Friday, March 18, 2016

横浜入管による無理やり送還に抗議する

 2月17日、フィリピン人仮放免者が東京入国管理局横浜支局(横浜入管)に再収容され、翌日無理やり送還されました。私たちはこれに強く抗議し、2月24日に横浜入管に申し入れを行いました。少し時間がたちましたが、そのことについて報告します。

 申し入れ書にもありますが、送還されたのは神奈川県在住のフィリピン人男性Aさんです。50歳代のAさんは、1990年代初頭に来日してから、日本での滞在は20年以上の長期にわたっており、同国人の永住者の妻と10年以上同居していました。また、AさんはC型肝炎と診断され、治療中でした。Aさんの再収容と無理やり送還は、次のような形で行われました。

 2月17日朝、Aさんは、仮放免の延長手続きで出頭するために横浜入管に出かけました。Aさんの妻は、いつもと違って夫が入管からなかなか帰ってこないと心配していました。すると、昼頃、数人の入管職員が、手錠に腰縄をつけられた夫とともに家にやってきて、ビデオカメラで撮影しながら荷物を運び出しました。妻はパニックに陥り「手錠をはずしてください!」と叫んだそうですが、すると職員は手錠ははずし、「明日横浜入管に来れば面会できる。保証金の返還手続きもできるので書類を持ってくるように」と言ったそうです。そしてそのまま夫を連れ去って行ったということです。

 その後妻から私たちに連絡があり、支援者二人は翌日の妻の面会に同行することになりました。翌2月18日午前10時、妻と支援者は横浜入管に行き、収容されているはずのAさんに面会申請をしたところ、入管職員から「ここには居ない」と言われました。入管職員は、「説明する」と言って、妻、夫妻の友人、支援者を別室に呼びました。しかし、説明としては、「ここにはいない。どこにいるかは言えない。本人から連絡があるだろうから待て」というだけでした。知っているのになぜ言えないのか、心配している家族に居場所を伝えるのは当然ではないか、と強く言いましたが、結局「保安上の理由」「気持ちは分かるが業務上言えないことがある」等の答えしかありませんでした。妻はパニック状態に陥り、「どこにいるか教えてください!昨日、今日来れば面会できると言ったじゃないか!」と問い詰めましたが、「その職員が面会できると言ったのは一般的な話で、状況は変わることもある」と言う返答でした。その後、夜になってから、妻に、フィリピンにいるAさんから電話があり、無理やり送還されたことが確認されました。

 のちにフィリピンにいるAさん本人と電話で話したところ、Aさんは17日に、横浜入管で、他の被収容者と接触できない個室に収容されていたそうです。そして18日早朝4時ごろ、複数の入管職員が部屋に来て、Aさんを連れ出したそうです。Aさんの話では、その際、職員の一人は「だから言ったでしょ!」*注「絶対にやるよ!」「暴れないで!」などと叫んでいたということです。そして、9:30の便で、成田空港からマニラに強制送還されました。東日本入国管理センター(茨城県牛久市)に収容中だったフィリピン人男性も一緒に送還されました。

 10年以上一緒に暮らしていた人が、ある朝突然大勢の人に拉致され、どこにいるのか尋ねても、教えられない。結局その人は国外に無理やり連れ去られていた……これがどんなに酷い犯罪的行為であり、とてつもない人権侵害であるかということは、説明の必要がないでしょう。日本で働き、大切な人と一緒に暮らしてきたAさんが、このような仕打ちを受けるに値する、いったい何をしたというのでしょうか。どのような理屈や言葉を重ねてみても、こうした行為を正当化することはできない、ということを入管は認めなければなりません。Aさん夫妻が突然奪われてしまったものを取り返すことは不可能ですが、二度とこのような悲しみを生まないためには、入管行政そのものを根本的に変える他はありえません。

 最後に2013年7月のフィリピン人に対する一斉無理やり送還の際の当ブログの抗議声明の一部を再掲します[入管による一斉無理やり送還に抗議します - 仮放免者の会(PRAJ)(2013年7月6日)] 。

 入管は、ひとの生活、ひとの安全、ひとの人生をなんだとおもっているのでしょうか。日本社会が、非正規滞在のひともふくめて外国人の働き手を利用してきたこと、そのことに法務省の入管行政もいわば加担し共犯関係をむすんできたこと、そして、日本政府はご都合主義的な方針転換のもと、これらの非正規滞在者への摘発を急遽強化して、追いだしにかかったことについては、以下の記事でくわしく述べております。
  「労働力」として必要とみなしているうちは、「不法」状態に置いて利用するだけ利用し、不要とみなせば、まるでゴミでも捨てるかのように飛行機につめこんで追放しにかかる。このような、ひとをモノか家畜のようにあつかうような入管行政を、おわらせなければなりません。

