Thursday, December 17, 2020

長期収容問題と勤務医の不適切な言動について(12月3日、東日本入管センターに申し入れ)

  12月3日(木)、東日本入国管理センターに口頭での申し入れをおこないました。


 前回記事で述べたように、コロナ禍にあっても、長期収容問題は改善されずに残っています。


いまも深刻な長期収容問題、被収容者が連名で嘆願書(東日本入管センター)- 仮放免者の会(PRAJ)(2020年12月13日)


 あとで述べるように、この長期収容にかかわる2点のほか、センターの勤務医の問題についても申し入れました。被収容者たちから面会などを通じて、勤務医がの不適切な言動が多数報告されています。これらについて、抗議するとともに、入管として勤務医を適切に監督・指導するよう申し入れました。


 申し入れ内容は、以下のとおりです。



(1)11月6日に早期仮放免を申し入れた3名について

 前回11月6日の申し入れでは、拒食状態にある4名の被収容者について、ハンストもしくは体が食べ物を受けつけなくなっている(食べても吐いてしまうなど)ために、長期間食事をとっていない4名の被収容者について、早期に仮放免するよう求めていました(→参照)。このうち1名はすでに仮放免されましたが、他の3名は依然として収容が継続しており、心身の状態が悪いことから、前回に引き続き、早期仮放免するよう申し入れました。



(2)自殺未遂をした被収容者について

 11月の下旬に40歳代の被収容者(「Kさん」とします)が自殺をはかりました。Kさん本人に面会して話を聞いたところでは、睡眠薬や痛み止めなどの処方薬が停止されて不眠が続き、イライラもひどく、精神的に限界だと感じて自殺しようとしたとのことです。睡眠薬等が停止されたのは、10月中旬です。このときKさんは極度の食欲不振のため拒食状態にあり、勤務医が食事をとらずに薬を飲むと胃が荒れるからと言って処方をとめたということです。


 Kさんに限らず、入管施設では、近年の収容長期化傾向のなかで、睡眠薬や精神安定剤のかなり強いものが処方されている被収容者が多くなっています。長期間の拘禁のなかで強い精神的なストレスや不安をかかえ、本来は収容に耐えられないような状態の人を、無理に収容しているということ。そうした無理な長期収容を、入管は薬物の力を使っておこなっているということではないのでしょうか。


 すくなくともKさんについては、睡眠薬が服用できないことでイライラが高じて自殺未遂におよんでしまうような精神状態にあったのであり、そもそも収容にたえられる状態ではなかったことはあきらかです。したがって、Kさんの収容をこれ以上継続すべきではなく、早期に仮放免すべきだということを申し入れました。



(3)勤務医の言動について。

 勤務医の言動が医者のものとは思えないという訴えが、複数の被収容者から寄せられています。たとえば、ある人は診察中に「日本人の税金をあなたたちに使うのはムダ」という暴言をあびせられたと言います。


 また、ハンガーストライキをおこなっている、あるいは体調不良で拒食状態にある被収容者に対して、勤務医が懲罰的に処方薬を中止しているとみられる事例を、複数確認しています。たとえば、先述のKさんは、睡眠薬とともに、湿布(運動で負傷した足首に使用していた)や目薬も、医師の指示により止められています。睡眠薬については、Kさんが食事をとっていないという理由で処方中止することがありうるとしても、湿布・目薬を出すのをやめるのは不可解です。懲罰あるいはKさんに対する嫌がらせを目的にしているとしか考えられません。


 同様に、Mさんという別の被収容者は、それまで処方され服用していた19種類の薬が、7月におなじ勤務医の指示ですべて止められました。Mさんの持病である糖尿病や高血圧症、心臓の病気を治療するための薬もふくめてです。


 こうした勤務医の言動は、患者の健康上の利益を尊重するという医療従事者の倫理規範に反しており、こういった行為を改めるよう入管から指導・監督すべきです。なお、Mさんについては、糖尿病等の持病の投薬が4か月以上も停止しているという深刻な状況にあるので、べつの医師が診察するなどして、治療を再開するための措置を早期にとるよう申し入れました。


 東日本入管センターに申し入れた内容としては、以上です。


 再三指摘してきたことですが、問題の核心は、入管が「送還忌避者」と呼ぶところの人びとに対する帰国強要のために、長期の収容という手段をもちいているところにあります。とくに、2015年以降、入管はそれまでは例外的であった2年をこえるような超長期収容を常態化させ、「送還忌避者」に対するきわめて強硬な送還方針をとってきました。人間に対して長期間にわたり自由をうばい監禁しようとすれば、それだけ管理・統制を強めざるをえなくなります。それが、一方では、懲罰的な隔離処分や職員による「制圧」行為の増加となってあらわれ、他方では、睡眠薬や向精神薬を多くの被収容者が服用せざるをえないという状況としてあらわれているのです。医療従事者の倫理的荒廃も、おなじ要因によるものでしょう。


 問題の根幹は、帰るに帰れない事情をかかえる人びとに対して、長期収容で自由をうばい苦痛を与えることで帰国に追い込もうという入管のやり方であり、これをあらためることなしには、収容されている人の人権と生命を守ることはできません。




関連記事


Sunday, December 13, 2020

いまも深刻な長期収容問題、被収容者が連名で嘆願書(東日本入管センター)

  全国の各入管収容施設は、3~5月ごろにかけて、仮放免許可を積極的に活用することで、多くの被収容者を出所させました。新型コロナウイルス感染拡大を受けて、施設内の密集を回避するためです。東日本入管センターでも、昨年12月4日時点で252名だった被収容者数(入管庁発表)は、現在では100名程度まで減っているとみられます。


