について、「実習先に不満」との小見出しをつけてつぎのように書いています。

「毎日午前7時半から午後10時まで働かされた」「来日前は月10万円以上と聞いていた給与が8万円だった」。縫製会社で働いていたという女性たちは取材に対し、口々に不満を述べた。

  一見してひどい待遇であることがわかります。このような職場から脱しようとすることは、常識的な書き方をするならば、せいぜい「通常の待遇を求め」といったところでしょう。ところが、読売新聞は「厚遇求め逃亡」などと書くわけです。

  読売記事は、ミャンマー人実習生たちが超低賃金での過酷な長時間労働をしいられていたということはいっさい問題にしないかわりに、取材者への彼女たちのうったえについて「口々に不満を述べた」などというまとめ方をしています。読売の記者たちにとっては、日本人労働者と比較してあきらかに不当に劣悪な待遇で外国人が働かされていることは、なんの問題もない、いわば“当然のこと”であって、これに「不満を述べ」るのは“ナマイキだ”というわけなのでしょう。よくもまあ、外国人への蔑視・差別意識を紙面で臆面もなくたれながせるものです。

  私たちは上記の2の記事で、技能実習制度についてつぎのように指摘しました。

「高い賃金」などの、よりよい待遇を求めて「転職」するのは、通常の労使関係であれば、なんら責められるいわれのない、労働者としてあたりまえの行為であるはずだという点を、まずは確認しておきましょう。
  通常の労使関係においてはたんなる「転職」にすぎないことが、技能実習制度のもとでは、「逃げ出した」「逃亡」ということになってしまうのです。というのも、技能実習制度は、タテマエのうえでは、ここで読売が書いているとおり「途上国の支援を目的とした国の制度」であって、したがって実習生は、お金をかせぐために来たのではなく、技術等をまなびに来たのだということに、名目のうえではなっているからです。入管法上も、実習生は実習先以外で働くと、「資格外活動」とされて摘発の対象になります。
  このように、日本の政府や実習先である企業等は、実際には、実習生を低賃金の労働力として利用しておきながら、他方ではその労働が「実習である」というタテマエを都合よく持ち出すことで、実習生の労働者としての権利を否定し、実習先の職場に縛りつけることが可能になります。技能実習制度とは、通常の労使関係のいわば例外的な領域を作り出し、そこでの事実上の奴隷的拘束を「合法化」する装置といってよいでしょう。

  今回の読売記事がとりあげているミャンマー人実習生たちは、まさに「事実上の奴隷的拘束」を受けていると言ってよい事例です。さきに引用した彼女たちの待遇は、競争力のはたらく自由な労働市場においてはけっしてありえない水準のひどさであると、あきらかに言えるものです。労働者が雇用主・職場を選ぶことのできる環境、すなわち転職が可能な労使関係ならば、あのような劣悪な待遇ではたらきつづける労働者などいるはずがないのです。

  朝の7時半から夜の10時まで拘束されて月給8万円しか支払われないような職場ではたらきつづける労働者がもしいるとするならば、それはなんらかの理由で転職ができないからだろうと考えるのが自然です。そして事実、技能実習生はこの転職を制度的に禁じられているわけです。さらに、読売記事によると、彼女たちは実習先企業によって「パスポートを取り上げられ」ていたといいます。彼女たちは「逃亡」できないように、制度と雇用主によって二重に拘束されていたわけです。日本政府と実習先企業によって彼女たちが実態として奴隷の身分におかれていたと言っても、まったく誇張にはあたらないでしょう。

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  読売は、このような明白な奴隷制として技能実習制度が運用・利用されている事実について目をつぶっているばかりか、外国人実習生のほうをあべこべに悪者あつかいした記事の書き方をしています。

  読売は「労組の『利用』相次ぐ」との見出しをつけて、「外国人技能実習制度での実習先から逃亡したミャンマー人女性5人が、東京都内の労働組合に相談して実習先にパスポート返還などを求め、日本での就労を希望して難民認定を申請していることがわかった」などと書いています。まるで、実習先からパスポートを取り返すことや、その手段として労組を「利用」することになにか問題でもあるかのように示唆する書きようです。

