Friday, February 13, 2015

【転載】大阪入管に支援5団体が申入書「死亡者がいつ出ても不思議ではない危機的な状況」


  大阪入国管理局の医療処遇の問題をめぐり、支援5団体が1月27日に申し入れをおこないました。大阪入管局長あての申入書を転載します(転載にあたって、被収容者の名前を匿名にし、国籍のわかる記述を削除しました)。

  申入書は、大阪入管において、医師の診察なしでの投薬や医療行為の横行、被収容者への懲罰的な隔離処分(この人は隔離後、200をこえる血圧の数値が測定されたにもかかわらず、大阪入管は隔離を続行した)、医療放置などの事例を指摘しています。そのうえで、申入書は、事例としてあげた被収容者3名について外部診療機関での受診を早急にみとめること、また、支援者側との協議・意見交換に応じることを、大阪入管にもとめています。


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申  入  書

大阪入国管理局長 伊東勝章様
2015年1月27日


  入国管理局の収容所・収容場で、被収容者が病死する事件があいついでいる。

  東京入国管理局では、2013年10月14日にロヒンギャ民族の男性が、2014年11月22日にはスリランカ人男性が、いずれも入管局の医療放置によって死亡した。東日本入国管理センターでは、2014年3月29日にイラン人男性が、翌30日にカメルーン人男性が、あいついで病死している。

  私たちは、被収容者との面会等を通じて貴局の医療面での処遇・診療の実態について調査をおこなってきたが、大阪入国管理局の収容場もまた、現状を放置するならば死亡者がいつ出ても不思議ではない危機的な状況にあると認識している。本申入書で具体的に指摘しているとおり、病人に対する医療放置、医師による診察を経ない医療行為の横行、医師の職業倫理の退廃など、貴局の医療体制は破綻していると言ってよい現状である。昨年より西日本入国管理センターへの移収が停止し、貴局での収容が長期化している傾向も考えると、現状の医療体制を早急に見直しその改善に着手しなければ、貴局でも被収容者の死亡事件が起こる蓋然性が高いと危惧している。

  医療に関する処遇の改善に取り組み、取り返しのつかない事件を未然に防止することは、貴局にとっても重大な課題であるはずだ。われわれ支援者側としても、情報提供・意見提示等を通じてこれに協力する用意がある。われわれ支援者側との協議・意見交換に応じるよう求める。

  以下、私たちが調査した貴局の医療について報告する。



1  Aさんのケース

  Aさんは高血圧症である。2014年6月25日の入所以来、血圧の測定値が上で200をこえることもたびたびである。

  ところが、貴局はAさん本人の再三の要請にもかかわらず、外部診療期間での診療をみとめず、内勤医による診察なしに処方された投薬治療がなされているのみである。そのうえ、上が200をこえる血圧が測定されているにもかかわらず、Aさんに対し懲罰的な隔離をおこなうなど、貴局は被収容者の生命を最優先に配慮しているとはとうてい思えない措置すらおこなっている。


1-1  医療放置および無診療投薬

  保有個人情報開示請求によって貴局が開示した資料によると、Aさんについて2014年6月26日から同10月21日まで14通の「被収容者診療簿」が作成されている。このうち、外部診療機関での2回の診療をのぞいた12回が、局内での診療に関するものである。Aさん本人からの聞き取りによると、この12回分の「被収容者診療簿」のうち、実際に診療があったのは4回(7月1日、7月8日、8月12日、10月7日)である。ほかに診療簿の作成されている8回分(8月5日、9月2日、9月5日、9月12日、9月26日、9月30日、10月10日、10月21日)については、Aさんは「医者に会っていない」と証言している。

