一部報道が出ていますが、大村入管センターでは24日、ナイジェリア国籍の被収容者が死亡するという大変に悔やまれる事件がありました。
私たちは、生前のこのかたと面会したことがあり、それだけになおさら痛恨のきわみでありますが、このかたは2015年11月から通算3年半以上にわたって入管施設に収容されていました。現在の入管施設における「収容の超長期化」と言うべき状況のなかで起きてしまった死亡事件です。亡くなった経緯の事実関係はもとより、被収容者に対するセンター側の態勢・対応に問題はなかったのか、きちんと解明されなければなりません。
私たちとしても、亡くなった方を知っている被収容者たちとの面会などをとおして、事実関係の把握につとめているところです。今後とも、この点について、他団体支援者等と協力していきたいと考えています。
26日の申入書提出にさいしては、このたびの死亡事件について、以下3点を大村入管センター総務課にて口頭で緊急に申し入れました。
- 死亡した経緯・原因についてさかのぼって検証すること。
- 仲間の死にショックを受け強い不安をおぼえている被収容者たちに、死亡の経緯についてきちんと説明すべきであること。
- 懲罰的な隔離処分はすべきでないこと。
3は、入管側が被収容者3名を隔離処分としたことに対して抗議したものです。
25日に事件の報道を受けてショックを受けた一部被収容者たちと職員らのあいだでもみ合いがありました。目撃していた人によると、被収容者と職員の身体が接触する場面はあったものの、意図的にたたくというような暴力的なものではなく、けが人もいなかったということです。入管は、その翌日の26日になって、被収容者3名を隔離処分としました。
入管は、自損行為や職務執行の妨害を理由として被収容者を隔離することが「被収容者処遇規則」で認められていますが、懲罰的な隔離をおこなう権限はありません。ところが、今回のように、ことが起こった翌日になってから隔離をするというのは、懲罰とみなさざるをえません。かりに25日の時点で隔離をおこなうべき理由があったのだとしても、その理由・必要性がすでになくなっているであろう翌26日になって隔離するというのは、どういうことなのでしょうか? この隔離処分が、「職員に反抗したら痛い目にあわせるぞ」「規律を乱した者は狭い部屋に閉じ込めるぞ」という脅し・懲罰をとおして、被収容者の行動をコントロールしようという意図にもとづいていることはあきらかでしょう。
とりわけ、このときの被収容者たちは、仲間の死に悲しみ動揺しているところであったのだから、こうした暴力的な手段でおさえつけようとするのは、なおさらやめるべきであると考えます。これが、口頭で申し入れた3点目の趣旨です。
以下に、「申入書」として提出した書面を掲載します。なお、掲載にあたって、被収容者の実名はふせました。
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申 入 書
2019年6月26日
大村入国管理センター所長殿
申し入れ団体
難民支援コーディネーターズ関西
Save Immigrants
Osaka
TRY(外国人労働者・難民と共に歩む会)
WITH
仮放免者の会
関西で入管施設被収容者への支援をおこなっている団体・支援者の有志として、以下申入れます。
記
貴センターで収容の長期化がいちじるしくなっている。私たちが大阪局で面会支援してきた被収容者のなかにも、貴センターに移収されたのちも長期にわたり収容がつづき、大阪局からの通算収容期間が4年をこえる人が5名いるほか、2年超3年超といったすでに超長期と言うべき被収容者がめずらしくない事態となっている。
こうした異常な収容長期化は、貴センターが送還のための施設でありながら、送還の見込みの立たない被収容者の収容継続にかたくなに固執していることから生じている現状である。
以下の理由から、仮放免制度を弾力的に運用することにより、貴センターにおける収容長期化を是正するよう申入れる。
1.長期被収容者の健康状態の悪化
収容長期化にともない心身の状態がすでに限界と言える被収容者が多数いる。
たとえば、Aさん(イラン国籍、収容期間4年3ヶ月)は、収容後に精神の状態が悪化し、精神科に通院している。Aさんは昨年10月31日、処方されていた抗うつ薬と睡眠薬を飲んだ直後に全身の激しいふるえがとまらなくなり、貴センター職員が測定したところ収縮期血圧が210であった。このとき救急搬送された病院の医師の診断書によると、「興奮状態、易怒的、高血圧(薬物の副作用の可能性)」とのことであった。
