Friday, April 27, 2018

仮放免者の会家族会が、東京入管違反審査部門仮放免係に申入れ


 仮放免者の会家族会(以下、「家族会」)は、3月1日、4月12日と、2回に渡って、東京入管違反審査部門仮放免係(以下、「仮放免係」)に申入れを行いました。申入れの趣旨は本記事末尾に掲載している「連名申入書」に書かれた通りです。1回目の3月1日には23名、2回目の4月12日には20名の連名申入書を仮放免係に手渡しました。

 2010年10月31日に当事者である仮放免者が団結して仮放免者の会を結成しました。こうした当事者たちの団結の反映から、2011年には東日本入国管理センターに収容されている人の配偶者が、面会待合室などで知り合いになり、被収容者家族会として連携し始めました。そして、被収容者が仮放免され、現在の家族会として活動を始めました。家族会のメンバーは、仮放免者や被収容者の配偶者である、日本人あるいは正規滞在外国人です。家族会の活動目的は、①配偶者への再収容及び強制送還(無理やり送還)への反対、②配偶者への在留資格の付与を求めるという2点です。

 2回の申入れで計43人が連名署名を仮放免係に出しました。その内訳としては、日本人34名、永住者などの正規滞在外国人9名です。この43人の配偶者のうち、大半は仮放免中ですが、7名は再収容中です。

 東京入管は、2015年秋から、退去強制令書発付処分取消訴訟などの裁判の終了を期に日本人や正規滞在外国人と結婚している仮放免者を再収容するようになりました。また、同時期から、難民手続きが終了した人の再収容も増大させました。2016年になると、「仮放免条件違反」の範囲を拡大し、住居や就労などをめぐって、前年までなら問題とならなかったケースも次々と再収容し始めました【注】。こうした、難民申請者や仮放免条件違反で再収容された中にも、日本人や正規滞在者と結婚している人がいます。

 こうした再収容の激増の中で家族会の配偶者の多くも再収容されました。そのなかで最も長い人は1年4ケ月以上もの長期に渡って2回目の収容をされたままです。連名申入書にもあるように、再収容された本人は「地獄のような収容生活」に戻ると共に、「夫婦が引き裂かれての生活に戻っていく」しかありません。夫婦双方が、再び、苦しい思いをしなければならないのです。

 2回に渡る申入れでは、現在、再収容されている人の夫や、夫の母親などから、再収容されている妻あるいは息子の妻の体調への心配、また引き裂かれた生活を強いられている自分たち自身の辛い生活、さらに、一度の収容だけでも大変な苦難だったのに、入管が再収容をすることの不当性への抗議などが、切々と語られました。

 家族会としては、配偶者への再収容がストップするまで、また再収容された配偶者が再度の仮放免許可を得るまで、力を合わせて入管への働きかけを続けます。


【注】
 再収容の激増については、以下の記事を参照してください。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

連名申入書
2018年3月1日
法務大臣 殿
法務省入国管理局長 殿
東京入国管理局長 殿
東京入国管理局主任審査官 殿
仮放免者の会家族会

 私たちは、仮放免者あるいは再収容された被収容者の配偶者です。また私たちは、日本人または正規滞在の外国人であり、生活基盤は日本にしかありません。
 私たちの配偶者は、入管法に違反し、退去強制令書を発付されました。それぞれの事情があるにしても、入管法違反については事実であり申し訳ありませんでした。しかし、結婚して夫婦としての安定した家庭を築いています。私たちの配偶者の多くは、退令発付後、長期収容され、夫婦が分断されたなかでの過酷な収容生活を送りました。自宅にいて、配偶者の帰りを待つ私たち自身も、寂しく辛い日々を過ごさざるを得ませんでした。収容生活が長引くにつれ、ストレスが増したり、やつれていったり、病気が進行したりと、配偶者の苦しみを思うと、わが身のごとくに辛い日々でした。
 長期収容にも耐えて仮放免許可をいただき、夫婦そろっての温かな家庭生活を送ることができるようになりました。しかし近年、東京入管においては、私たちの配偶者への再収容が次々と行われるようになりました。その多くは、退令取消訴訟敗訴確定や難民不認定異議申立(ないし審査請求)棄却通知を契機として行われています。裁判で負けても、難民手続きが終了しても、夫婦の愛情や生活実態に変化はなく、配偶者は帰国できません。他の方のケースから、次の仮放免延長出頭日には再収容されるとわかっていても、私たちの配偶者は逃亡することもできず、再びの地獄のような収容生活、かつ夫婦が引き裂かれての生活に戻っていくしかありません。
 私たちと各配偶者は真正な夫婦であり、再収容は、本人はもちろん、夫婦両方を不幸におとしいれます。貴職らが、それぞれの夫婦への人道的配慮をされ、配偶者への在特付与、少なくとも再収容はしないこと、また再収容されている配偶者を速やかに仮放免することを連名にて申し入れます。
以 上
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

Wednesday, April 25, 2018

東日本入管センターに申入れ(Dさんの死とこれを契機としたハンストについて)

 インド人被収者Dさんの自殺をうけての東日本入国管理センターでのハンガーストライキ。私たちは、24日(火)、ハンスト参加者を中心に面会してその後の状況について聞き取りをおこないました。

 先週、ハンストをしていた5A、5B、7A、9A、8Aの各ブロック、遅れて合流した2Bブロックは、いずれも先週末から月曜日にかけてハンストを解除し、摂食を再開していました。いっぽうで、日曜日ごろからハンストを開始した人も、複数いるようです。

 東日本センターがどのような対応をとるのか、また、東日本センターはじめとする各入管収容施設において長期収容がどうなるのか、今後とも推移を注視したいと思います。このかん、同センターや法務省入国管理局に対してさまざまなかたちで抗議の意思を示されたみなさまに敬意を表します。

