Wednesday, June 15, 2016

ウソだらけの入管広報


  法務省入国管理局のウェブサイトに、「収容施設について(収容施設の処遇)」と題されたページがあります。収容施設(入国者収容所や地方入管局の収容)の設備や食事、健康管理について、写真つきで紹介したものです。

http://www.immi-moj.go.jp/tetuduki/taikyo/shisetsu.html

  このページによると、「[被収容者は]保安上支障がない範囲内において,できる限りの自由が与えられ,その属する国の風俗習慣,生活様式を尊重されてい」るのだといいます。ここでの説明文や写真のとおりなのだとすれば、入管は被収容者の人権を尊重しようとしているようにはみえます。

  ところが、実際に各収容施設に収容されている方々に面会などをとおして私たちがふだん聞いている話は、この入管の広報とはだいぶ食い違っているのです。実際のところはどうなのでしょうか。

  そこで、収容されている方々に聞いてみることにしました。今回、調査に協力していただいたのは大阪入国管理局(大阪市住之江区)の被収容者34名です。

  法務省入国管理局の先のページを印刷したものを大阪入管の2つのブロック(A, Bブロック)に差し入れました。法務省の説明・写真のどこが正しく、またどこが実態とはちがうのか、被収容者間で話し合って、具体的に指摘してもらうためです。その討議した内容を、それぞれのブロックの代表者がまとめたメモを、以下に公表していきます。



1.食事について

  まず、食事についてはどうでしょうか。Bブロックの回答は、給食の分量・カロリーが実際はすくないといいます。(写真はクリックすると大きくなります)

  ここで出ている食事は写真とまったく違います。
  入管はウェブサイトで食事は2200~3000キロカロリーの弁当を出していると書いていますがそんなのはまったくうそです。弁当のおかずはいつもインスタントのおかずでカロリーはとても低いです。このような弁当を長期間にわたって食べているととても健康的に不安です。ここの弁当のカロリー低いのが機械が無くてもおなかの具合でわかります。
  私たちは一社会人として外で生活をしていたから、ここの弁当がカロリー低いのが自信をもって言えます。あとここの担当さんにこの弁当はなんキロカロリーですかってたずねても絶対に教えてくれませんでした。(Bブロック)

  Aブロックの回答は以下のとおりです。


朝食について
  じっさいはあさごはんにはこのパンはでていません。ここにでているパンはまずいかたい食パンです。
昼食について
  この昼食もぜんぜんちがいます。ここのごはんはかたいです。サラダも毎日同じです。サラダはキャベツだけ。
夕食について
  これも[昼食と]一緒です。(Aブロック)


  収容されているある男性にこの入管のサイトの写真を見てもらったところ、そこに写っているサケの切り身についてこう言っていました。「入管に来てからこんなに大きな魚を見たことがない。大阪入管では、[写真の]この大きさの魚は4人ぶんです」「ハンバーグもずっと小さい」と。

  食事が足りなくておなかがすく、お金がある人は自費でカップラーメンなどを買って食べられるからまだよいが、お金がないひとはずっとおなかをすかせている。こういった声は、複数の、とくに男性被収容者から聞きます。現代の日本社会において、総体としては食糧はあまっており、毎日大量の食品が廃棄されているわけです。ところが、その日本で国が運営している施設が、入所者にひもじい思いをさせているのです。



2.診療について

今までだれ1人診察を受けていないからここがどこだかわかりません。医師や看護師が常駐しているんですか。
もうどこまで入管がうそを書けば気がすむのですか。(Bブロック)
レントゲン室がないです。(Aブロック)


  ここで指摘されているとおり、「医師及び看護師が常駐し、被収容者の診療に当たっており」というのは「うそ」です。大阪入管(被収容者数約70~90名)の場合、医師が診療をおこなっているのは週2回のみで、被収容者が希望しても、診療を受けられることはほとんどありません。

  大阪だけでなく、各地の入管収容施設で医師を常駐させている施設はそもそも存在しません。「常駐」という言葉の意味をかりに非常にせまくとって、「土日祝日以外の平日の昼間のみ常駐している」というふうに解釈したとしても、どの施設もこの条件をみたしていません。なにしろ、常勤医のいる施設なんかないのです。

「被収容者の心情安定を図るため、臨床心理士によるカウンセリングを実施しています」というのも、真っ赤なうそです。大阪入管では、収容が長期化している3人(約1年~1年半)が、それぞれ強い不安感や情緒の大きな起伏をうったえてカウンセリングの実施を求める申出書を出しましたが、先月3人とも大阪入管からあいついで「不許可」の告知を受けました。告知のさい、職員から「ここはそういう場所ではありません」との説明があったそうです。つまり、大阪入管は、カウンセリングの必要性自体を認めておらず、これを実施する準備もなければ、その意思すらまったくないのです。

  ここまで言っていることと実際にやっていることがぜんぜんちがうのは、おどろくよりほかありません。医師の常駐や臨床心理士によるカウンセリングの実施といった、まったく実態のともなっていないことを、あたかもやっているかのように公式サイトでは宣伝しているわけです。法務省は、「どうせだれも検証することのない密室でのこと、ウソを書いてもばれることはない」とタカをくくっているのでしょうか。



3.運動場などについて

  大阪の入管はL形で8m×8mの運動場です。もちろん多目的ホールはありません。こんな小さい運動場で30人の人でどうやって運動すればいいですか。運動場が小さすぎて廊下で運動をする人もいます。運動不足が原因で病気になる人もいます。(Bブロック)
  うんどうじょうもこんなに広いものじゃない。6人ぐらい人いたらもういっぱいです。けがもしやすいです。
  ここのろうかはこのしゃしんにうつっているものとぜんぜんちがいます。ここのろうかはこれ[写真]のはんぶんもない。たっきゅうのテーブルもない。(Aブロック)


  大阪入管の運動場については、つぎのような話もあります。

  大阪入管は施設内の一部を公開する司法修習生むけの見学会を、毎年実施しています。局内の診療室などとともに運動場に司法修習生たちを案内したのが、当時処遇部門企画担当統括という役職にあったYという人物です(このY氏は、1月に被収容者にむかって「あなたたちには[処遇等の改善を]要求する権利がない」との暴言をはいた職員でもあります)。

  Y氏は、運動場に司法修習生たちを案内すると、被収容者たちが十分に運動ができるよう、こういう立派な運動場を用意しておりますと、自慢げに言い放ったそうです。6人ぐらいが入ったらもういっぱいになるようなせまい運動場を前にしてです。その場にいた司法修習生のひとりは、あきれはてて「ああ、この人は人権侵害するだろうな」と確信したといいます。

  せまくるしい運動場でも、収容されている外国人にはこんなもので十分だろうという感覚なのでしょう。そこにはぬきがたい差別意識がかいまみえます。また、現状における設備のあきらかな不備・改善すべき課題を直視しようとせずに、自画自賛に徹して恥じない独善性。こうしたY氏の姿勢・態度は、医師の常駐やカウンセリングの実施などとまったく実態にそくしていないウソ・デタラメの宣伝を掲載しつづけている入管の組織的な体質そのものを反映しているものとも言えます。






関連記事

  大阪入管では、今年2月に、劣悪な処遇への抗議として被収容者による集団ハンガーストライキがおこなわれました。




  収容施設にかんする法務省入管のサイトの記述が実態をただしく反映しているのかについては、2011年に東日本入国管理センター被収容者に聞いてみたことがあります。





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