Sunday, December 29, 2019

【傍聴報告】スリランカ人強制送還国賠 次回判決言い渡し


 12月10日(火)、東京地方裁判所にてスリランカ人強制送還国賠訴訟の弁論が開かれました。この裁判は、2014年12月にチャーター機によって集団送還されたスリランカ人のうち2名が、強制送還によって裁判を受ける権利をうばわれたとして国に損害賠償を求めているものです。

 原告のふたりは、東京入管に身体を拘束された状態で難民不認定処分への異議申し立て棄却を通知され、そのまま入管がチャーターした飛行機に乗せられて、送還されました。

 今回の弁論では、原告弁護団の駒井知会弁護士による意見陳述がおこなわれました。駒井弁護士は、Bさんが入管職員から難民異議棄却を告げられたときの様子を描写・再現することから意見陳述をはじめました。Bさんは、これから自分が強制送還されようとしていることを知り、恐怖のあまり床に座りこみ身体をふるわせ、「スリランカで殺される」「弁護士呼んで」と訴え、裁判をする意思を伝えました。東京入管が保有するこの場面の映像は、5月に法廷で上映されました。

 入管の職員はこのときBさんに、難民異議棄却の決定に対して不服がある場合は取消請求訴訟をおこなうことができることを説明しています。にもかかわらず、入管はBさんの裁判の意思を無視して強制送還を実施しました。入管の決定に対しては不服ならば裁判の場でこれを争うことができるということを口では説明しながら、強制送還してそれを封じてしまう。入管という行政機関の職員たちが、自分たちの今まさに発した言葉をその場で裏切る行動をしている様子が、映像にうつっているわけです。どうしてこんなむちゃくちゃがまかりとおっているのだろうか、と思わずにはいられません。

 そして、Bさんが床にへたりこみ恐怖におのきながら懇願する映像は、冷静に見られるものではありませんでした。

 駒井弁護士は意見陳述の最後に、「難民申請者も人間です」と述べ、「日本が基本的人権を尊重される国であること、手続保障が適正に行われる国であることを示してください」と裁判官たちにうったえました。

 難民申請者が人間であるのは、あたりまえです。しかし、この裁判の原告たちに対する入管の仕打ちを目にしたとき、「難民申請者も人間です」という、わざわざ言葉にするまでもないあたりまえの事実をうったえざるをえません。

 人間について「○○も人間である」などと言明しなければならないような社会であってはなりません。難民申請者があたりまえに人間としてあつかわれるような社会へと日本がかわっていくために、この裁判は重要な意義をもっているとあらためて思いました。

 この日の弁論で裁判は結審となりました。次回は、判決の言い渡しとなります。都合のつくかたは、ぜひ、傍聴をお願いします。


日時:2020年2月27日(木曜)、13:10
場所:東京地方裁判所 705法廷


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Wednesday, December 4, 2019

【傍聴呼びかけ】スリランカ人強制送還国賠 12月10日次回弁論 東京地裁


 入管庁は、収容長期化問題への対策などを検討するとして、有識者などからなる「収容・送還に関する専門部会」を立ち上げました。この専門部会では、「当事者の声を聞いて! 法務省に申し入れ 収容・送還について」で述べたように、難民申請中の者の強制送還を可能にすることをふくめた、送還強化のための制度変更などが議論されていくとみられます。

 難民申請者を強制送還することは、日本も加盟する難民条約に違反するのはもとより、現行の入管法(難民認定及び出入国管理に関する法律)でも禁止されています。難民条約との整合性をどう考えているのか知りませんが、入管庁が専門部会をつうじて難民申請者の強制送還を可能にする法改定をねらっているのはまちがいありません。部会での議論に注視しつつ、難民認定制度をいま以上に骨抜きにする法改悪に反対の声をあげていく必要があります。