 なお、25日(水)午前、東日本入管センターにて、仮放免者の会として文書および口頭での申入れをおこないました。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

申 入 書
2018年4月25日
法務省入国者収容所東日本入国管理センター所長 殿

仮放免者の会(関東)
BOND(外国人労働者・難民と共に歩む会)

 本年4月13日(金)、東日本センター5寮Aブロックに収容されていたインド人男性・Dさんは自ら命を絶たれた。Dさんは東京入管収容場から合わせて9ヶ月の長期収容となっていたが、直近の仮放免申請が3ヶ月近くたっても結果が出ず、周りの被収容者の経験から許可となる可能性が高いと期待していたが、自殺の前日、またもや不許可であったと知り、自殺に及んだと、同ブロックのDさんと親しい被収容者から私たちは聞いた。
 また、Dさんの死を契機に、彼の死を悼み、彼を死に追い込んだ長期収容に抗議し、ハンガーストライキがブロックを越えて広がった。先週から、私たちは5Aブロックを中心に各ブロックと面会し、ハンストに至る経緯、目的、状況などを聞いた。寮、ブロックを越え、国籍・在留理由などの違いを越えた大規模ハンストは、過去、2010年5月、2012年8月にも発生しており、これで3回目となるが、これまで以上に大規模であると同時に、Dさんの死という突発的な事件を契機に起こった今回のハンストは、開始日も収束日もバラバラであり、目的においても、各ブロック内においてもハンスト参加者の間で事前に統一されて始められたわけではない。特に、Dさんと日々の収容生活を共にしていた5Aブロックと他のブロックでは、ハンストをしてまで貴職に求める要求内容に差異がある。しかし、共通しているのは、長期収容という人権侵害に対する憤りであり、無期限の収容をやめるよう求めている。
 私たちが各ブロックから聞き取りしたところ、15日(日)~17日(火)にかけて、5つのブロックでハンストが始まり、最大で120人を越える被収容者がハンストに参加したとの事である。Dさんの死という、衝撃的な事件があったにしても、ここまでハンストが広がるには、その伏線があった。それは事前にも私たちは報告を受けていたが、本年3月の5寮A・Bブロック8A・9A・9Bブロックによる貴職らへの要求書(書面の表題はそれぞれ異なる)の提出であり、それに対する貴職からの、全面否定の回答である。
 ハンスト参加者の多くから意見として聞いたが、3月の要求書に応え、収容長期化を回避する方向に踏み出していれば、Dさんの自殺は防がれたはずである。
 私たちは、法務省入国管理局から各入国管理官署に、送還を忌避する被退令発付者の縮減が指示されていることは知っている。しかし、収容長期化をはじめとする退令業務の強化は、貴センターにおいて昨年3月にはベトナム人男性の病死を、そして今回の自殺を生み出してしまった。人間の命を絶つまでの退令業務は明らかに人権侵害であり、貴職が彼らを死に追いやったと言わざるを得ない。
 被収容者処遇規則は被収容者への人権の尊重を貴職に求めている(第一条「目的」)。人命の尊重は人権の尊重の最たるものである。本省の方針、政策がどうあれ、東日本センターにおいては、貴職が責任を負って運用にあたらなければならない。これにあたって、被収容者の人権を尊重し、これ以上の犠牲者を出さないよう、以下、申し入れる。

一、収容長期化を回避し、仮放免を弾力的に運用すること
 閉ざされた狭い空間への監禁的拘束は、被収容者の誰においてもストレスを高進させ、その収容が半年に及ぶころには拘禁反応を発症する。しかも、入管での収容は期間の定めのない収容であり、精神的拷問である。地方局・地方支局収容場での入所から通算して6ヶ月を越える収容は明らかに長期収容であり、そのような長期収容者については、仮放免を許可することを求める。
一、被再収容者の早期仮放免
 入管収容施設での収容に耐えて仮放免となった者は、帰国できない事情があるからこそ、耐えたのである。2016年以降、東京入管などは再収容を激増させた。難民手続きの終了や訴訟での敗訴確定、また就労や住居をめぐる仮放免条件違反を契機としてこれらの再収容が行われている。また、再収容は仮放免期間延長のための出頭時に行われるが、再収容される者たちの多くは、次の出頭時には自分は再収容されそうだと予感しながらも、逃亡することはできずに地方局に出頭して再収容される。こうした被再収容者は、本国に帰国できず、日本で在留を求めるしかない事情があるからこそ、再収容を覚悟して出頭しているのである。こうした者たちを再収容し、再び長期収容しても、ただ本人やその家族を苦しめるだけであり、人権侵害を引き起こすだけである。再収容された者については、とりわけて早期の仮放免を求める。
一、病気を訴える者を速やかに受診させること
 いまだに貴センターにおいては、病気を訴えてもなかなか受診させないとか、貴センター診療室に勤務する医師が専門外の病状について外部受診の必要性がないと判断するなど、診療問題が多々残されている。昨年3月のベトナム人男性の死亡事件はその最たるものである。看守職員が受診の必要性の有無を判断することは、無資格者による医療判断である。適切な診療ができないということは、被収容者が命と健康をおびやかされているということであり、一切の言い訳は許されない。予算、人員などの条件から適切な診療ができないのであれば、被収容者数を減少させるなど、できるための措置をとるべきである。貴職が、被収容者の生命と健康を守るための、具体的な改善をなされることを求める。
一、ハンスト発生時は、ハンスト者の体重を測ること
 先週から私たちは、貴センター総務課に何度も口頭で申し入れたが、ハンストをする者については、毎日、体重を測るべきである。無論、本人の意思を無視して体重を測ることはできないが、本人たちの体調管理のためにもハンスト時の体重測定は必須である。今回の大規模ハンストにおいて、面会したどのブロックでも、「なんでハンストをしているのかも聞かれない。体調はどう?とも心配されない。私たちは入管から無視されている」との訴えがあった。貴職が、ハンスト参加者に関して「健康を害する恐れがあり、中止するよう説得している」と報道機関にコメントしているのは全くのウソであることがわかる。だが、「中止するよう説得」することは、その方法によってはハンスト者への脅しともなり、慎重な対応が求められる。しかし、体重測定することは、貴職がハンストの発生を認知しており、ハンスト者の健康状態を気づかっていることをハンスト者に伝えることになる。一方、貴職は「一部ではカップラーメンや菓子などを食べている」とも報告されているようだが、そのような垣間見た情報ではなく、体重測定すれば、体重が減少しているのか否か、減少しているならどれくらい減少しているかなどの客観的な数字を報告することができる。ハンスト参加者が「カップラーメンや菓子など」を食べるのは、服薬のためであったり、過去のハンストで倒れた者がブロックチェンジさせられた経緯があるため仲間が倒れるのを防ごうとしてなど、理由がある。自らができる客観的な調査もせず、官給食を拒食していても自費購入の物を食べていると、ハンストの真剣さ、ハンストに及ぶ被収容者の切羽詰まった精神状態を茶化すような報告は差し控えられたい。
以 上