  第1に、医師による診療のおこなわれていない日付についてなぜ「診療簿」が作成されているのか、不可解である。

  第2に、これらの資料およびAさんの証言から、医師法第20条の禁止する無診療投薬にあたる行為がおこなわれているものとおもわれる。上記の医師による診療の実態がないにもかかわらず作成されている8通の診療簿のうち7通に、「内服薬継続」(8月5日、9月5日および9月26日)「内服薬処方」(9月2日)「内服薬変更」(9月12日)「内服薬中止・追加」(9月30日)「吸入薬継続」(10月21日)との記載がある。これらは、医師が患者を直接診ることなく、投薬の処方・継続・中止の判断がおこなわれている実態を示している。

  10月8日の診療記録「経過・処方および措置」の欄には、 看護師のものとおもわれる筆跡で服薬や血圧測定値についての記述があり、「上記、医師に連絡。現在の3剤処方からアムロジピンの1剤のみの投与との指示。」と記載されている。患者の状態について看護師から「連絡」を受けた医師が投薬の「指示」をおこなっている、つまり医師による診察なしに投薬がなされていることはあきらかである。

  さらに、Aさんの証言によると、昨年6月下旬の入所以来、今年1月9日時点で、看護師と面会したのは1回きりであるという。血圧測定値や患者本人の訴えを、医療従事者ですらない処遇担当の職員(入国警備官)が看護師または医師に報告し、これを受けて医師が投薬の判断をおこなうということが、貴局では横行している証左である。

  こうして医師が診察をせずに投薬のみを続けている状況にあって、Aさんの症状は改善されておらず、血圧が200をこえる数値をたびたび測定されている。最近でも、1月8日の10時16分の血圧および脈拍の測定値は、197/102(92)であった。高血圧の原因についての説明もないため、Aさん本人としても非常な不安を感じている。

  症状についての説明もなく、ただ薬だけが出てくる、しかもその投薬は診察なしでなされているということでは、貴局の医師を信用・信頼するわけにいかないのは当然である。適切な治療方針を定めるためにも、また、Aさんの生命の安全の観点から本当に問題ないと言えるのか判断するためにも、貴局の医師ではなく、まっとうな職業倫理をもった医師による診察が不可欠である。貴局は、Aさんの再三の申し出を受け入れ、外部診療機関での診察を受けさせるべきである。


1-2  懲罰としての隔離処分

  貴局は、Aさんに対し、2度の隔離処分をおこなっている。
1度目は、2014年10月6日から同9日までの4日間である。Aさんによると、6日の14時30分ごろに職員から、隔離するむねを告げられ、その理由として「勝手に部屋から荷物を出したこと」「大きな声を出したこと」であるとの説明を受けたという。また、職員は隔離に際して「懲罰だ」との発言をおこなったという。

  Aさんは、隔離後、血圧が上昇し、17時ごろに具合が悪くなり倒れている。このときの感覚を、Aさんは「手の中指、薬指、小指3本の感覚がなくなり、体から魂がぬけていく感じがした。これで自分は死ぬのだと思った」と述べている。

  Aさんの作成したメモによると、10月6日の独居房に隔離された後の血圧(上/下)および脈拍の測定値は以下のとおりである。

①15:31計測  186/94(102)
②17:08計測  181/97(92)
③17:10計測  201/122(133)

  きわめて血圧の高い状態であり、しかもAさんは上記の症状を職員にうったえたにもかかわらず、貴局は隔離を中止する措置をとらなかった。

  2度目の隔離は、11月6日から8日の2日間である。その経緯は、Aさんの証言によると、以下のとおりである。

  高血圧症について外部診療機関での診療をもとめて提出していた申出書に関し、6日の朝、取調室において「認めない」との回答が口頭でなされた。Aさんは、診療を認めない理由の説明を職員に求めたが、職員は「これ以上説明しない」と述べるのみで、いっさいの理由の説明を拒否した。Aさんはこれに納得できなかったので、「なんでや?」「ここの医者はやぶ医者や」などと抗議した。すると、取調室の外で待機していた者たちをふくめ20人ほどの職員が、Aさんの足・腰・手をつかみ、体を高く持ち上げて、連行した。Aさんは「あなたたちには懲罰をする権利はありません」と職員たちにむかって述べたが[後述のように、この主張は完全に正当なものである]、職員たちは無理やり連行し、Aさんを独居房に閉じ込めた。