  また読売は、「5人は本国の政情不安などを理由に難民申請も行い、パスポートは申請に必要だった」とも書いています。この記述は、まったく見当はずれであるうえ、事実をねじまげたものです。

  難民申請にあたってパスポートが必要だという事実はありません。難民として庇護を希望する人のうち、本国政府から有効なパスポートの発行を受けたうえで難民申請できる人はかぎられているし、無国籍者などそもそもパスポートの発行を受けようのない人もいます。したがって、入管も、パスポートのある人には提示をもとめますが、提示できないからといって申請を受け付けないわけがないのです。

  そもそも、どうして5人のミャンマー人実習生が実習先からパスポートを取り返さなければならなかったのかというところに、新聞記者ならば問題意識をもたなければならないでしょう。読売の記者は、パスポートが難民申請に必要だからだと考えたようですが、これは見当違いもはなはだしいものです。実習先企業は、実習生が「逃亡」しないように、実習生にとって自分の身分を証明する大切な手段であるパスポートを取り上げるのです。本人の大切な持ち物を取り上げて逃げ出せなくなるようにするのは、典型的な奴隷主、人身取引業者、あるいはDV加害者の手法です。

  読売は、このパスポートを実習先企業が取り上げていたという事実にはなんの問題意識も示さないいっぽう、“難民申請に必要なパスポートを労組を「利用」してまで取り返そうとしている”という実習生に問題を転嫁するストーリーを読者に印象づけようとしています。

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  さらに、読売は、実習先の企業が人手不足で廃業した例をあげ、ここでも外国人技能実習生に責任を転嫁しています。

  先月、団体交渉を突然申し入れられた愛知県の縫製会社の女性経営者は、「あちらが悪いことをしたんでしょう? こっちが訴えたいくらい」と憤る。
  13~14年、経営する2社でミャンマー人実習生7人を受け入れたが、ほどなく全員がいなくなった。人手不足で1社を廃業せざるを得なくなったという。
  団体交渉先の一つとなった千葉県の水産加工会社に実習生をあっせんした監理団体では昨年5月以降、地元企業にあっせんしたミャンマー人約60人のうち約40人が先月までに姿を消した。監理団体幹部は「最初から逃げ出すつもりで来日したとしか思えない。こんなことが続けば実習制度は成り立たなくなる」と嘆いた。

  縫製会社経営者や監理団体幹部の言葉は「……と憤る」「……と嘆いた」というかたちで紹介されており、さきにみた技能実習生の言葉が「口々に不満を述べた」とされていたのとあつかいのちがいがきわだっています。こういったところにも、外国人に対する記事執筆者の差別意識がみてとれます。

  さて、あらためて確認しておきますが、技能実習制度は、企業が不足した労働者をおぎなうための制度ではありません。厚生労働省の説明によれば、「技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う『人づくり』に協力すること」がその制度本来の目的です。

  技能実習生がいなくなったから廃業に追い込まれたというのならば、それは制度本来の趣旨から逸脱する過剰な数の実習生を就業させていたということにほかなりません。いいかえるならば、この縫製会社は、もともと必要な労働力を正当な手段では確保できないのを、技能実習生に依存することでその廃業をまぬがれていたにすぎない、ということです。

  人手不足が深刻で市場原理からすれば立ち行かない産業に対し、その公共的な価値をかんがみて政策的に支援あるいは保護すべきだということは、もちろんありうるでしょう。しかし、その手段が問題です。技能実習制度をその趣旨からあきらかに逸脱したかたちで悪用し、事実上の奴隷制度をもうけて斜陽産業を延命させるのは、ゆるされることでありません。

  縫製会社が廃業に追い込まれたのは技能実習生が「逃亡」したからだとする読売の論調は、奴隷が言うことをきかないから奴隷制度が成り立たなくなると言っているようなものです。制度・政策から生じているのがあきらかな矛盾・問題を、その被害者と言うべき外国人実習生にデタラメに転嫁するのは、それ自体が外国人に対する差別の遂行であり、さらにこれを新聞の紙面においておこなえば、差別を読者にむけて扇動する行為でもあるともいえます。

  読売新聞社には、外国人に対する記者らの差別的体質をあらためる取り組みを強化し、また、独立した報道機関として、国の政策・制度を批判的に報道する責任をになってほしいとのぞみます。