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


関連記事


Monday, April 23, 2018

収容長期化の回避等をもとめる被収容者連名申入書(東日本入管センター)



 直前の2つの記事で、東日本入国管理センターで4月日に起こったインド人被収容者死亡事件、これを受けての120名超の被収容者による集団ハンガーストライキについて報告してきました。


 今回の記事では、時間をさかのぼって、これら事件が起こる1か月以上前の3月5日に東日本センターの5A, 5B両ブロックの被収容者25名が連名で入管側に提出した「申入書」を紹介します。この2つのブロックのうち、5Aは、13日に亡くなったDさんのいたブロックでもあります。

 いたましい死亡事件とこれを契機として広がったハンガーストライキが、どういう背景で起きているのか。この点を理解する上で、この「申入書」が手がかりのひとつになるものと思います。

 記事の末尾には、このたびの事件であらわになった入管の収容と送還をめぐる問題の背景を考えるうえで参考になればと思い、このブログの過去記事をいくつか紹介させていただきました。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

申 入 書
平成30年3月5日

法務大臣殿
法務省入国管理局長殿
東日本入国管理センター所長殿
5A, B寮被収容者
私達は以下要望し、かつ面接にて回答を求める。
1.長期収容は人権侵害であり、収容長期化の回避を求め、再び仮放免の弾力的運用をされることを強く求めます。
2.再収容の中止と再収容された者への即時仮放免を求める。
3.被収容者への医療放置をやめ、診療を求める者は直ちに診療させ適切な処置をとることを求める。
4.帰国忌避者に対する個別の送還やチャーター機による集団送還執行の中止を求める。
5.以上のもとで現在、東日本入国管理センターに収容されている人の中で、余りに長期間収容されている人や深刻な体調不良者等、直ちに仮放免許可等の措置をとるべき人達が居ます。
以 上

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



【関連記事の紹介】

 上に紹介した「申入書」提出からすこしたった3月中旬に、東日本センターのべつのブロック(8A, 9A, 9B)で、長期収容をやめるよう求めた嘆願書が提出されています。こちらもあわせてごらんください。


 Dさんは亡くなる前日の4月に仮放免申請の不許可を知らされておりました。Dさんの死が自殺だったのだとすれば、ここ数年において顕著になっている入管施設における収容の長期化がその死に関係している可能性は高いといえます。入管施設における収容とはなにか、また長期収容がなぜ問題なのかについては、以下の記事で解説しております。


 今回紹介した5A, 5Bブロックの「申入書」は、「再収容の中止と再収容された者への即時仮放免」を求めています。「仮放免許可」と呼ばれる手続きで出所した人をふたたび収容することを「再収容」といいます。この再収容を急増させる運用を東京入管がとりはじめたのが、2016年の1月ごろでした。この再収容急増への反発として、昨年2017年の5月に東京入管で被収容者による大規模ハンストがおこりました。東京入管や名古屋入管で再収容されて東日本入管センターに移収されたひとが、今回のハンスト参加者にもすくなくありません。入管当局が再収容を急増させた意図・目的はなにか、またそうした運用変更がどういう点で問題なのか、解説したのが以下の記事です。


 5A, 5Bブロック「申入書」が3点目にもとめているのが医療処遇の改善です。東日本センターでは、被収容者が診療を求める申し出を書面で提出してから、医師の診察にいたるまで通常1ヶ月ほどかかるといいます。被収容者に必要な医療を提供できる能力が被収容者数に追いついていないわけです。そのうえ、収容の長期化傾向は体調不良をきたして診療を必要とする被収容者を増加させるわけですから、収容人数にセンターの収容能力がまったく追いついていないという事態にますます拍車がかかるわけです。

 こうして医師の診療を提供できる能力をこえて多すぎる被収容者をかかえてしまった施設では、どういうことがおきるでしょうか? 「医師による診察が必要か必要でないか」あるいは「どの人を優先的に受診させるか」の判断を、医療の専門的訓練を受けていない職員がおこなうことが横行する結果になります。以下の記事では、入管施設において、医療放置による被収容者の死亡事件があいついでいることの構造的な要因を考察しています。


 以下は、入管が医療放置によって被収容者を死に追いやった最近の事例についての記事です。



 上記「申入書」の4つめの要求項目に関連して。無理やりの送還、とりわけチャーター機を使った集団送還の問題については、以下の記事などで述べています。

Sunday, April 22, 2018

【ひきつづきの抗議の呼びかけ】インド人死亡事件とハンストについて(東日本入管センター)