  開示請求によって開示された「隔離言渡書」には、「隔離理由」がつぎのとおり記載されている。

平成26年11月6日9時12分、A区域調室(2)において、同人に対し、××[墨塗り]警備士が診療に関する申出書の不許可告知を行った。同人は「なんでや。なんでや。頭痛いって言っている。あの医者はやぶ医者や。」などと大声で話し続けたため、同19分、看守責任者が「大声を出すな。下の階に行くことになる。警告だ。」と申し向けて同行為の中止を命じたが、同人はこれに従わず、「あなたに懲罰する権利はない。」などと大声を出し続け、もって、職員の職務執行に反抗したものである。

  1回目の隔離時と同様、隔離後にAさんの血圧はきわめて高い数値が測定されている。11月6日に9時19分の隔離後、血圧(上/下)および脈拍の測定値は同日17時10分の測定で214/110(119)、この直後に測りなおした数値も218/115(116)、同21時43分の測定値が204/119(90)と、いずれも200を超える測定値が出ている。貴局は、「隔離言渡書」に記載された11月10日までの隔離期限より早い8日に隔離処分を解いたとはいえ、このような生命にもかかわる危険な数値の出ている人を、2日間にわたって隔離し続けた。

  2回の隔離において、いずれも隔離後にAさんの血圧は200をこえるほどに上昇している。貴局がこのような状態を認識しながらも、ただちに隔離処分を中止する措置をとらなかったことは、いちじるしい人命軽視と言うべきである。

  また、貴局は、Aさんに対してあきらかに懲罰的に2度の隔離をおこなっており、これら隔離処分には正当性はない。

  法務省令「被収容者処遇規則」は、被収容者の隔離について、次のように定めている。

第十八条  所長等は、被収容者が次の各号の一に該当する行為をし、又はこれを企て、通謀し、あおり、そそのかし若しくは援助した場合は、期限を定め、その者を他の被収容者から隔離することができる。この場合において、所長等は、当該期限にかかわらず、隔離の必要がなくなつたときは、直ちにその隔離を中止しなければならない。
  一  逃走、暴行、器物損壊その他刑罰法令に触れる行為をすること。
  二  職員の職務執行に反抗し、又はこれを妨害すること。
  三  自殺又は自損すること。
2  前項に規定する場合において、所長等の命令を受けるいとまがないときは、入国警備官は、自ら当該被収容者を他の被収容者から隔離することができる。
3  入国警備官は、前項の規定による隔離を行つたときは、速やかに所長等に報告しなければならない。

「隔離言渡書」は、Aさんに対する2度の隔離処分について、その適用条文は第18条第1項第2号であるとしている。つまり、Aさんの行為が、「職員の職務執行に反抗し、又はこれを妨害すること」にあたるとしている。また、「隔離言渡書」は2回の隔離いずれについても、Aさんが「職員の職務執行に反抗した」ことを「隔離理由」としている。

  収容場内の秩序と被収容者および職員の安全を守るために、被収容者の「反抗」に対する実力行使が一定程度みとめられるべきなのだとしても、そうした権限が無制限・無条件にみとめられるものではないはずである。被収容者が職員にたんに「反抗」したという事実、あるいは職員が被収容者の行為を「反抗」とみなしたという事実のみによって、隔離という被収容者の身体への暴力行為が正当かつ必要なものとみとめられるとは、とうてい考えられないからである。

  Aさんは、2度の隔離処分のいずれにおいても、これに先立って職員に対する物理的な暴力をいっさいふるっていないし、また、物理的暴力が予想されると判断しうる言動もおこなっていない。「隔離言渡書」の「隔離理由」にも、Aさんが「大声」を出したこと、職員の職務執行に「反抗」したこと等についての記載はあっても、隔離が必要とみとめられる理由は書かれていない。

