Tuesday, March 6, 2018

【抗議声明】ベトナムへのチャーター機での集団送還について


 先月に法務省がおこなったベトナムへの集団送還について、仮放免者の会として抗議声明を発表します。

 このチャーター機による集団送還については、2月16日の東京入管での申入れにおいても、抗議をおこないました。



 なお、移住連など9団体の連名での抗議声明も、すでに出されています。今回の送還についてくわしい状況を知ることができます。




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【抗議声明】ベトナムへのチャーター機での集団送還について

2018年3月6日

1.はじめに
 2月8日、法務省はベトナムに向けてチャーター機による集団送還をおこないました。
 各紙報道によると、法務省はこの集団送還について以下のとおり発表したとのことです。

 被送還者は、ベトナム人47名(男38人、女9人)で、年齢は8~49歳。滞在期間の最長は21年5カ月。約2600万円の費用がかかった。

 私たちは、本人の意思に反しての力づくでの送還に反対してきました。なかでもチャーター機を使っての集団送還については、被送還者の人数確保が目的化するなかで強引におこなわれる傾向が強くなるため、人権侵害がいっそう甚だしくなるものであり、これにはとりわけ強く反対してきました。

 今回の集団送還においても、こうした懸念は現実のものになりました。



2.送還による家族分離/長期滞在者の送還
 私たちが確認できた事例だけでも、日本人の配偶者のいる人が2名送還されました。送還によって家族を引き裂くことは、人権・人道上の観点から非常に問題であり、とうていこれを容認することはできません。送還されたふたりはもとより、日本に残された配偶者もそれぞれ生活を突然破壊されたことに大変に困惑しています。法務省には、本人からの申請がありしだい、送還された配偶者を呼び戻して日本でふたたび夫婦での生活を取り戻せるよう、必要な措置をとることを求めます。

 また、法務省発表では今回の被送還者の滞在期間の最長は21年5ヵ月であったとのことですが、日本での滞在が長期間にわたっていた人を本人の意思に反して送還することは、婚姻のケース同様、日本できずいてきた生活基盤や社会的な関係性から無理やりに引きはがすことにほかなりません。

 婚姻や長期滞在によって日本社会への定着性が高い人ほど、強制送還によって受ける不利益・損害は大きなものになります。強制送還という処分が、違反内容に対するペナルティとして過分に重すぎるということも起こりうるのです。家族、あるいは長く生きてきた親密な社会から絶たれ、自分の生きてきた人間関係・社会そのものを失うことは、超過滞在や不法就労、不法入国などの行為へのペナルティとしてあまりに重いものであり、違反内容に対する処分の重さのバランスをあきらかに欠いています。



3.難民申請者の送還
 2014、15、16年におこなわれた集団送還と同様、今回もまた、難民審査の異議申立(審査請求)棄却を通知された直後に身体を拘束され強制送還されるという事例がありました。

 今回の被送還者のひとり(「Aさん」とします)は、収容されていた東京入管において、送還前日(2月7日)の夕方に別室に呼ばれ、審査請求の棄却を通知されたうえで、不服であれば6ヵ月以内に難民不認定処分について取消訴訟を提起することのできるむね教示されたといいます。ところが、この教示をおこなった職員が退室すると、10名ほどの職員が入室してきてAさんの両脇をかかえて連行し、被送還者たちの集められたブロックの一室に押し込めたとのことです。Aさんは未明のうちに羽田空港へと連行され、ハノイ行きのチャーター機に乗せられてしまいました。

 チャーター機をもちいた集団送還においては、難民申請者に対するこのような手法での送還がくり返されてきました。異議申立(審査請求)棄却を通知してその直後に送還をおこなうという手法は、難民不認定という行政処分に対して訴訟の機会をうばうものです。

 2014年12月に集団送還されたスリランカ人のうち3名は、こうした異議申立棄却直後の強制送還によって裁判を受ける権利を侵害されたとして国家賠償請求訴訟を提起しております(1名は2016年8月2日に名古屋地裁に提訴、2名は17年10月19日東京地裁に提訴)。法務省はこのように今まさに裁判で係争中の送還の手法を今回もとったのであり、暴挙に暴挙をかさねたというべきです。