以上




以下に、問題の読売記事を転載します。



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外国人実習生  厚遇求め逃亡
労組の「利用」相次ぐ
  外国人技能実習制度での実習先から逃亡したミャンマー人女性5人が、東京都内の労働組合に相談して実習先にパスポート返還などを求め、日本での就労を希望して難民認定を申請していることがわかった。現行制度では、難民申請さえすれば6か月後から就労が可能。入国管理当局は、実習生がより良い待遇を求めて実習先を逃亡し、偽装申請を行う動きが広がっているとみている。労組には他にも、逃亡した実習先からの相談が相次いでいる。

就労のための難民申請
■実習先に不満
「毎日午前7時半から午後10時まで働かされた」「来日前は月10万円以上と聞いていた給与が8万円だった」。縫製会社で働いていたという女性たちは取材に対し、口々に不満を述べた。
  5人は27歳から36歳のミャンマー人で、2013年末~今年2月に来日。岐阜、愛知、千葉の3県の縫製会社や水産加工会社で働いたが、約1か月から約1年で次々と逃亡し、在日外国人を支援するAPFS労働組合(東京都板橋区)に相談に訪れた。
  同労組は5人の労働環境を問題視して先月9日、実習先に、取り上げられたパスポートの返却や未払い賃金の支払いを求めて団体交渉を申し入れた。要求に応じた実習先もあるという。
  ただ、5人は本国の政情不安などを理由に難民申請も行い、パスポートは申請に必要だった。「私たちは難民」とする一方、「日本で稼ぎたい」とも話す。

■「誰にでも権利」
  難民認定制度は2010年に改定され、申請中の生活を支えるため、申請の6ヵ月後から就労が可能になった。申請が退けられても異議申し立てなどを繰り返せば働き続けられる。
  同労組は毎月10~15件の相談を扱うが、最近は難民申請中のミャンマー人の相談がほとんどだという。同労組幹部は「私たちは労働問題に対応する立場。中には難民と言えない人がいるのは確かだが、申請の権利は誰にでもある」と語る。
  ミャンマーでは少数民族ロヒンギャへの迫害が続くが、それ以外の国内情勢は改善しつつあると入管当局はみており、最近は難民認定されるケースはまれだ。先月の団体交渉が成功したことが口コミで広がったとみられ、同労組は今月末、別の実習先を逃亡したミャンマー人女性5人の相談も受けた。

■人手不足で廃業
  先月、団体交渉を突然申し入れられた愛知県の縫製会社の女性経営者は、「あちらが悪いことをしたんでしょう? こっちが訴えたいくらい」と憤る。
  13~14年、経営する2社でミャンマー人実習生7人を受け入れたが、ほどなく全員がいなくなった。人手不足で1社を廃業せざるを得なくなったという。
  団体交渉先の一つとなった千葉県の水産加工会社に実習生をあっせんした監理団体では昨年5月以降、地元企業にあっせんしたミャンマー人約60人のうち約40人が先月までに姿を消した。監理団体幹部は「最初から逃げ出すつもりで来日したとしか思えない。こんなことが続けば実習制度は成り立たなくなる」と嘆いた。

制度形骸化の恐れも
  難民申請は制度改正後に急増し、2009年の1388人から昨年は5000人にまで膨らんで、審査続きが滞る事態も招いている。一方、発展途上国への貢献を掲げる技能実習制度は、「低賃金で外国人に単純労働を強いている」との批判が強く、法務省によると昨年は4851人が逃亡した。逃亡しても難民申請すれば合法的に就労でき、実習生による難民申請は10年の45人から昨年は418人に増えた。
  本国のお墨付きを得たはずの実習生が、実習先を「入り口」にして入国すると、今度は難民だと主張して好待遇の職場に移っているのが実情で、このままでは技能実習制度の形骸化も進みかねない。難民問題に詳しい滝沢三郎・東洋英和女学院大教授は「国は、実習という建前で外国人労働者を確保する政策を改めるとともに、難民申請するだけで一律に就労が可能になる仕組みの見直しなどを急ぐべきだ」と指摘している。
(8月30日(日)付『読売新聞』社会面)

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