 さて、すでに入管当局は、現行法のもとでもきわめて脱法的なやり方で(というよりも、「違法」と言うべきだと私たちは考えますが)難民申請者を強制送還した例があります。入管施設に監禁して身体を拘束した状態で難民申請の却下を通知し、そのまま空港に連行して航空機にのせるというやりかたでの送還です。

 ここで重要なのは、現行制度において、難民認定審査と退去強制業務の2つが、「入管」という1つの組織のなかでおこなわれているという点です。このため、入管は、ある人を強制送還する日時をまず決めたうえで、その日時の直前に難民申請の却下を本人に通知する、ということが可能です。つまり、難民不認定という入管がくだした行政処分に対して、裁判所にうったえて争うという時間をあたえずに強制送還してしまうという、いわば「裁判封じ」が入管にとって可能なのです。

 これは、難民審査が、退去強制(強制送還)ふくめた出入国管理から独立しておらず、それどころか従属していると言うべき事態です。そしてこの手法での送還は、形式上は難民申請者を強制送還したことにはならない(難民申請を却下したあとに送還がおこなわれているので)かもしれませんが、行政処分を受ける者に保障されるべき裁判を受ける権利を奪うものであり、きわめて問題があります。

 こうした難民申請者に対する「裁判封じ」の強制送還がおこなわれたのが、2014年12月のチャーター機を使った集団送還(スリランカ人26人とベトナム人6人)においてです。このときに送還されたスリランカ人のうち2名が原告となって、国に損害賠償をもとめる裁判をたたかっています(2017年10月19日提訴)。次回の弁論が、以下の日時・場所にておこなわれます。

日時:12月10日(火曜) 16時45分
場所:東京地方裁判所 522号法廷

 これがおそらく結審となるとみこまれます。ご都合のつくかたは、ぜひ法廷にて傍聴をお願いします。


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 前回弁論の傍聴を呼びかけた記事もあわせてごらんください。





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Sunday, December 1, 2019

入管庁が仮放免者による「殺人未遂事件」をでっちあげ 資料捏造問題

 出入国在留管理庁(入管庁)が、入管施設に収容している外国人について虚偽の事実を掲載した資料を公表していたことがわかりました。石橋通宏参議院議員が11月28日の国会質疑(厚生労働委員会)であきらかにしました。

 問題となっているのは、「送還忌避者の実態について」と題された資料で、10月1日の法務大臣記者会見において記者に配布され、法務省のウェブサイトにも公開されていたものです。この資料は、「送還忌避被収容者の実態」「被退令仮放免者の実態」といった項目からなり、送還を拒否している人の難民申請の状況、過去の犯罪歴などについての情報をのせています。

 石橋議員が追及したのは、この資料の5ページ、「送還忌避者の実態②~被退令仮放免者が関与した社会的耳目を集めた事件~」にあげられている「事例4」です。



 資料は「警察官殺人未遂事件」となっていますが、これは虚偽です。

 私たちは、ここで「警察官殺人未遂事件」の「加害者」とされている方が現在入管施設に収容されているCさんであることを、資料に記された事件発生年月・場所などから特定し、ご本人と面会して話を聞くことができました。たしかにCさんは殺人未遂・銃刀法違反・公務執行妨害の容疑で逮捕されていますが、殺人未遂については起訴にもいたらず、公務執行妨害については無罪、銃刀法違反についてのみ有罪・執行猶予という判決が確定しています。

 つまり、この事例において、「殺人未遂事件」という事実はありませんし、被害者の存在しない銃刀法違反についてCさんを「加害者」と呼ぶのもまったく不適切です。

 さて、石橋議員の追及に対して、宮﨑政久法務大臣政務官は、資料の問題の箇所は、捜査機関から入管当局になされた通報にもとづいて(つまり、Cさんが逮捕・勾留された時点での情報をもとに)書かれたということを述べています。刑事裁判開始前に資料は作成されており、その後の確定した判決結果の確認をこころみることはしていなかったのだ、と。そのうえで政務官は、事実を歪曲したり、犯罪事実を誇張する意図はなかったとしています。