4.次年度の予算獲得と継続そのものの目的化
 チャーター機での送還は、法務省が「送還忌避者の専属輸送による送還経費」との名目で獲得した予算によりおこなわれているものです。ところが、今回送還された人のなかには、送還をこばむ「送還忌避者」とは言えない帰国希望者が相当数ふくまれていたことが、収容場で同室だった人などからの聞き取りで明らかになっています。

 帰国を希望しているものの旅費をみずから用意することが困難な送還対象者を国費で送還することについて、私たちとしては異議はありません。しかし、「送還忌避者」を送還する目的で予算を獲得している以上、これによって送還された人の何名が「送還忌避者」であったのか、すくなくとも法務省は公開すべきです。もともと帰国を希望していた人をも被送還者数に数え上げることによって、実績をいわば「水増し」するようなことは、適切だとは言えません。

 2013年に法務省がはじめたチャーター機による送還は、これを次年度も予算を獲得して継続していくということ自体が目的化しているふしがあります。当初、法務省はチャーター機の活用は「コスト、安全の両面で一石二鳥の方法」だとしていました。集団送還は、個別送還にくらべて被送還者ひとりあたりの費用を安くおさえられるというわけです。チャーター機の活用がはじまった2013年度予算の概算要求において、法務省は計200名を送還するための費用として3,000万円を計上していました。被送還者1人あたり15万円という計算になります。翌14年度もおなじです(ちなみに、15年以降は概算要求に被送還者数をどのくらいの規模で想定しているのか、法務省は明示しなくなりました)。ところが、予算の増減などはありましたが、法務省が当初想定したコストの抑制効果を実績は大きく裏切るかたちになっています。


  • 2013年7月6日  フィリピン人75名を送還
  • 2013年12月8日  タイ人46名を送還
  • 2014年12月18日  スリランカ人26名とベトナム人6名を送還
  • 2015年11月25日  バングラデシュ人22名を送還(3,500万円の経費。1人あたり約159万円
  • 2016年9月22日  スリランカ人30名を送還(3,700万円の経費。1人あたり約123万円)
  • 2017年2月20日  タイ人32名、ベトナム人10名、アフガニスタン人1名を送還
  • 2018年2月8日 ベトナム人47名を送還(2,600万円の経費。1人あたり約55万円)


 コスト面での「メリット」があるという当初の法務省の説明は、すでに説得力をうしなっているのです。法務省は、チャーター機に同乗させた「送還忌避者」とは言えない人たちまでも被送還者数に数え上げることでその実績を誇張するのではなく、次年度以降の継続はせめていったん白紙にもどして検討しなおすべきでしょう。



5.送還執行の強化では問題は解決しない
 また、近年大幅に増大した「送還忌避者」を減らしていく手段として、チャーター機を活用するという法務省の方針についても、見直すべきです。

 「送還忌避者」の増大は、とくに仮放免者数の増加としてあらわれています。退去強制令書を発付された仮放免者の人数の増加は、2010年以降に顕著になります。この増加は、政府が「不法滞在外国人の半減5か年計画」と位置づけた2004~08年の集中摘発に起因するものです。摘発された非正規滞在者の大多数は帰国していったものの、徹底的な摘発と強硬な送還方針は、一部のどうしても帰るに帰れない非正規滞在者の存在をあぶりだす結果になったのです。難民であったり、あるいは日本に家族がいる、滞在期間が長期にわたるといった事情をかかえる人たちのなかには、送還をこばみ、長期収容や再収容にたえ、2010年の西日本と東日本の両入管センターでたたかわれた被収容者によるハンガーストライキをへて、仮放免されていったひとも多かったのです。

 現象としてはこのような経緯で仮放免者が増加してきたわけですが、より本質的にみるならば、バブル期以来の外国人労働者政策に問題の根本をみることができます。外国人労働者を導入する場合、その一定数が日本社会に定着・定住していくことになるのは必然です。ところが、この定着・定住のプロセスを予想・想定した外国人労働者受け入れ政策が日本政府によってとられることはありませんでした。それどころか、外国人の定着・定住を徹底的に忌避しようとする意思が日本政府の制度設計・制度運用においては働いていたとすらいえます。そのことがはっきりとあらわれているのが、日本政府が外国人労働者の受け入れについて「専門的な知識、技術、技能を有する外国人」に限定するという制度的な建前を公式上はかたくなに保持してきたということです。ところが、こうした建前とはうらはらに、日本社会は非専門的な分野においても、非正規滞在者をふくむ外国人労働者に大きく依存してきたのです。