1.ハンストの現状
 東日本入国管理センターで、被収容者死亡事件を受けて、集団ハンガーストライキがおこなわれていることを、前回記事で報告しました。




 インド人被収容者Dさんの死亡が確認されたのが4月12日(金)。Dさんと同じブロック(収容区画)の被収容者たちが15日(日)の朝からハンガーストライキを始めました。他のブロックでもこのハンストに合流する動きが続き、18日(水)時点で122名の被収容者がハンストに参加する事態となりました。

 私たちは、19日(木)、20日(金)にも、ハンスト参加者を中心に被収容者と面会をおこないました。

 20日時点で最長の人でハンストは6日目になり、目に見えて衰弱している人、めまいや頭痛をうったえる人もいました。病気のある人や高齢の人など食事を再開している人もいる一方で、あらたにハンストを始める人びとが出ているブロックもあります。ハンストは収束にいたっていないというのが現状です。


2.ハンスト参加者の健康状態
 こうしてハンストが長引くと、ハンスト参加者の健康状態が心配されます。ところが、20日までの時点で東日本センター側の対応は、被収容者の健康維持についての収容主体として責任をはたしているとは言えないものです。

 マスコミ報道によると、センター側は取材に対してハンストは「健康を害する恐れがあり、中止するよう説得している」と説明しているようです。




 ところが、私たちがハンスト参加者たちから聞いた事実は、このセンター側の説明とはまったく異なるものでした。各ブロックのハンストをおこなっている被収容者たちに面会して聞いたところ、入管側はハンストに対して20日までの時点で基本的に無視、黙殺する姿勢をとっているということです。入管側はだれがハンストをおこなっているかの把握をしようともしなければ、各人の健康状態についてもハンストの目的についてもいっさい聞き取りをおこなっていない、といいます。マスコミの取材への説明と異なって、「健康を害する恐れ」を心配してもいるそぶりもまったくないし、「中止するよう説得している」事実もないわけです。

 入管は、人を収容してその身体を拘束している以上、被収容者の健康・医療に責任があります。ハンストがおこなわれているという事実を無視するのではなくきちんと認知したうえで、ハンスト参加者それぞれについて健康状態を把握するようつとめるべきだし、食事をとるよう説得すべきです。この点は、20日(金)の午前に、東日本入管センター総務課に口頭で申し入れました。


3.再発防止
 ハンストの問題とはべつに、東日本センターは、「自殺」と思われる死亡者を出した以上、その再発をふせぐことは、きわめて緊急性の高い課題であるはずです。自殺は連鎖してあいつぐ危険性が高いからです。そうでなくても、こういうかたちで仲間を亡くした被収容者たちの精神的なケアは、喫緊に取り組まなければならないことであるはずです。

 私たちがこのかん面会した被収容者のなかにも、自身の精神状態がおかしくなっているとうったえる人がいます。自分自身も自殺を考えてしまう、また、他の被収容者が自分も自殺したいとほのめかすのを聞いたという話も聞きました。とくに、生前のDさんと親しかった人の精神的なケアは、緊急に必要です。

 ところが、東日本センターは今までのところ、こうした課題に取り組もうとしているようにはみえません。Dさんとおなじ5Aブロックの被収容者は、つぎのように語っていました。「Dさんがああいうことになって5Aの人がどう感じているのか、入管は気にしていない。Dさんを悼むために花をかざるのだってこっちが言わないと入管はやらなかった」。前回記事で述べたように、センター側が花を用意したのは、Dさんが亡くなった4日後の17日(火)で、それも被収容者が要求してようやくそうしたにすぎないのです。

 Dさんが亡くなった13日(金)の夕方には、その5Aブロックで、被収容者たちのDさんを悼む気持ちを逆なでするような職員の言動もありました。開放処遇の時間が終わっても居室に戻らない被収容者たちに「部屋に戻りなさい」と命じる職員に対して、Dさんと同国のひとが「人が死んでるんですよ」と言うと、職員のひとりがこれに「それで?」との言葉を返したということです。この職員の発言の事実は、その現場にいた複数の被収容者の証言から裏づけられました。

 この職員の発言、またこの発言にいたる経緯に、今回の死亡事件に対する入管の対応の問題がよくあらわれているように思います。決められた時間通りに帰室するという規律を日常どおりにまもることが何より優先されるべきであり、一方で、人が死んだという出来事とこれに直面した仲間の気持ちは取るに足らない些末なことがらであると、この職員は言ったにひとしいわけです。“人が死んだ? だからなに? そんなことより規律をまもれ”と。

 この発言を近くで聞いていたべつの被収容者が「人が死んだのに『それで?』と言うな!」と厳しい語調で職員に抗議したそうです。この人は、このときに自分で自分の頭を壁に何度か強く打ち付けたといいます。職員たちはこの人を組み伏せておさえつけ、力づくで連行して隔離処分にしました。頭を壁に打ち付けた行為を「自傷行為」とみなしてこれを防止するための隔離処分なのでしょうか。しかし、自傷・自殺をふせぐために入管がなによりもまずしなければならないのは、入管が被収容者の人命を大事にするのだという意思と決意を被収容者全体に示すことではないのでしょうか?

 面会等をつうじて被収容者から聞くのは、不安や動揺にかられ、ときに自殺をほのめかす人すらいるなかで、仲間どうしではげましあったり、相互にケアしあったりを、被収容者たち自身が一生懸命やっているのだという現状です。入管がやるべき仕事をやらずに、被収容者たちに丸投げしているのです。このように収容する側としての最低限の責任をはたせないのなら、ただちに収容をやめるべきです。


4.5Aブロック被収容者の「上申書」
 18日(水)に、5Aブロックの被収容者の18名全員が、法務大臣・法務省入国管理局長・東日本入国管理センター所長の三者あてで「上申書」を提出しました。Dさんの間近にいて寝食をともにしていた仲間たちで、話し合って書いた文書です。

 この文書の全文を紹介するとともに、ひきつづき法務省入管および東日本入管センターへの抗議・意見提示を呼びかけます。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

