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Tuesday, November 8, 2016

裁判傍聴記(1)――大阪入管診療拒否事件


  9月16日(金)、Aさんの国家賠償請求訴訟の第1回期日があり、これを大阪地方裁判所にて傍聴してきました。


  裁判は、予定どおり13時10分に大阪地裁の806号法廷で開廷しました。小さな法廷でしたが、15人ほどの傍聴人が集まり、傍聴席はいっぱいになりました。

  原告席には、中井雅人・清水亮宏両弁護士が着席。原告のAさんは不在。大阪入管に収容中であるとはいえ、原告本人がこの場に来れないのはおかしいという気もします。

  被告席には、国側の弁護士2名のほか、大阪入管の職員3名の姿もありました。

  まず、原告意見陳述として、この場に来れないAさんにかわって、清水弁護士がAさんの陳述書を読みあげました。Aさんは、大阪入管にこれまで治療を拒否され続けてきたこと、費用を自分で出すと言っても診療を拒否されたこと、入管が何もしてくれないためにストトレスがたまり心身ともに状態が悪化していることなどを述べ、「しっかりと裁判長には書類を読んでもらいたい」とうったえました。

  つぎに、中井弁護士が原告代理人意見陳述をおこないました。中井弁護士は、法務省入国管理局が「全件収容主義」という考えをとっていること、また刑事事件であれば要求される司法審査をへないで入管が身体拘束をおこなっているということについて、批判しました。そのうえで、こうした形で被収容者の身体の自由をうばっている以上、入管には「被収容者の生命・健康に対して最高度の注意義務がある」と指摘しました(中井弁護士による「原告代理人意見陳述」はこの記事の末尾に全文を掲載しましたので、ぜひ一読してください)。

  人の身体を拘束しておきながら、診療をせずに放置し、収容主体としての最低限の責任すら果してこなかった大阪入管に対しては、あらためて怒りがわきます。Aさんは、右半身がしびれるとか、口元が思うように動かなくてろれつが回らないといった症状をうったえてきました。常識的にみて、尋常ではない症状です。このような症状を、もし家族や友人がうったえたならば、放置するということはありえないでしょう。ところが、大阪入管はAさんの診療要請を拒否しつづけました。死の恐怖をおぼえるようなひどい症状をくりかえしうったえても、とりあってもらえず、診療を拒否される。Aさんの絶望感・孤立感たるや、想像するにあまりあります。

  裁判では、Aさんに対する大阪入管の医療ネグレクト、人権侵害が追及されることになるのだと思われます。同時に、この裁判が、入管による「収容」のありかたについて、人身の自由、基本的人権の観点から根本的に問い直される機会になってほしいものです。今後とも、この裁判に注目したいと思います。

  この日は、被告である国側による答弁書は出ておらず、11月までに被告が提出するということになり、次回の期日は11月18日(金)13時からと決まりました。引き続いての傍聴・注目をよろしくお願いいたします。


第2回
  日時:11月18日(金)  13:10~
  場所:大阪地方裁判所806号法廷




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追記)
  この第1回期日のひらかれた前日にあたる9月15日、Aさんふくめた大阪入管の被収容者3名に、当ブログの以下記事を印刷したものを差し入れしようとしましたが、大阪入管(福山宏局長)はこれを許可しませんでした。
  差し入れを認めないのは保安上の理由からということのようですが、読んでもらえればおわかりのとおり、裁判への注目と傍聴を一般に呼びかけただけの、どうということのない記事です。保安上の問題などあるはずがありません。たんに大阪入管に対する批判的な言及のある記事を被収容者が読むのはゆるせない、というだけの理由での不許可であることはあきらかです。国の機関であり、公的機関としての体裁をたもたなければならないという自制すら、もはや現在の大阪入管にははたらかなくなってきているようです。




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原告代理人意見陳述書
2016(平成28)年9月16日
 大阪地方裁判所第7民事部 御中
原告訴訟代理人 弁護士 中 井  雅 人
 身体が不当に拘束されてはならないことは、あまりにも当然のことです。あたりまえ過ぎるため、日本国憲法は、人身の自由を正面から定めた明文規定を置かず、憲法31条以下において、身体拘束等について適正手続を定めることで、人身の自由を実質的に担保しようとしているのです。
 特に、刑事事件においては、憲法31条以下の規定が刑事訴訟法においてさらに具体化され、「被疑者」「被告人」には、令状発付審査、準抗告、保釈等かいくつもの司法審査を受ける権利が保障されています。身体拘束は生命を奪うことに次ぐ重大な人権制約であることからすれば当然のことです。また、特に昨今の刑事司法実務においては、身体拘束という人権制約の重さにかんがみ、罪証隠滅及び逃亡を疑うに足りる相当の理由を厳格に審査し、身体拘束からの解放を認めようとする傾向にあります。
 他方、法務省入国管理局(日本政府)は、退去強制事由に該当する疑いさえあれば、逃亡の危険等、収容の必要性がない場合であっても、人身の自由を奪う収容が可能であるという「全件収容主義」という考えを一貫してとってきました。これは、外国人にも原則として人身の自由が保障されるという当然の考え方と相容れない解釈です。
 このように入国管理局は、司法審査を経ず、かつ「全件収容主義」のもとで、被収容者の身体の自由を奪っているわけですから、被収容者の生命・健康に対して最高度の注意義務があるといえます。当然、入管法61条の7を受けた被収容者処遇規則は、「所長等は、被収容者がり病し、又は負傷したときは、医師の診療を受けさせ、病状により適当な措置を講じなければならない。」と定めています。
 しかし、大阪入管では、外部の専門医の診察を受けることができないだけではなく、どんなに体調不良を訴えても、そもそも医者と会うことすらできないという現状にあります。
 「高血圧や糖尿病の人、聴覚が異常に低下している人などが、何度も何度も何度も医者に診てもらいたいと訴えても、診てもらえない。痛みに耐えかねて抗議すると、懲罰房(独房)に入れられ、制裁を加えられる。」という現状があります。
 本訴原告は、医療を受けられない被収容者の中でも、脳梗塞歴がある生命の危険が高い、特に深刻な問題のある方です。それにも関わらず、訴状記載の事案の概要のとおり、度重なる診療拒否を受けています。職員の勝手な判断によって、血液の流れをよくする薬の投薬中止も受けています。入国管理局では、過去に死亡事故を複数件発生させています。失われた人の命は二度とも戻ることはありません。 
 裁判所には、憲法及び入管法の正しい解釈を踏まえた、迅速で適正な判断をお願いしたいと思います。
以 上

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