  したがって、貴局によるAさんに対する2度の隔離処分は、Aさん本人への威圧・威嚇と他の被収容者への見せしめ、ひいてはAさんを含む被収容者全体を萎縮させ屈服・服従させることを目的とした懲罰的・制裁的行為であると考えるよりほかない。この疑念は、1回目の隔離において職員が「懲罰だ」との発言をおこなった事実、また、2回目の隔離においては、物理的な暴力をいっさいふるっていないAさんひとりを独居房に連行するのに約20人もの職員を動員している事実によって、いっそう強くいだかざるをえないものである。

  入国警備官は、法令によって被収容者を収容してその身体を拘束し、また、被収容者に対して違反行為の中止を命じ、従わない場合は制止・隔離等の措置をおこなう権限をあたえられている。いわば、法令によって一定の物理的暴力をふるう権限がみとめられているのである。こうした強い立場にある入国警備官に対し、被収容者はその物理的暴力がただちに違法行為にあたるとみなされるのであって、言うならば武装した警備官に丸腰同然で対峙しているようなものである。したがって、入国警備官が実力行使の権限をふるうにあったっては、慎重のうえにも慎重さがもとめられるのである。

  収容場の処遇等について抗議するにあたって、Aさんが大声を出したり、私物を居室外に出して帰室を拒否する姿勢を示していたとしても、それらはあくまでも非暴力的な手段による抗議である。また、先にとおり、「被収容者処遇規則」は、「懲罰」目的での隔離の権限を入国警備官にみとめていない。

  2度にわたるこのたびの隔離処分は、非暴力的なAさんの抗議に対して物理的な暴力をもちいて制圧におよんだものであって、過剰な対応である。また、あきらかに懲罰・制裁を目的とした行為であり、そこに正当性はない。



2  Bさんのケース

  Bさんは2014年8月6日に入所し、同9月ごろから膀胱の痛み、足のむくみ、残尿感の症状が出ている。同11月以来、右足のひざの裏にしびれがあり、右足をひざから曲げるのが困難な状態である。投薬治療のほか、看護師の指示のとおり、食事において塩分摂取をひかえているが、症状は改善していない。12月の初旬には、イスに座るのが困難なほどの膀胱付近の強い痛みをうったえている。同20日ごろには、膀胱に針を刺しているような痛みがあったとうったえている。


2-1  医師抜きでの診療行為

  Bさんは、再三、診療の申し出をおこなっているが、上記の症状についての診察は11月14日の1回のみである。

  医師による診察に先立ち、9月24日に看護師がBさんに面会をおこなっている。看護師は「問診」と尿検査をおこない、Bさんに対し、塩分摂取をひかえるようにとの指示をおこなっている。個人情報開示請求により開示された「診療記録」には、看護師のものと思われる筆跡で血圧測定値・尿検査結果・体重測定値が記録され、さらに以下の記載がある。

むくみの原因は、塩分摂取↑↑が大きいと説明。
1wk減塩食、スープ、みそ汁抜きにて経過観察。
むくみ消退しなければ診療へ。
問診時、本人『ラーメン食べたことない』

  以上の「診療記録」の記載内容から、貴局の医療の問題をいくつか指摘できる。

  第1に、看護師が事実上の診療行為をおこなっていることである。医師抜きで看護師によって「問診」がおこなわれ、検査等の結果が解釈され、患者に対して症状の原因の「説明」がなされ、さらに当面の治療方針(食事療法)が決定されている。

  第2に問題なのは、看護師が「むくみ消退しなければ診療へ」として、医師による診療の可否・要不要を判断していることである。これによって、患者本人が医師に自身の症状を説明し、自身の意思で診察を受ける権利が侵害されている。診療が必要かどうかは、患者が決めることであって、看護師が勝手に決めてよいことではない。