上 申 書 
平成30年4月18日

法務大臣殿
法務省入国管理局長殿
東日本入国管理センター所長殿

 私達は以下要望し、かつ説明・回答を求めます。
1.本年4月13日に自殺で亡くなったインド人のDさん[原文では実名]の葬式等を本人の宗教に基づいて最後まで全て(費用等含め)の責任を取ることを強く求めます。
2.もう2度と入管週施設での死亡事件が起きないよう適切な処置を施すことを求めます。
 2010年の当所でのブラジル人自殺事件【注】、2013年東京局でのミャンマー人搬送先の病院死亡事件、翌14年の当所でのイラン人、カメルーン人連続死亡事件、同年の東京局でのスリランカ人、2017年には当所でのベトナム人死亡と続きました。この過程では、仮放免・放免直後の死亡もありました。私達の生命や健康については、収容主体である貴職らが責任を負わなければなりません。
以上
[省略――5Aブロックの被収容者18名の署名]

【注】2010年には、2月のブラジル人自殺事件につづいて、4月には韓国人被収容者が自殺する事件も起きています(引用者補足)。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


抗議先
法務省入国管理局
 電話:03-3592-7090
 FAX:03-3592-7393

東日本入国管理センター(総務課)
 電話:029-875-1291
 FAX:029-830-9010


抗議・意見提示の例

  • 健康な人であっても拘禁反応を生じさせる6ヶ月以上の長期収容をやめるべきである。
  • Dさんの死亡の原因・経緯について被収容者全体にていねいに説明するべきである。
  • ハンスト参加者それぞれの健康状態を把握するようつとめること。
  • なぜハンストをおこなっているのか、ハンスト者からていねいに話を聞き、食事をとるよう説得すること。
  • ハンストに参加しているかどうかにかかわらず、死亡者が出て被収容者が動揺し不安をきたすのは、当然である。精神的なケアにつとめ、これ以上の死亡者が出ないようにすること。それができないなら、収容をやめるべきであるし、職員の人員等がたりないのであれば、仮放免によって被収容者数を減らすこと。
  • 被収容者が提出している要求書等に対しては、誠実に検討し回答すること。

Thursday, April 19, 2018

【抗議の呼びかけ】インド人被収容者の死と集団ハンストについて(東日本入管センター)


 マスコミ報道がいくつか出ていますが、東日本入国管理センター(茨城県牛久市)に収容されていたインド人男性(「Dさん」とします)が、4月13日(金)に死亡しました。報道によると、東日本センターはDさんの死を「自殺」によるものと発表しているもようです。Dさんは、亡くなった日の前日12日に仮放免申請の不許可を知らされたところでした。

 Dさんの死をうけて、東日本センターの被収容者のあいだでは、動揺といきどおり、悲しみが広がっています。ところが、Dさんの収容されていた区画(5Aブロック)の被収容者たちによると、当初、入管は、人がひとり亡くなったにもかかわらず、何ごともなかったかのように通常の業務をつづけていたといいます。

 そこで、15日(日)ごろから5Aブロックでは、Dさんを追悼できるよう花やDさんの写真を置くこと、また職員たちがDさんの死をいたむ意思を示すことを、被収容者たちそれぞれが職員らに求めたということです。その結果、東日本センターは、17日(火)になって、5Aブロックに花びんに生けた花とDさんの顔写真を置いて、まず職員がその前で手を合わせて祈りをささげ、被収容者たちがおのおののやり方でDさんを追悼できるようにしたようです。

 Dさんと寝食をともにしていた5Aブロック被収容者たちのショックはとくに大きなもので、多くの人がDさんの死亡した13日(金)の昼ごろから食事ものどをとおらず、シャワーを使用する人もほとんどいないという状況が続いているといいます。そうしたなかで、5Aブロック被収容者のうちほぼ全員である16人が、15日(日)の朝食からハンガーストライキを開始しました。

 この5A以外のブロックでも、仲間の被収容者が亡くなったということへのいきどおりと悲しみは強く、5Aにつづいてハンストに合流していくという動きがあいついで起きてきています。

 私たちは、17日(火)、18日(水)と、東日本センターで被収容者との面会をおこない、現在使用されている14ブロック中13ブロックの被収容者から聞き取りをおこないました。その結果、122名の被収容者がこのハンストに参加しているということがわかりました。東日本センターの現在の被収容者数は330名超ですが、このうちの3人に1人以上が参加していることになり、また120名以上というハンスト参加者数は、日本の入管収容施設においてこれまでに例のない史上最大規模のものといえます。

 ハンストをおこなっているそれぞれのブロックの被収容者に面会して聞き取りをしたところ、ハンストを通じての要求項目は、つぎのようなことがらであるとのことです。

  1. Dさんの死亡の原因について、自分たち被収容者に説明すること。ほんとうに自殺なのか、そうでないのか。自殺なのだとして、その原因はなんだと入管は考えているのか。センターの所長は、Dさんの死についてどう責任を認識しているのか。
  2. 長期収容をやめること。Dさんは仮放免不許可をつげられた翌日に死亡している。東日本センターをふくむ入管収容施設における、近年の超長期収容がDさんを死に追いやったのではないか。
  3. 医療を改善すること。診療を求めても、1ヶ月以上も待たされる。

 東日本センターでは、このように被収容者によるハンガーストライキがおこなわれています。被収容者たちは、入管の収容所での人権侵害の現状について、ひろく知ってほしいと望んでいます。下にあげる報道などもふくめて、情報の拡散にご協力ください。また、報道関係者の方々には、情報提供等、ご相談いただければ対応を検討いたしますので、ご連絡ください。

連絡先:junkie_slip999☆yahoo.co.jp (☆をアットマーク(@)にかえてください)

