入管の収容長期化問題が社会的に注目されるなか、出入国在留管理庁(入管庁)は「収容・送還に関する専門部会」において、収容長期化の防止策などの検討をはじめました。専門部会は、10月21日の第1回からこれまで3回の会合が開かれたようです。
法務省がウェブサイトで公表している情報やマスコミ報道などから考えて、専門部会は、つぎのような点の法制化にむけて議論をおこなっていくとみられます。
(1)難民申請中の者の強制送還を可能にすること
(2)送還拒否に対する刑罰の創設
いま以上に強引な送還を可能にする政策議論が、当事者の声を聞くことなしに進められようとしていることに、私たちは仮放免者の当事者団体として強い危惧をおぼえています。過酷な長期収容をへても送還に応じられないのは、帰国しようにもできない事情を当事者それぞれがかかえているからです。
本ブログでもこの間お伝えしてきたように、どうしても帰国できない事情のある被収容者・仮放免者(※注)に対し、法務省は、強硬かつ強引に送還を推し進めてきました。今、各地の入管収容施設で勃発しているハンストは、その矛盾が極点に達したことを示すものです。
このような、当事者の命を賭したたたかいに対して、法務省は、この状況をまねいたみずからの政策の誤りを認めようとせず、そればかりか、いったん仮放免許可を出しておいて、2週間後に再収容するという、人命をもてあそぶような、虐待、拷問とも呼ぶべき挙に出ました。このようなやり方は、当然のことながら、当事者のみならず、社会からの広汎な批判をまねいています。この間の経緯にかんがみれば、法務省の政策は完全に失敗していることは、もはや明白です。にもかかわらず、当事者の必死のたたかい、社会からの広汎な批判などなかったかのように、平然と「収容・送還に関する専門部会」が立ち上げられ、上のような政策がまたもや押し通されようとしています。
しかし、当事者の声、社会の批判を全く顧みない政策は誤っています。
そこで、専門部会の第3回の会合がおこなわれた11月25日に、検討にあたって当事者(仮放免者と被収容者)から状況・意見を聞く場をもうけてほしいとの申し入れを仮放免者の会としておこないました。
申し入れに先だって、「収容・送還問題を考える弁護士の会」「仮放免者の会」の共催で記者会見をおこないました。
- 入管問題「なんで帰らないのか、ぼくたちにも聞いて」外国人らが悲痛な訴え - 弁護士ドットコムニュース(2019年11月25日 15時43分)
- 外国人の長期収容問題、法務省に申し入れ - TBS NEWS(11月25日 14時27分)
記者会見のあと、仮放免者当事者と支援者、弁護士で法務省をおとずれ、申入書を手渡そうとしましたが、職員が受け取らなかったため、以下の申入書を郵送しました。
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申 入 書
2019年11月25日
法務大臣 森まさこ 殿
出入国在留管理庁長官 佐々木聖子 殿
「収容・送還に関する専門部会」部会長 安冨潔 殿
同部会委員各位
仮放免者の会
10月21日より、第7次政策懇談会「収容・送還に関する専門部会」が開かれています。この専門部会は、収容の長期化を防止する方策などを議論し検討するために、法務大臣が設置したものです。
私たちは、収容の長期化が問題として取り上げられ、その対策が議論されること自体は歓迎します。しかし、マスコミ報道によると、この専門部会では、「迅速な送還」のための難民認定制度の改変や送還拒否に対する罰則の創設などが検討されているとのことです。収容長期化問題への対策が、もっぱら「送還忌避者」を日本からいわば追い出すという方向でのみ議論されること、またその議論が当事者の声を聞かないまま進められていることに、私たちは強い危惧をいだいています。
私たち仮放免者の会は、退令仮放免者の当事者団体です。退去強制令書発付処分を受けた私たちの多くは、入管施設に収容された経験があります。また、私たちの仲間の多くが現在長期収容に苦しんでいます。過酷な収容をへても私たちが帰国しないのは、帰るに帰れない事情をそれぞれにかかえているからです。難民であること、あるいは日本に家族がいること、長期間日本に滞在してきて国籍国にはすでに生活基盤がないことなどです。帰るべき「国籍国」自体がなく、事実上の無国籍状態の者も私たちの仲間にはいます。
こうした当事者たちの日本での在留を求める事情を委員の方々が聞き取りするなどして具体的に知っていただけば、「迅速な送還」という方向からのみ収容長期化問題の対策を考えることがはたして妥当なのか、問われることになるでしょう。また、長期収容が人間の心身にどのような影響をあたえるのか、収容の経験がいかに過酷なものなのか、当事者から直接に話を聞くことも、収容長期化の防止策を検討するうえで重要であるはずです。
収容と送還は、当事者である仮放免者および被収容者の基本的人権にかかわることです。入管施設で被収容者が病死する、あるいは自殺するという事件は現にくり返し起こっており、国籍国に送還されれば命が危険にさらされる者もおります。収容・送還は、当事者にとって命にかかわる問題と言っても過言ではありません。当事者たちの実情を具体的に知らずに軽々しく議論してよい問題ではありません。
法務省や入管庁が「送還忌避者」という言葉でひとくくりにする当事者ひとりひとりに、送還をこばんでいる理由・事情があり、過酷な長期収容にも耐えざるをえない苦悩があります。もちろん当事者の全員にのこらず面会してその訴えを聞いてほしいなどと求めているわけではありません。しかし、収容・送還に関して政策に反映される議論をする以上、何人かでも当事者から直接の聞き取りをおこない、収容や送還が人間にどのような影響を与えうるのか(また現に与えているのか)を具体的に知ることは、最低限の責任と言うべきでしょう。「送還忌避者」という観念ではなく、ひとりひとりの人間の生命・健康や人生に影響する議論をおこなっているのですから。
どうか、当事者である仮放免者・被収容者から状況・意見を聞く場をもうけてください。
以 上
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※注:このようにどうしても帰国できない事情のある被収容者・仮放免者を、法務省は「送還忌避者」とラベリングし、 かつて「治安への懸念」として煽ったやり方を さらに全面的に展開したキャンペーンを張ろうとしています。法務省のこのようなやり方は、許されるべきものではありません。今後、本ブログで批判を加えます。