 しかし、入管庁が資料の作成・公表にあたって、確定した判決の内容(銃刀法違反のみで有罪)を確認していなかったとはとうてい考えられません。

 逮捕から半年後の2018年2月に判決が言い渡され、Cさんの身体は検察から入管局へと引き渡されます。このとき以来、Cさんは入管施設に収容されており、資料が公表された2019年10月においても、入管によって身体を拘束されていました。入管庁がみずからの施設で身体を拘束しているCさんについて、確定した判決の内容を知らず、逮捕当時の容疑のひとつであった「殺人未遂」では起訴すらされていなかった事実を知らなかったわけがないのです。

 とすると、石橋議員が指摘するように、入管庁は、仮放免者が悪いことをしているかのような誘導・宣伝をするために、虚偽の事実を書き込んだ資料を公表したと考えるほかありません。

 かりに、ありえないことですが、百歩ゆずって入管庁の職員が、確定した判決の内容を知らずにこの資料を作成したのだと仮定しましょう。そうだとしても、裁判開始前のまだ捜査中の段階で「殺人未遂」の容疑がかけられていたという事実をもって、まるで仮放免者が凶悪事件の「加害者」となったかのように宣伝する資料を作成するなど、決定的に人権意識を欠いたきわめて悪質な行為であって、けっして容認できるものではありません。

 前回の記事で述べたように、現在、入管庁は「収容・送還に関する専門部会」を立ち上げ、いま以上に強引な送還を可能にする制度変更を議論しようとしています。当事者である被収容者・仮放免者の声を聞く機会をもうけることなしにです。

 専門部会の第1回会合(10月21日)では、この「送還忌避者の実態について」が入管庁より部会のメンバーに配布されたということです。送還をこばんでいる人びとについて、虚偽の事実によってネガティブな印象をはりつけようとする資料をもとに議論がすすめられるのは許されることではありません。入管庁の配布した資料の捏造があきらかになったことについて、専門部会の部会長と委員諸氏がどのように対応するのか、注視していきたいと思います。


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 石橋議員による質疑の動画は、以下のリンク先でみれます。

参議院インターネット審議中継
https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?sid=5524#4481.4
(1:52:15ごろから入管庁資料についての質疑がはじまります)

 入管庁資料「送還忌避者の実態について」は、法務省サイトの以下リンク先でPDFファイルで公開されていましたが、28日の石橋議員の質問のあと、その日のうちに削除されたもようです。

法務省:送還忌避者の実態について
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri09_00053.html

 法務省が理由の説明なしで資料を削除したことは、問題追及をさけるための隠蔽を意図したものとみなさざるをえません。入管庁が事実を捏造した資料を作成・公表したという事実は重く、問題の資料「送還忌避者の実態について」は広く批判的に検証される必要があると考え、参照できるように以下のリンク先からコピーをダウンロードできるようにしておきます。

https://bit.ly/2q1PHT5

 なお、一見して分かるように、この資料では、「送還忌避者」がいかに法に従わず、凶悪な犯罪を行い、円滑な行政の運用を妨げる存在であるか、といったことがこれでもかと強調されています。法務省がこの資料を公開した意図はあきらかだと言っていいでしょう。

 このたび発覚したのは、あたかも「送還忌避者」が日本社会にとって危険な存在であるかのように喧伝するこの資料において、法務省が虚偽の事実をでっちあげることすらしていたということであって、これは行政機関としての信頼を失墜させるきわめて重大な問題です。法務省・入管庁は、世論を誘導するために事実を捏造した資料をばらまくようなことをしたわけです。それでいて外国人に対しては「偽造旅券はダメ」だとか「申告内容に虚偽が含まれていたから在留資格を取り消します」だとかどの口で言えるのでしょうか?

 法務省は、虚偽の資料が作成・公表されるにいたった経緯を徹底的に調査するとともに、責任者を厳正に処分すべきです。


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