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Tuesday, April 10, 2018

入管施設の収容長期化問題について――被収容者「嘆願書」によせて




1.はじめに
 前の記事で紹介した「嘆願書」は、被収容者たち自身によって書かれた、長期収容をやめるようにとの要求です。ここで主張されている長期収容の不当性や、また被収容者たちのおかれた切実さをよりよく理解するために、入管による「収容」とはなにかということをふまえておきたいと思います。


2.入管の収容の目的はなにか?
 まず、嘆願書では「ここは刑務所ではありません」と述べられていますが、東日本入管センターなど入管収容施設の収容の目的はなんなのか、また、どのような人が収容されているのか、ということを述べます。

 東日本入管センターや大村入管センターに収容されている人々の大多数は、入国管理局(入管)からすでに「退去強制令書発付処分」を受けた外国人です。「退去強制令書(退令)」が発付されるのは、入管が審査をおこなって「退去強制事由」に該当するとした外国人です。「退去強制事由」とは、出入国管理及び難民認定法(入管法)第24条に規定されたもので、入管はこれに該当する外国人に対して退去強制(強制送還)をおこなう権限を与えられています。

「退去強制事由」として入管法に規定されているものはさまざまにありますが、ごく大ざっぱに言って、以下のようなことがらが「退去強制事由」にあたります。

(1)不法入国(正規の手続きをふまずに入国したということ)
(2)不法残留(入管が許可した在留期限をこえて日本に在留したということ。いわゆる「オーバーステイ」)
(3)資格外活動(在留にあたって入管に許可された範囲をこえた活動をおこなったということ。就労の認められていない在留資格で就労した、あるいは留学生が許可された時間の制限をこえて就労した、など)
(4)刑罰法令違反(在留中に刑罰法令に違反したといういうこと)

 (1)~(3)は、入管法にさだめられた手続きをふまなかった、あるいは、入管に許可された範囲をこえて在留や活動をおこなったという点で「違反」ではあります。もちろん、その違反行為そのものは、他者に危害をくわえたものとはいえませんが、これらは「退去強制事由」にあたるとされ、退令発付処分を受けた場合、送還対象者として原則として収容されることになっています。

 (4)は、窃盗や傷害、あるいは違法薬物などに関する犯罪行為によって送還の対象となるものですが、この理由で入管に収容されているひとは、すでに懲役刑などの処罰を終えています。むろん、刑務所での懲役等は、受刑者の更生・社会復帰を目的に科されるものですが、刑期を終えて出所したあとにさらに本人の意思に反して退去強制を科すことは、場合によっては、本人が更生してやり直すことを非常に困難にしてしまう、ということもありえます。

 (1)~(3)の入管法違反にせよ、(4)の刑罰法令違反にせよ、入管による収容は、犯罪行為に対する処罰・制裁としておこなわれているものではありません。では、入管の収容の目的はなにか。入管法にさだめられた収容の位置づけは、「退去強制を受ける者を直ちに本邦外に送還することができないときは、送還可能のときまで」収容することができるというものです(「出入国管理及び難民認定法」第52条第5項)。つまり、送還が可能になるときまでの一時的な身柄の確保ということにすぎないのです。

 したがって、嘆願書の述べる「私達収容者の中には、1年、2年の収容を越える人が多く、中には3年近くも収容されている人もい」るという事態は、きわめて異常なものなのです。


3.長期収容はなぜ問題なのか?
 送還までの身柄の確保という名目での収容にもかかわらず、収容期間が2年や3年をこえている被収容者が多数いるということ。これは、入管にとって送還の見込みのないにもかかわらず、いたずらに収容を長引かせ、被収容者に肉体的精神的な苦痛を不当に強いているということであって、収容権の濫用と言うべきです。

 私たち仮放免者の会は、6ヶ月をこえる収容は「長期収容」であるとして、これをやめるよう申し入れ等をこれまでもおこなってきました。入管での収容はきわめて過酷なものであって、遅い人でも収容期間が6ヶ月をこえるころには、例外なく拘禁反応とみられる症状(高血圧、不眠、頭痛、めまいなど)に苦しみはじめます。先の「嘆願書」は、「8か月から12カ月の収容は仕方ありません」と述べていますが、6ヵ月をこえた収容が人権・人道上の観点から問題だと十分に言える理由があるのです。収容期間が2年をこえることが常態化し、3年になる人すらいるという現状は、なおさら異常きわまりないものです。

 入管センターなどで面会活動をおこなっている支援者は、半年をこえて収容されていて健康上の問題がとくにないという被収容者と出会うことは、めったにありません。長期間収容されている人はほとんど例外なく、上に述べたような拘禁反応を発症しており、持病のある人はこれを悪化させています。そのうえ、入管収容施設の医療体制は貧弱きわまりないものです。300人超が収容されている東日本入管センターの場合、被収容者が診療を求める申し出をおこなってから受診できるまで1ヵ月ほど待たされるのが通常ですし、昨年の3月には、激しい頭痛を訴えていたベトナム人被収容者が1週間以上ものあいだ病院に搬送されずに放置され、くも膜下出血で亡くなるという事件もありました【注1】