 また、可能なかたは、入管当局への抗議・意見提示をおねがいします。このたびの死亡事件、また、大規模ハンストの背景として、東日本センターにおける人権侵害、とりわけ長期収容の問題があることはまちがいありません。そして、その長期収容は、東日本センター独自の判断でおこなっているものではなく、法務省入国管理局からの指示のもとおこなわれているものでもあります。

抗議・意見提示の例
  • 健康な人であっても拘禁反応を生じさせる6ヶ月以上の長期収容をやめるべきである。
  • Dさんの死亡の原因・経緯について被収容者全体にていねいに説明するべきである。

抗議先
法務省入国管理局
  電話:03-3592-7090
  FAX:03-3592-7393

東日本入国管理センター(総務課)
  電話:029-875-1291
  FAX:029-830-9010







【関連リンク】

長期収容問題について
東日本センター被収容者は、3月中旬に長期収容をやめるよう求める要求書を連名で提出しています。

入管施設における収容とはなにか、また長期収容がなぜ問題なのかについては、以下の記事で解説しておりますので、参照してください。


Dさん死亡事件、およびハンストについての報道


Tuesday, April 10, 2018

入管施設の収容長期化問題について――被収容者「嘆願書」によせて




1.はじめに
 前の記事で紹介した「嘆願書」は、被収容者たち自身によって書かれた、長期収容をやめるようにとの要求です。ここで主張されている長期収容の不当性や、また被収容者たちのおかれた切実さをよりよく理解するために、入管による「収容」とはなにかということをふまえておきたいと思います。


2.入管の収容の目的はなにか?
 まず、嘆願書では「ここは刑務所ではありません」と述べられていますが、東日本入管センターなど入管収容施設の収容の目的はなんなのか、また、どのような人が収容されているのか、ということを述べます。

 東日本入管センターや大村入管センターに収容されている人々の大多数は、入国管理局(入管)からすでに「退去強制令書発付処分」を受けた外国人です。「退去強制令書(退令)」が発付されるのは、入管が審査をおこなって「退去強制事由」に該当するとした外国人です。「退去強制事由」とは、出入国管理及び難民認定法(入管法)第24条に規定されたもので、入管はこれに該当する外国人に対して退去強制(強制送還)をおこなう権限を与えられています。

「退去強制事由」として入管法に規定されているものはさまざまにありますが、ごく大ざっぱに言って、以下のようなことがらが「退去強制事由」にあたります。

(1)不法入国(正規の手続きをふまずに入国したということ)
(2)不法残留(入管が許可した在留期限をこえて日本に在留したということ。いわゆる「オーバーステイ」)
(3)資格外活動(在留にあたって入管に許可された範囲をこえた活動をおこなったということ。就労の認められていない在留資格で就労した、あるいは留学生が許可された時間の制限をこえて就労した、など)
(4)刑罰法令違反(在留中に刑罰法令に違反したといういうこと)

 (1)~(3)は、入管法にさだめられた手続きをふまなかった、あるいは、入管に許可された範囲をこえて在留や活動をおこなったという点で「違反」ではあります。もちろん、その違反行為そのものは、他者に危害をくわえたものとはいえませんが、これらは「退去強制事由」にあたるとされ、退令発付処分を受けた場合、送還対象者として原則として収容されることになっています。

 (4)は、窃盗や傷害、あるいは違法薬物などに関する犯罪行為によって送還の対象となるものですが、この理由で入管に収容されているひとは、すでに懲役刑などの処罰を終えています。むろん、刑務所での懲役等は、受刑者の更生・社会復帰を目的に科されるものですが、刑期を終えて出所したあとにさらに本人の意思に反して退去強制を科すことは、場合によっては、本人が更生してやり直すことを非常に困難にしてしまう、ということもありえます。

 (1)~(3)の入管法違反にせよ、(4)の刑罰法令違反にせよ、入管による収容は、犯罪行為に対する処罰・制裁としておこなわれているものではありません。では、入管の収容の目的はなにか。入管法にさだめられた収容の位置づけは、「退去強制を受ける者を直ちに本邦外に送還することができないときは、送還可能のときまで」収容することができるというものです(「出入国管理及び難民認定法」第52条第5項)。つまり、送還が可能になるときまでの一時的な身柄の確保ということにすぎないのです。

 したがって、嘆願書の述べる「私達収容者の中には、1年、2年の収容を越える人が多く、中には3年近くも収容されている人もい」るという事態は、きわめて異常なものなのです。


3.長期収容はなぜ問題なのか?
 送還までの身柄の確保という名目での収容にもかかわらず、収容期間が2年や3年をこえている被収容者が多数いるということ。これは、入管にとって送還の見込みのないにもかかわらず、いたずらに収容を長引かせ、被収容者に肉体的精神的な苦痛を不当に強いているということであって、収容権の濫用と言うべきです。

 私たち仮放免者の会は、6ヶ月をこえる収容は「長期収容」であるとして、これをやめるよう申し入れ等をこれまでもおこなってきました。入管での収容はきわめて過酷なものであって、遅い人でも収容期間が6ヶ月をこえるころには、例外なく拘禁反応とみられる症状(高血圧、不眠、頭痛、めまいなど)に苦しみはじめます。先の「嘆願書」は、「8か月から12カ月の収容は仕方ありません」と述べていますが、6ヵ月をこえた収容が人権・人道上の観点から問題だと十分に言える理由があるのです。収容期間が2年をこえることが常態化し、3年になる人すらいるという現状は、なおさら異常きわまりないものです。

 入管センターなどで面会活動をおこなっている支援者は、半年をこえて収容されていて健康上の問題がとくにないという被収容者と出会うことは、めったにありません。長期間収容されている人はほとんど例外なく、上に述べたような拘禁反応を発症しており、持病のある人はこれを悪化させています。そのうえ、入管収容施設の医療体制は貧弱きわまりないものです。300人超が収容されている東日本入管センターの場合、被収容者が診療を求める申し出をおこなってから受診できるまで1ヵ月ほど待たされるのが通常ですし、昨年の3月には、激しい頭痛を訴えていたベトナム人被収容者が1週間以上ものあいだ病院に搬送されずに放置され、くも膜下出血で亡くなるという事件もありました【注1】