収容前には健康だった人間が、長期収容の過程で、抗うつ薬・睡眠薬が必要とされるまでに精神状態が悪化し、しかも強い副作用の生じる可能性のある強力な薬が処方されている。病気を悪化させる要因である収容(身体拘束)は継続したまま薬を投与しても、治療の効果が期待できないばかりか、収容のストレスと薬の副作用とで心身はますますむしばまれていくよりほかない。
また、Bさん(スリランカ国籍、収容期間4年6ヶ月)は、通院先の病院の医師から昨年11月15日付で「変形性頸椎症に伴う筋緊張性頭痛」との診断を受けている(添付資料参照)。診断書は、この病気は「心因的な影響が大きく」、ストレスのある「今の環境が変わらない限り良くなるとは考えられない」とし、「薬物療法を続けるだけ無駄である」と結論付けている。このように、収容された状態では効果の見込まれる治療はできないと医師が断じているにもかかわらず、貴センターはBさんの収容を続けている。
上記の2人ように長期収容が心身の不調の原因であり、収容を続けるかぎり治療のしようのない病状にある人の収容を継続している一方で、貴センターは腸に癌のみつかった中国人被収容者を昨年9月に、また脳梗塞で倒れたミャンマー人被収容者を今年1月に仮放免した。ここには、貴センターにとって、長期収容によって被収容者の心身がどれほど破壊されようが知ったことではなく、高額な治療費がかかったり被収容者が収容所のなかで死亡したりする事態さえ避けられればよいのだという、人命・健康をいちじるしく軽視した姿勢がみてとれる。
2.収容長期化によって収容能力をこえた過剰収容がもたらされていること
被収容者は身体を拘束され行動をきびしく制限されているため、自分自身の意思で病院に行って診察を受けることはできない。したがって、これを制限している入管には、被収容者処遇規則にも規定されているとおり、被収容者の安全や健康を守る責任義務がある。こうした責任義務を果たす能力を欠くならば、入管は人を収容してその自由を奪う資格がない。
Cさん(ガーナ国籍、収容期間4年1ヶ月)は、昨年9月に外部病院を受診して、白内障と診断された。人の顔やテレビがぼやけてよく見えない状態だが、治療はなされず収容が継続している。
Dさん(ブラジル国籍、収容期間3年2ヶ月)は、運動場で右手人差し指を骨折するけがをした。1ヶ月ほどして骨折は治ったものの、固定具を外したところ、負傷した指をまったく動かすことができなかった。1月9日に診察した外部病院の医師は、入院もしくは通院して理学療法士の指導のもと毎日リハビリをおこなうようにと指示した。ところが、貴センターは週2回しかDさんをリハビリに通わせなかった。この頻度では回復は保証できないと医師が述べたにもかかわらずである。そのリハビリも打ち切られ、Dさんは人差し指を動かせない状態にある。
治療・リハビリを受ける機会を奪ったために被収容者が失明したり、あるいは生涯にわたって後遺症が残ったりした場合、貴センターはどうやって責任をとるつもりなのだろうか。
また、貴センターでは、3ヶ月ごとに被収容者の血圧と体重を測定しているほかは、定期健診をおこなっていない。4年も5年も人間を収容している施設としては、ありえないことである。
こうした事例からは、被収容者数に見合うだけの必要な医療体制を貴センターが欠いているということが言える。大村センターは、2015年から大阪入管・名古屋入管・東京入管からの移収が増え、さらに同時期から顕著になった収容の長期化傾向もあいまって、当時20名ほどだった被収容者数が現在では120名をこえるほどまで激増している。さきにあげた事例は、貴センターが過剰収容によって被収容者に対する健康管理義務を果たせていない現状を明らかにしている。
3.難民申請者への立証妨害
貴センターに長期間にわたって収容されている人のなかには、難民申請者も少なくない。難民申請者は、みずから証拠を集めて自身の難民該当性を立証しなければならない。難民申請者を長期間収容してその通信をふくむ行動の自由をいちじるしく制限することは、その立証作業を妨害し、公正な難民審査を受ける機会を奪っているということにほかならない。
以上述べてきた理由により、①1年を越える長期被収容者を仮放免すること、および②高血圧症や心臓疾患などの持病があり収容継続が危険な被収容者、収容による精神疾患者を即刻仮放免することを申入れる。
以 上
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関連ページ
大村入管センターにおける長期収容については、以下の記事なども参照してください。
- 長期収容の実態――大村入管センターを事例に - 仮放免者の会(PRAJ)(2018年9月3日)
- 大村入管センターから届いた絵 - 仮放免者の会(PRAJ)(2018年7月8日)
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