  このように、医師の診察なしに事実上の診療行為がおこなわれることは、誤った判断のもと医療がおこなわれたり、また、患者が深刻な病気にかかっている場合にその発見が遅れたりといった危険がある。患者の心理的な不安も大きい。


2-2  患者の利益を考慮しない医師

  上記の看護師による「問診」があった日から51日経過した11月14日に、ようやくBさんに対して医師による診察がおこなわれた。Bさんによると、このとき、医師は問診のほか尿検査をおこない、「腎臓はわるくない」「太っているからそれが原因」としたうえで、「出てから自分で病院に行かないといけない」「ここでは[治療は]できない」と発言したとのことである。

  医師からBさんの症状について原因は説明されていない。「太っているからそれが原因」というだけでは、一般的すぎて原因の説明にはまったくなっていない。「太っている」人の大多数は、同様の症状が生じていないからである。

  原因がわからず、必要な治療手段が講じられないのであれば、医師は適切な診療機関・専門医を紹介し、患者をこれにつなぐべきである。医師が最優先に考えるべきなのは、患者の健康上の利益であって、入国管理局側の退去強制執行等の業務上の都合ではないからである。局内での診療でできることに限界があるならば、医師は入管に対して外部診療を進言すべきであるし、なんらかの事情で外部受診すら困難だというのであれば、仮放免等によって出所させるよう入管に意見すべきなのである。

  ところが、医師は「出てから自分で病院に行かないといけない」「ここでは[治療は]できない」などと言って、Bさんがいま必要とする治療を受けられるようとりはからう責任を放棄し、それどころか、そうした治療の中断した現状をあきらめて甘受するよう患者にうながすことさえしている。もはや、医師というよりも入管業務の下働きとでも言うべき行為で、医師としての適性・資質を強く疑わざるをえない。


2-3  医療放置と無診療投薬

  上記の症状に関して、11月14日の診察時にサワダロン錠200mgが貴局診療室より処方されている。Bさんがこのとき受け取った「あなたのお薬リスト」によると、このとき処方されたのは14日分である。ところが、以後、一度も医師の診察がなくこの薬の投薬が続いていると、Bさんは証言している(2015年1月16日現在)。これは、この間、医師の診察なしに投薬継続の判断がなされているということである。

  Bさんは、くりかえし外部診療の申出書を提出している。最近では、2014年12月12日に申出書を出し、同16日に不許可の告知がなされた。不許可告知をおこなった職員は、「何もできない、病院に連れていかない」との発言をおこなったという。

  同22日にBさんがまた外部診療の申出書を出したところ、職員はこれを受け取る際に「書いても意味はない、変わらない」と発言したとのことである。さらに、このとき同職員はBさんに対し「これ以上、治療はできません」と述べたうえで、病名を「前立腺肥大」であると告知したという。

  病名の告知が、医師の診察時になされず(すくなくとも、Bさんが理解できるかたちでの告知はなされていない)、診察から1ヶ月以上経過してから、医療従事者ではない職員によってなされたという事実は、どう理解したらよいのだろうか。11月の診察時に「前立腺肥大」との診断がすでになされていたのだとすれば、医師がBさんにこれを説明することをおこたったということである。11月の診察時にまだこの診断がなされていなかったのだとするならば、(その後、診察はおこなわれていないわけだから)医師は直接の診察をおこなうことなく、職員または看護師からの報告のみをもとに診断をくだしたことになる。

  さらに、泌尿器科の診察・検査なしに、「前立腺肥大」との診断がなされていることも不可解である。旭化成ファーマ株式会社のウェブサイトの「前立腺肥大症の検査と治療」と題されたページ( https://www.asahikasei-pharma.co.jp/health/prostate/inspection.html )によると、「必ず行う検査」として、以下7つの検査項目があげられている。