 6ヶ月をこえるような長期収容と被収容者の人権尊重はけっして両立しえません。長期収容は、かならず被収容者の健康を害することになるからです。人間を健康が害されるほどに長期間監禁し、肉体的精神的な苦痛を与える行為を正当化することはできるでしょうか。懲罰がこれを受ける者にとって苦痛であることは、当然だと言われるかもしれません。しかし、入管の収容は法律上懲罰として位置づけられているものではないし、懲罰的な機能が生じてよいものでもありません。そして、かりに懲罰であったとしても、これを受ける人間の健康を破壊するような懲罰は、おこなってよいわけがありません。

 そういうわけで、長期収容は、人権侵害にしかなりえない、どのようにしても正当化できないものなのです。


4.長期収容を回避するために
 入管の収容目的は、先に述べたとおり送還のための身柄確保です。ところが、入管が送還の見込みがないにもかかわらず収容をつづけるために収容の長期化傾向が生じ、被収容者に無用無意味な苦痛を与えることになっています。こうした無用なだけでなく人権侵害をもともなう長期収容を回避するために、「仮放免」という制度を活用することができます。「仮放免」とは、就労しないことや移動の制限といった一定の条件のもとに一時的に収容を解くことです。

 しかし、「仮放免」は在留資格ではなく、依然として入管によって送還の対象とされていることにかわりありません。一時的な措置として出所が許可されているということにすぎないのです。仮放免の状態では、就労することも許されず、健康保険にも入れないため病気があっても通院もままなりません。

 つまり、仮放免で長期収容を回避することはできても、根本的な解決にはいたりません。収容が長期化している人をまずは仮放免するとともに、退令が発付されているけれども帰国しようにも帰国できない人について、在留資格を認め、その在留を合法化していくことも必要です。

 「嘆願書」にも述べられているように、入管センターには、「日本で生まれて日本しか知らない若者や、日本にしか家族がいない者、結婚し妻が外で待っている者、子どもが日本にいる者、自分の国に帰ることができない難民、日本に長期間滞在し自分の国に帰る場所がない者等」が多く収容されています。入管に摘発されて退令を発付された人の大多数は送還されています【注2】。送還される人のほとんどは「自費出国」といって、自分で航空機券代を負担して送還されています【注3】。そうして多くが送還されていくなか、「嘆願書」が述べているような事情でどうしても「帰国」できない人びとが、過酷な長期収容をたえている、というより「たえざるをえない」のです。

 退令発付処分を受けて送還対象になっているけれども、日本社会に深く定着していたり、あるいは「帰国」先に危険や生活上の困難があったりで、「帰国」しようにも「帰国」できないという人びとの存在は、2010年ごろから仮放免者の急増として次第に可視化されてきました。これは、バブル期以来の矛盾にみちた外国人労働者導入政策、そして、きわめて消極的な難民認定といった、日本の政策・制度の結果として生じている現象です。このことは、このブログでもこれまでくり返し示してきました【注4】

 こうした人びとを、法務省・入管当局が現在おこなっているように、長期収容・再収容、あるいは無理やりの送還といった送還執行の強化によって減らしていくということは、人権・人道上の見地から問題であるだけでなく、現実的に不可能であるということも、くり返し主張してきたとおりです。

 不法滞在状態にある人びと全員を送還によって「一掃」するなどという可能性は、極右思想にとらわれた者の頭にとりついた幻想のなかにしか存在しません。そんなことが現実的に可能なわけがないし、入管当局だって退去強制事由に該当する人をすべて送還しているわけではありません。退去強制手続きの過程で、あるいは退去強制令書を発付した後に、法務大臣権限で在留特別許可を出すということが入管法上できるわけですし、げんに入管当局はこれを一定程度活用してもいます。

 退去強制事由にあたるからといってこれをすべて送還の対象とするということは、現実的に不可能であるというだけでなく、そうすべきでない理由もあります。

 送還先で迫害等の危険があるひとを送還すべきでないのは言うまでもありません。

 また、違反内容とこれに対する処分のバランスの問題もあります。たとえば、長期間日本に滞在してきた人、あるいは送還されれば日本にいるパートナーや子と引き離されてしまう人の場合、強制送還がもたらす不利益ははかりしれないほど大きなものとなります。一般に、日本社会への定着の度合いが深くなればなるほど、送還という処分によって受けるダメージは大きくなるといえます。したがって、送還される人の状況によっては、強制送還という処分のもたらす不利益が、おかした違反行為に比して過分に重すぎるということも起こりうるのです。

 退去強制事由にあたるとされ退令をすでに発付された人びとについて、その在留を合法化して救済する制度がありながら、これを十分には活用せず、送還執行を厳格化するという無理な方針に固執してきたということ。このことが、長期収容問題を生じさせているのだということは、広く理解されてほしいとおもいます。




【注】

1.以下の記事を参照。


2.『出入国管理白書』によると、たとえば2016年度の統計では、退令発付件数が7,241件、被送還者数が7,014人です。もちろん、退令の発付と送還の執行との間には時間差がありますので「退令を発付された7,241人のうち7,014人が送還された」と言えるわけではありません。しかし、退令発付された人のうち、およそ97%(7,014/7,241×100)は送還されていると推計しても大きくははずれていないでしょう。

3.『出入国管理白書』によると、2016年度の被送還者数7,014人のうち、6,575人(およそ94%)は自費出国。

4.たとえば、以下の記事などを参照。


Monday, April 9, 2018

被収容者110名超が長期収容・再収容の中止を要求(東日本入管センター)