注)「だから言ったでしょ!」
 仮放免者は毎月あるいは隔月などで入管に出頭し、仮放免期間延長の許可を得なければならない。その際、入管は『あなたには退去強制令書が出ているから、いつでも入管はあなたを飛行機に乗せることができるよ!あきらめて自分で帰りなさい』などと仮放免者に対して脅しをかけてくる。そういう仮放免者に対する入管行政のヤクザまがいの脅しが日常的にあるなかでの職員の発言。実際にこの職員自身が、出頭の際にAさんに脅しをかけていた可能性も高いと思われる。



 以下は申し入れ書です(申し入れ書原文にある個人名は変更してあります)。

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申 入 書
2016.2.24.
法務大臣 殿
法務省入国管理局長 殿
東京入国管理局横浜支局長 殿
関東仮放免者の会(PRAJ)神奈川
フィリピン人仮放免者の強制送還について
 フィリピン人仮放免者、Aさんが、2月17日、横浜支局への仮放免延長出頭時再収容され、翌日の2月18日、強制送還された。
 2月18日の朝、Aさんの妻が横浜支局に面会に訪れたが、「ここには居ない」とだけ告げられ、「保安上の理由」として、夫の居場所が教えられなかった。Aさんの妻は、夫が入管職員とともに一時帰宅してそのまま連れ去られてから、フィリピンから夫が電話してくるまで、まる一日以上夫の安否を確認できないという非常に不安な状態におかれた。
 私たちは、本人の意思に沿わない強制送還に反対であるが、とりわけ、Aさんは、20年以上の長期滞在者であり、10年以上同居していた妻がいた。今回の強制送還は、Aさんが長い間日本で築いてきた生活基盤を破壊し、愛する家族との関係を引き裂く、きわめて残酷な行為である。
 また、Aさんは、C型肝炎の診断を受け、フィリピンでの治療が困難であるという医師からの意見書も入管に提出されていた。送還は、生命に関わる重大な疾患の治療を強制的に中断させるものである。

 私たちは以下強く申し入れる。
(1)本人の意思に沿わない強制送還は行わないこと、とりわけ、Aさんのような日本に長期にわたって滞在しているもの、日本に家族がいるもの、日本で病気治療が必要なものの強制送還は絶対に行わないこと。
(2)被収容者の安否を、家族に速やかに確認させること。
以上

Sunday, March 13, 2016

入管収容施設の医療問題について――ロイター記事の紹介とリンク集

  ロイターが、入管の収容施設の医療問題について、鋭く切り込んだ記事を掲載しています。

  ロイターの報道は、おもに2014年11月の東京入管でのニクラスさん死亡事件の経緯と背景を追いながら、日本の入管収容施設がかかえる構造的な医療問題にせまったものです。先月の大阪入管での被収容者ハンストにもふれています。

  記事は、英語版と日本語版で、それぞれ長いものと短いものが1つずつ、合計4記事あります。綿密な取材にもとづいていることが一読してわかる力作です。ぜひ、ごらんください。





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  ほかに入管収容施設の医療問題にかんする記事等を紹介しておきます。

  仮放免者の会としては、入管であいついでいる死亡事件は、偶発的な「事故」ではなく、入管の収容のあり方がまねいた必然的な結果、起こるべきして起こった結果であるととらえています。医者ではない職員が診療の必要・不要を判断している、また、医師の独立性が確保されていないという根本的な欠陥を是正しないかぎり、今後また死亡事件がいつ起きても不思議ではないと考えます。



  ロイターも報じているとおり、入管の収容施設では2013年10月から14年11月までの1年あまりのあいだに4人の被収容者が死亡しています。ところが、4人ものひとをつぎつぎと死にいたらしめた東京入国管理局、および東日本入国管理センターでは、局長・所長をはじめ、だれひとりとして責任を問われて処分を受けた者はいません。おどろくべきことです。

  以下に紹介するのは、2013年10月14日のフセインさん死亡事件(東京入管)、2014年3月29日と30日のイラン人・カメルーン人連続死亡事件(東日本入管センター)、同年11月22日のニクルスさん死亡事件(東京入管)についての記事、弁護士会による声明等です。この間の死亡者4人とは、収容中の死亡にかぎった人数です。さらに、収容中に心身を痛めつけられ、入管に診療を拒否されていたひとが、施設を出所後に病死しているケースも存在します。こうしたケースをあわせて考えるならば、同じ期間内に「入管が殺した」と言うべき人数は、4人にはとどまらないはずだという点も、強調しておきたいです。


フセインさん死亡事件について



イラン人・カメルーン人連続死亡事件について



ニクラスさん死亡事件について




  ロイターの報道でもふれられていた、先日の大阪入管での被収容者ハンストについての記事を最後に紹介しておきます。