【1】自覚症状の評価、【2】直腸内指診、【3】尿検査、【4】尿流測定、【5】残尿測定、【6】血清PSA(前立腺特異抗原)測定、【7】前立腺超音波検査


  このうち、Bさんは少なくとも【2】【4】【5】【6】【7】の5項目の検査を受けていない。「前立腺肥大」との診断を確定するにあたって必要な診察・検査が十分になされたとは、とうてい思えない。それとも、職員が告知した「前立腺肥大」との診断は、確定された診断ではなく、「その疑いがある」ということなのだろうか。いずれにしても、泌尿器科での診察・検査は不可欠であり、これをおこたっている貴局は、診療の必要な患者を放置し続けているものと言わざるをえない。

  貴局は、Bさんに対し、「前立腺肥大」という病名を職員を通じて伝えたのみで、その診断の詳細・根拠・必要とされる治療などの説明をいっさいおこなっていない。そのうえ、今以上の治療をおこなわないむね宣告している。これらの行為は、体調不良を訴え、診療をもとめる被収容者に対し、病状についての医学的評価を具体的に伝えることなく、現在にいたるまで症状の改善のみられない投薬以外には、なんら診察も治療もおこなう意思がないと宣告しているにひとしく、身体的・精神的な拷問をくわえているのと変わらない。



3  Cさんのケース

  Cさんは、2014年8月27日に入所。入所前から、胸焼け、吐き気、激しい胃痛の症状になやまされ、治療を受ける予定であった。しかし、大阪入管に収容された後、貴局が本人の外部診療機関での受診の申出を拒否し続けているために、本人の望む治療を受けられていない。症状がひどいときには、胃の中をバンドで引っ張られているような感覚がし、1日に4回はいたこともあったという。嘔吐したときに、職員が写真を撮りに来るが「ちゃんと[上に]伝えておきます」と言うのみで、この症状について外部診療機関での受診は1度も認められていない。局内での受診もこれまで2回のみである。投薬による治療はなされているが、症状は改善していないと本人は言う。


3-1  「手術が必要」な患者を放置
  Cさんは、上記の症状をうったえ、9月ごろに貴局の診療室で医師による診察を受けている。Cさんによると、このとき医師は問診をおこない、またCさんをベッドに寝かせ、腹部等の触診をおこなった。医師はCさんに対し「これは薬ではなおらへん」「ここではむり、治らない」「なおそうと思ったら手術が必要」と述べたが、病名や病状、原因の説明はまったくおこなわなかったという。

  まず、重要な問題は、医師は「ここではむり、治らない」と判断したにもかかわらず、医師は外部の専門医を受診させるなど、患者の治療・治癒に必要な手段を講ずることをみずから放棄している点である。患者に最善の医療を提供する、あるいは患者がそれを受けられるように適切な専門医・診療機関につなぐという、医療従事者としての責任を公然と放り投げているのである。

  また、この医師は、Cさんに対し病状の深刻さをほのめかすのみで、原因や病状について具体的な説明をおこなっていない。患者にとって、一応の診察を受けながらも、自身の病状についての医学的評価を知らされずに放置されるのは、当然ながら大変に不安なものである。医師がこうしたことに想像がおよばないのであれば、医師としての資質・適性にいちじるしく欠けると言わざるをえないし、これを意識しながら患者をこのような状態に置いているのであれば、その仕打ちは意図的な虐待と言うべきものである。


3-2  診察もせずに詐病あつかい

  胸焼けや胃痛の症状について2回目の診療は、12月9日である。このとき、医師はCさんの話を聞くこともせずに、一方的に詐病と決めつけた。

  Cさんによると、医師は、Cさんが診療室に入るなり、一言を発する間をあたえずに以下のようにまくしたてたという。「胃が悪いのに体重が増えた」「きみはもう半年で10kg増えていますね。これは医学的にありえない」「I'm professional」。さらに医師は、Cさんがたびたび嘔吐していることについても、「吐こうと思ったら[口に手をつっこむなどすれば]だれでも吐ける」と、Cさんが詐病をおこなっていると決めつける発言をしたという。