訂正(2018年4月15日)
 この記事で紹介した嘆願書について、「5つのブロックにまたがって計110名以上が署名をしています」としましたが、正しくは「3ブロック計86名」でした。おわびして訂正いたします。
 なお、紹介した嘆願書は8A、9A、9Bの3ブロックの被収容者が連名で提出したものですが、これとべつに5A、5B両ブロックの被収容者が同時期にやはり長期収容の回避等をふくむ要求書を25名の連名で提出しています(この25名とこの記事で紹介した嘆願書の署名者86名を合計すると、記事タイトルにした「110名超」となります)。5A、5Bの要求書についても入手できしだい紹介したいと思います。
 
 補足(2018年4月23日)
  5A、5Bの要求書を公開しました。→ 収容長期化の回避等をもとめる被収容者連名申入書(東日本入管センター)



 東日本入国管理センター(茨城県牛久市)の被収容者が連名で「嘆願書」を出しました。「嘆願書」は、同センター長期収容・再収容をやめるように求めたもので、5つのブロックにまたがって計110名以上8A、9A、9Bの3ブロック86名が署名をしています。

 2016年1月から東京入管での仮放免者の再収容が激増し、同時に東日本センターほか、東京や大阪の地方局での収容長期化も顕著になってきました。再収容激増と「収容の超長期化」と言うべき状況において、2016年の2月と7月には大阪入管で、17年の5月には東京入管で、それぞれ被収容者による集団ハンガーストライキがおこり、広く報道もされました。

 大村入国管理センター(長崎県大村市)でも収容の長期化が顕著になっており、被収容者による連名の要求書があいついでいるところです。


 上記リンク先に述べましたとおり、大村入管センターの人権状況について、ひきつづき読者のみなさまに情報の拡散を、とりわけ報道関係者のみなさまには取材・報道を要請いたします。また、東日本入管センターにつきましても、同様にお願いいたします。

連絡先:junkie_slip999☆yahoo.co.jp (☆をアットマーク(@)にかえてください)

 以下、東日本入管センター被収容者の「嘆願書」の全文を掲載します。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
東日本入国管理センター所長殿
 この嘆願書は、私達収容者の気持ちを伝えたく書かせてもらいます。
 私達収容者の中には、1年、2年の収容を越える人が多く、中には3年近くも収容されている人もいます。
 なぜこんなにも長い収容が続いているのでしょうか。こんなにも長い収容を耐えるのは、日本に残りたいちゃんとした理由があるからです。重要な理由がないなら皆、帰っています。帰らないのは、気まぐれで帰りたくないというわけではありません。もちろんそういう人が全くいないというわけでもないのは確かです。そういう人はもちろん自分の国に帰るべきです。ですが、ほとんどの人はそうではありません。
 日本で生まれて日本しか知らない若者や、日本にしか家族がいない者、結婚し妻が外で待っている者、子どもが日本にいる者、自分の国に帰ることができない難民、日本に長期間滞在し自分の国に帰る場所がない者等、ちゃんとした日本に残る理由があります。理由がなければこんなにも辛くて長い収容生活を耐えることはできません。
 ここは刑務所ではありません。ここ、東日本入国管理センターという場所は、こんなにも長い時間私達を収容するための場所なのでしょうか。
 もちろん、ここにいる人は、何らかの理由でここに収容されています。
 私達は、間違いをしました。不法滞在、不法就労、犯罪、住所変更等、これらの理由すべては、私達の責任であり私達の間違いです。
 これらのことについて私達は深く心から反省しています。
 そしてその償いとして8か月から12カ月の収容は仕方ありません。
 自分の犯した罪の当然の報いです。ですが、それ以上の収容は、私達に肉体的、精神的苦痛を与えることです。
 私達には、自由権はないのでしょうか。自由権には、身体の自由について「犯罪により処罰される場合を除き、肉体的、精神的な苦痛を受けない」とあります。この法律は何のためにあるのでしょうか。
 ストレスが原因で病気になり、亡くなったものもいれば、ストレスが原因で病気になって今もここの中で苦しんでいる者も多くいます。これは、肉体的、精神的な苦痛を与えている証拠ではないのでしょうか。
 私達は人間として生きる権利があります。それとも私達外国人には何の権利もないのでしょうか。
 日本という国は、そういう国ではないはずです。だからこそ、日本は独裁国家ではなく民主主義の国のはずです。もし、この国が独裁国家なのであれば、こんな嘆願書は何の意味もありません。民主的の言葉の意味は、「どんな事でも一人ひとりの意見を平等に尊重しながらみんなで相談して決め、だれでも納得の行くこと」とあります。この反対は「独裁的」です。
 果して今の入管のやり方は民主的なのでしょうか。私達からすれば今の入管のやり方は独裁的です。重要な理由があってもそんなことはかまわず、長期間収容し、家族や大切な人から離し、それだけではなく肉体的、精神的な苦痛も与えているのです。辛い想いをしているのは、私達だけではなく、外で待っている人も同じです。家族とこんなにも長い間離されるということは普通のことではありません。ここが刑務所なら仕方ありません。ですが、ここ東日本入国管理センターは、刑務所ではないのです。
 日本は、グローバルリーダーであり、国連の模範的メンバーの日本が、基本的人権を無視し、独裁的な行いをし、私達外国人を苦しめて非人道的なことをしているのはまぎれもない事実なのです。
 私たちの願いと要求は長期間の収容をやめて下さい。そして理由のない再収容もやめて下さい。私達を早く社会に戻して下さい。
平成30年3月2日
東日本入国管理センターの収容者より
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 以上の「嘆願書」に関連して、解説記事を公開しています。「入管の収容がどのような目的でおこなわれているのか?」、また「どのような人が収容されているのか?」、そして収容長期化の問題について述べています。「嘆願書」とあわせてごらんください。


 また、長期収容・再収容に対する抗議としては、昨年の5月に東京入国管理局での被収容者による集団ハンガーストライキがあり、これはマスコミでも広く報道されました。