 しかし、以下の記事でも述べたように、6月以降、仮放免の拒否判断はふたたび厳格化され、超長期の被収容者の仮放免申請が不許可になるケースがあいついでいます。


東日本入管センターに、拒食者などの早期仮放免を申し入れました- 仮放免者の会(PRAJ)(2020年11月14日)


 こうして、被収容者数は全体として大きく減少したものの、収容長期化はますます進行しているというのが現状です。


 こうした状況のなかで、東日本入国管理センターの被収容者たちが連名での「嘆願書」を作成しています。「嘆願書」は、早期の仮放免や帰国できない事情のある者への在留資格の付与などを求めたもので、国会議員などに送付しているとのことです。当会としても、「嘆願書」作成者たちから、収容所内の、あるいは仮放免されている仲間たちのおかれている問題を日本社会の多くの人に知らせてほしいということで、これを公表するよう要請されました。


 以下に「嘆願書」の全文を掲載します。長期収容問題は過去の問題ではなく、いまも進行中の問題であることを多くの人に知ってほしいと思います。


 「嘆願書」の署名欄には、署名者65名の名前のほかに、各人の国籍、収容期間、日本在留期間が記されていました。このうち国籍、収容期間、在留期間を集計したものをこの記事の末尾に資料としてまとめました。約100名の東日本センター被収容者全体のデータではないですが、これらの資料をとおして、常軌を逸して収容が長期化した状況が現在も続いているということ、またそのような状況に置かれても送還を拒否せざるをえないのはどのような人たちなのかということが、ある程度想像できるのではないかと思います。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


嘆願書


 茨城県牛久市の東日本入国管理センターに収容されている者を代表し、この嘆願書を書いています。


 長期の収容は心身にダメージを与え、仮放免後の後遺症が長く尾を引き、その後の人生にも大きく影響を及ぼす事になります。一日も早い仮放免が望まれます。

 また、仮放免後は仕事が禁止されていたり、移動の自由が制限されていたりと、人間として生きる権利が阻害されています。仕事をしなければ生きていく事は困難を極めます。

 我々は以下の事をお願い申し上げます。


  • 収容されている全ての人達の早期の仮放免を求めます。
  • 仮放免後は、自力で生活できる様、就労禁止という規則を撤廃し、仕事に就けるようにしてほしい。また、病気や怪我を負った時の為、医療保険に加入出来る様にしてほしい。
  • 日本国籍の配偶者や子供、永住権やその他の在留資格の配偶者がいる人には在留資格を認めて欲しい。
  • 難民を含む、日本に庇護を求めて来た人、長年日本で生活している人や幼少期から日本で生活している人にも在留資格を認めてほしい。


以上です。


 どうか、我々にこの日本にもう一度住むチャンスを与えて下さる様、お願い申し上げます。


東日本入国管理センター収容者一同

令和2年12月1日


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





【資料】署名者65名の国籍、収容期間、日本在留期間

1.国籍

国籍

人数

スリランカ

8

ブラジル

7

ペルー

4

ナイジェリア

4

ミャンマー

4

バングラデシュ

3

イラン

3

  そのほかに、ラオス、パキスタン、フィリピン、ベトナム、中国、ギニア、ネパール、カメルーン、コンゴ、インドが各2名、タンザニア、インドネシア、ウガンダ、トルコ、カンボジア、セネガル、米国、台湾、リベリア、ボリビア、ケニア、ジャマイカが各1名です。




2.収容期間

















 収容期間が何か月になると「長期収容」と呼ぶべきなのか、明確な答えがあるわけではありません。しかし、被収容者当事者や支援者の多くは、6か月以上の収容を「長期収容」として問題視することでだいたい見解が一致します。私たちも、会を結成した2010年以来、6か月をこえる「長期収容」をやめるよう、入管にくりかえし申し入れ等をおこなってきました。収容期間が6か月ほどになれば、ほとんどの被収容者は拘禁反応を発症するのであり(もちろん、もっと早く発症する人もいます)、これをこえて収容を継続するのは人権・人道の点から許容できないからです。

 ところが、現状は、1年、2年をこえるような収容が常態化し、4年をこえるようなすさまじい収容期間であっても入管が仮放免を許可しないというケースもめずらしくなくなっています。東日本センターの現状については次回の記事で追って報告しますが、強力な睡眠薬や精神安定剤を処方され、それなしには過ごせないとか、あるいは、拘禁ストレスからくる高血圧症に苦しんでいて、処方された降圧剤を服用しても血圧が下がらないとか、あきらかに心身が収容にたえられない状態にある人が長期間にわたって収容されているのです。



3.日本在留期間

















 過酷な長期収容にあっても送還を拒否せざるをえない人たちのなかには、日本での在留歴の長い人が相当数いるということが、グラフからうかがえるのではないかと思います。国に帰るに帰れない事情は人によってそれぞれですが、長年日本で暮らしてきてこの地にすでに定着しているということも、帰国できない事情として深刻なものなのです。

 先にみた苛烈な長期収容の状況は、それぞれに帰れない事情のある人たちを帰国に追い込むための手段として、入管が戦略的・意図的につくりだしている状況です。嘆願書にあげられている「日本国籍の配偶者や子供、永住権やその他の在留資格の配偶者がいる人」「難民を含む、日本に庇護を求めて来た人」「長年日本で生活している人」「幼少期から日本で生活している人」。こうした人たちを、出国に「同意」させるための手段として、「心身にダメージを与え」る長期収容がもちいられているのです。