  医師がCさんは詐病だと判断するなら、9月の診察での「これは薬ではなおらへん」「なおそうと思ったら手術が必要」などの発言はなんだったのか。いいかげんな出まかせをしゃべっていたのか、誤診であったのか、いずれかである。

  12月9日の診察において、医師は触診や検査はおろか、Cさんの話を聞いてすらいない。体重が増えているということのみを根拠に、Cさんが体調不良をいつわっているとしているのである。Cさんと面会してきたわれわれ支援者には、かれが苦痛を訴えているのがウソだとは思えないが、かりに詐病が疑われるのだとしても、医師がまずなすべきなのは、診察をすることであろう。医者としてプロフェッショナルだとの自負があるならば、患者の話を聞き、必要に応じて検査などをしたうえで、もし健康面で深刻視すべき状態にないことがあきらかならば、そのことをていねいに説明して患者の不安をとりのぞくようつとめるべきである。問診すらせずに、患者にむかって頭ごなしに詐病だと決めつけるような者は、医師として不適格である。



4  まとめ

  以上をふまえ、以下、申し入れる。

(1)上で事例にあげた3名(Aさん、Bさん、Cさん)について、早急に外部診療機関で受診させること。これができないのであれば、早急に仮放免等により出所させ、本人が自分で受診できるようにすること。

(2)上にあげた事例について調査をおこない、私たちの指摘した事実関係に誤りや調査で確認できないた事項等があれば、文書もしくは口頭にて説明されたい。説明そのものをいっさい拒否するのであれば、貴局は本申入書が述べた事実関係について異議がないものとみなす。

(3)医療問題をはじめ被収容者の処遇について、貴局とわれわれ支援者側とのあいだで協議・意見交換の場をもつことを求める。



申し入れ団体
WITH(西日本入管センターを考える会)
強制送還と人権を考えるネットワーク
TRY(外国人労働者・難民と共に歩む会)
難民支援コーディネーターズ・関西
難民支援団体ピースバード



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  転載は以上です。
  支援団体の申入書に対して大阪入管からは、2月6日に、口頭で局としての以下のような回答がありました。


  • 医療等の処遇に対する問題があれば、被収容者本人が申し出る仕組みがある。申し出のための用紙も用意している。
  • 収容場にもうけられた意見箱に投書することで、担当の職員に見られないかたちで申し出ることもできるし、また、男性の職員に見られたくないということであれば、女性の職員が対応する仕組みもある。
  • さらに第三者機関である入国者収容所等視察委員会の調査もあり、実際に委員が被収容者に自由に意見を聞き取りし、その報告・勧告をもとに処遇を改善してもいる。
  • これらの仕組みの中で、処遇はしっかりやってる。特定の支援者・支援団体の申し入れに回答したり、協議・意見交換の場をもったりすることはしない。


  ところが、こうしたもろもろの仕組みが十分に機能していない、あるいは仕組みそのものが十分でないからこそ、被収容者たちは面会などをとおして支援者たちに対し、申入書に述べられているような問題をうったえていると言えるのではないでしょうか。

  大阪入管の収容場の医療は、切迫した危険な状況にあるといえます。大阪近郊にお住まいのかたで、不定期にでも大阪入管(大阪市住之江区)まで足をはこべるかたは、収容された人との面会活動に参加していただければと思います(面会申請できる時間は平日の9:00~16:00まで)。この、外部からの目が届きにくい施設に収容された人々と、外にいる者がもっとつながりをつくっていくことが必要です。問い合わせは、以下までおねがいします。

問い合わせ先
  ながい(仮放免者の会)  電話:090-2910-6490



【関連】
  関東でも面会活動への参加者をつのっています。

  昨年11月にも、支援団体が大阪入管に申し入れをおこなっています。

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