 6ヶ月をこえるような長期収容と被収容者の人権尊重はけっして両立しえません。長期収容は、かならず被収容者の健康を害することになるからです。人間を健康が害されるほどに長期間監禁し、肉体的精神的な苦痛を与える行為を正当化することはできるでしょうか。懲罰がこれを受ける者にとって苦痛であることは、当然だと言われるかもしれません。しかし、入管の収容は法律上懲罰として位置づけられているものではないし、懲罰的な機能が生じてよいものでもありません。そして、かりに懲罰であったとしても、これを受ける人間の健康を破壊するような懲罰は、おこなってよいわけがありません。

 そういうわけで、長期収容は、人権侵害にしかなりえない、どのようにしても正当化できないものなのです。


4.長期収容を回避するために
 入管の収容目的は、先に述べたとおり送還のための身柄確保です。ところが、入管が送還の見込みがないにもかかわらず収容をつづけるために収容の長期化傾向が生じ、被収容者に無用無意味な苦痛を与えることになっています。こうした無用なだけでなく人権侵害をもともなう長期収容を回避するために、「仮放免」という制度を活用することができます。「仮放免」とは、就労しないことや移動の制限といった一定の条件のもとに一時的に収容を解くことです。

 しかし、「仮放免」は在留資格ではなく、依然として入管によって送還の対象とされていることにかわりありません。一時的な措置として出所が許可されているということにすぎないのです。仮放免の状態では、就労することも許されず、健康保険にも入れないため病気があっても通院もままなりません。

 つまり、仮放免で長期収容を回避することはできても、根本的な解決にはいたりません。収容が長期化している人をまずは仮放免するとともに、退令が発付されているけれども帰国しようにも帰国できない人について、在留資格を認め、その在留を合法化していくことも必要です。

 「嘆願書」にも述べられているように、入管センターには、「日本で生まれて日本しか知らない若者や、日本にしか家族がいない者、結婚し妻が外で待っている者、子どもが日本にいる者、自分の国に帰ることができない難民、日本に長期間滞在し自分の国に帰る場所がない者等」が多く収容されています。入管に摘発されて退令を発付された人の大多数は送還されています【注2】。送還される人のほとんどは「自費出国」といって、自分で航空機券代を負担して送還されています【注3】。そうして多くが送還されていくなか、「嘆願書」が述べているような事情でどうしても「帰国」できない人びとが、過酷な長期収容をたえている、というより「たえざるをえない」のです。

 退令発付処分を受けて送還対象になっているけれども、日本社会に深く定着していたり、あるいは「帰国」先に危険や生活上の困難があったりで、「帰国」しようにも「帰国」できないという人びとの存在は、2010年ごろから仮放免者の急増として次第に可視化されてきました。これは、バブル期以来の矛盾にみちた外国人労働者導入政策、そして、きわめて消極的な難民認定といった、日本の政策・制度の結果として生じている現象です。このことは、このブログでもこれまでくり返し示してきました【注4】

 こうした人びとを、法務省・入管当局が現在おこなっているように、長期収容・再収容、あるいは無理やりの送還といった送還執行の強化によって減らしていくということは、人権・人道上の見地から問題であるだけでなく、現実的に不可能であるということも、くり返し主張してきたとおりです。

 不法滞在状態にある人びと全員を送還によって「一掃」するなどという可能性は、極右思想にとらわれた者の頭にとりついた幻想のなかにしか存在しません。そんなことが現実的に可能なわけがないし、入管当局だって退去強制事由に該当する人をすべて送還しているわけではありません。退去強制手続きの過程で、あるいは退去強制令書を発付した後に、法務大臣権限で在留特別許可を出すということが入管法上できるわけですし、げんに入管当局はこれを一定程度活用してもいます。

 退去強制事由にあたるからといってこれをすべて送還の対象とするということは、現実的に不可能であるというだけでなく、そうすべきでない理由もあります。

 送還先で迫害等の危険があるひとを送還すべきでないのは言うまでもありません。

 また、違反内容とこれに対する処分のバランスの問題もあります。たとえば、長期間日本に滞在してきた人、あるいは送還されれば日本にいるパートナーや子と引き離されてしまう人の場合、強制送還がもたらす不利益ははかりしれないほど大きなものとなります。一般に、日本社会への定着の度合いが深くなればなるほど、送還という処分によって受けるダメージは大きくなるといえます。したがって、送還される人の状況によっては、強制送還という処分のもたらす不利益が、おかした違反行為に比して過分に重すぎるということも起こりうるのです。

 退去強制事由にあたるとされ退令をすでに発付された人びとについて、その在留を合法化して救済する制度がありながら、これを十分には活用せず、送還執行を厳格化するという無理な方針に固執してきたということ。このことが、長期収容問題を生じさせているのだということは、広く理解されてほしいとおもいます。




【注】

1.以下の記事を参照。


2.『出入国管理白書』によると、たとえば2016年度の統計では、退令発付件数が7,241件、被送還者数が7,014人です。もちろん、退令の発付と送還の執行との間には時間差がありますので「退令を発付された7,241人のうち7,014人が送還された」と言えるわけではありません。しかし、退令発付された人のうち、およそ97%(7,014/7,241×100)は送還されていると推計しても大きくははずれていないでしょう。

3.『出入国管理白書』によると、2016年度の被送還者数7,014人のうち、6,575人(およそ94%)は自費出国。

4.たとえば、以下の記事などを参照。


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