 2004年に始まる集中的な摘発は、入管はともかく警察は以前にはあきらかにその存在を黙認してきた非正規滞在者に対して、「不法滞在」を理由に徹底的な排除をくわだてるものでした。ところが、これによって多くの人が摘発・送還される一方で(法務省統計によると、不法残留者数は2004年の219,418人から2009年には113,072人までまさに「5か年」で「半減」しています)、先に述べたように帰国しようにも帰国できない人たちの存在をあぶりだしたのです。その帰国できない事情は人によりさまざまですが、多くの「送還忌避者」に共通する要素が、すでに日本社会に定着・定住していたということでした。

 つまりは、摘発・送還によって日本政府が力ずくでの排除を強化していったさきに、かえって増大していったのが法務省の言うところの「送還忌避者」にほかなりません。その増大の要因の根本には、場当たり的で矛盾にみちた外国人労働者導入政策があるのです。

 「送還忌避者」を力ずくで減らしていこうという方針は、仮放免者数がもはや3,000人をこえている現状にかんがみても、すでに破綻しているものと言わざるをえません。この破綻した方針に固執することは、帰国しようにも帰国できない人をただいたずらに苦しめることにしかなりません。チャーター機による集団送還、そして再収容(再々収容)や長期収容といった送還執行の強化ではなく、仮放免者の在留を合法化していく(在留特別許可)ということでのみ、「送還忌避者」の問題を解決にむかわせることが可能です。



6.元技能実習生・元留学生の送還
 さて、今回ベトナムに送還された人のなかには、技能実習生や留学生として来日した人が多数ふくまれていました。

 技能実習制度は、公式的には、技能実習を通じて開発途上国への技術移転をおこない日本として国際貢献をおこなうという趣旨の制度です。しかし、実態としては、この本来の名目は完全に形骸化しており、労働力不足に直面している中小零細の製造業や農業などにおいて労働力確保の手段となっています。つまり、この制度は、「専門的な知識、技術、技能を有する外国人」以外の外国人労働者は受け入れないという建前をかいくぐって脱法的に外国人労働者を導入する手段として利用されているのです。

 技能実習生の多くは、劣悪な労働環境において低賃金で働いており、雇用主からの暴力や暴言を受けている人も少なくありません。ところが、こうしたあつかいにたえかねて実習先を離れれば、在留資格の更新ができなくなり、「不法滞在」「不法就労」として入管の摘発の対象になってしまいます。

 留学についても、非専門分野での外国人労働者は受け入れないという制度的な建前があるなかで外国人労働力を必要とし、またこれに依存している職場が存在し、労働力めあてで留学生を日本に呼び込むということが現におこなわれています。

 入管に摘発されたベトナム人元留学生に聞き取りをおこなうと、その多くは、現地のブローカーから、日本に行けば勉学をしながら生活費と学費をまかなえるだけの仕事ができると誘われて来日したといいます。また、そのさいに留学の在留資格では週28時間をこえる労働は許可されないことなどは事前に知らされていなかったという例もしばしばです。実家からの仕送りをあてにできない多くのベトナムなどの留学生は、学費と自身の生活費を捻出するために許可された労働時間をこえていわば「違法に」働かざるをえないのです。そうしたなかで、学業との両立がかなわずに、あるいは学費を支払えずに、専門学校や大学をやめざるをえず、在留資格をうしなう人も少なくありません。

 こうして入管の摘発対象になった元技能実習生や元留学生もまた、日本の場当たり的で矛盾にみちた外国人労働者政策の犠牲者であるということができます。つまり、外国人労働者を正面から受け入れるのではなく、場当たり的に呼び込んでは不安定な地位に置きながら安価な労働力として利用するということを、官民ぐるみでいまなお続けていることが、あらたな「送還忌避者」を生み出す要因になっているのです。



7.結語
 以上みてきたように、「送還忌避者」の増大という問題は、外国人労働者や難民受け入れをめぐる政策・制度の不備やゆがみの反映にほかなりません。こうした政策・制度が生じさせている問題を、力ずくでの送還というかたちで送還される外国人にもっぱら負わせるのは、公正さをいちじるしく欠いています。無理やりの送還、とりわけチャーター機を活用した集団送還を今後おこなわないよう、もとめます。

仮放免者の会