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Thursday, March 30, 2017

「痛い、痛い」と訴えるも放置――東日本入管センターでベトナム人被収容者が死亡



  またもや入国管理局(入管)の収容施設で死亡者が出ました。

  東日本入国管理センター(茨城県牛久市)に収容されていた40歳代のベトナム人男性Nさんが、亡くなりました。新聞報道等によると、Nさんは搬送先の病院で3月25日午前2時20分ごろに死亡が確認されたと同センターが発表したようです。死因は不明で、牛久警察署が司法解剖をおこない死因を調べる方針だとのことです。

  仮放免者の会としては、Nさんが死亡にいたった経緯などについて、現在、調査をしています。死亡の原因については今後の解明を待たなければなりませんが、死亡にいたるまでNさんがくりかえし痛みをうったえ診療を求めていたにもかかわらず、同センターはこれを詐病扱いしてとりあわなかったことが明らかになりました。

  Nさんが他の入管収容施設から移収されて東日本入管センターに入所したのが、3月15日(水)。同18日に、亡くなるまでを過ごしたブロック(収容区画)の単独室に移されます。以下、Nさんと同じブロックに収容されていた人が支援者にあてた手紙と、面会での聞き取りなどから明らかになった同センターの対応を、時系列にそってまとめたものです。


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■18日(土)
  18:30ごろに単独室への移室。以降、Nさんは居室にいて「痛い、痛い」と首から肩にかけての痛みを訴えつづけ、「医者に連れて行ってくれ」と言って診療も求めたが、4日間にわたって医療的な対応はなんらなされなかった。

■21日(火)
  13:30ごろ  同じブロックの被収容者たちがNさんから症状等を聞き取ったうえで、職員を呼んで診療を要請。
  13:40ごろ  職員が湿布と氷枕をもってきて「もう少し待ってて」と言った。
  15:00ごろ  所内の診察室でようやくグエンさんの診察がおこなわれた。X線検査と痛み止めの処方。

■23日(木)
  夜  Nさんはとても苦しんでいたので、同じブロックの被収容者たちが職員を呼び出した。このとき職員はNさんにむかって「静かにしろ」と言った。

■24日(金)
  朝から夕方までNさんは「痛い、痛い」とくり返し叫んでいた。しかし、職員はこれに対応せず。
  20:00ごろ  それまでずっと「痛い、痛い」という声が聞こえていたのが、急に静かになった。
  22:00ごろ  喫煙具の回収に来た職員が居室内のNさんに声をかけたのが他の被収容者に聞こえたが、Nさんからの応答は聞こえなかった。
  22:15ごろ  職員3名がNさんの居室を開錠して様子をうかがったが、すぐに立ち去った。

■25日(土)
  1:15ごろ  職員が居室からNさんを担架にのせて運び出し、心臓マッサージなどの処置をおこない、病院に救急搬送。同じブロックの被収容者は、このときNさんの身体は硬直しておりすでに「遺体」であったと証言している。
  2:20ごろ  搬送先病院でNさんの死亡が確認された(茨城新聞、ロイター通信等の報道による)

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  おどろくべきことに、東日本入管センターは、叫び声をあげるほど痛がり診療を求めていたNさんを、判明しているだけで少なくとも4日間(3月18日~21日)、医療的な対応をせずに放置しつづけたことになります。21日になって、Nさんの悲惨な状況を見かねた同じブロックの被収容者たちの要請に応じるかたちで、ようやく入管側はNさんを受診させます。ところが、21日の診察後も痛みをうったえるNさんを死にいたるまで入管は放置しつづけました。

  なぜ、このようなむごたらしい医療放置がおこったのでしょうか?  その要因として強く疑われるのは、職員らがNさんの痛みのうったえを詐病(仮病)とみなしていたのではないかという点です。実際、職員がNさんのうったえを「ウソ病気」であると発言したのを聞いたと、おなじブロックの被収容者が証言しています。詐病と職員たちがみなしていたと考えれば、「痛い、痛い」と叫ぶNさんにたいする職員の「静かにしろ」という暴言のゆえんも、理解できます(むろん、このような暴言を施設職員が入所者にむかってはくことは容認できません)。

  当然ながら、病状についての評価をおこなうことができるのは、そのための専門的な技能と知識をもつ医師だけです。入管職員(入国警備官)は、そうした評価をおこなう能力はないはずですし、おこなうべきではありません。ところが、入管の収容施設においては、医療についての専門家ではない入管職員が、被収容者の病状についての評価、医師の診療を受けさせるかどうかの判断をしばしばおこなっている実態があり、これまでその点を私たちは問題にし、入管当局に対しても改善を申し入れてきました。

  私たちは、2013~14年にかけて東京入管および東日本入管センターであいついだ被収容者の死亡事件において、実際に職員が医療的な判断・評価をおこなっていた事実を、他の被収容者の証言などから明らかにしたうえで、医療処遇における「改善すべき課題」として以下の4点を示しました。


(1)医師でない者、入管職員が被収容者の病状について判断し、予断にもとづく対応をしてはならない。
(2)各収容施設に勤務する医師が医道に基づいて良質かつ適切な医療をほどこせるよう、医師の独立性を尊重し、その診療を制約させるような介入をしてはならない。
(3)医師にはそれぞれの専門性、すなわち能力の限界がある。また収容施設内の診療機器・薬剤などの制約がある。そのため、医師が患者への責任を負ううえで、しばしば外部病院の専門科・専門医による受診の必要性があるとの判断が出る。その場合、速やかに被収容者(患者)を外部受診させなければならない。
(4)以上のために必要な予算を確保すること。 
なぜ入管の収容施設で死亡事件があいつぐのか?――医療処遇について仮放免者の会の見解】(2015年3月11日)


  入管は、結局、4人をあいついで死なせた事件を教訓としていかせず、医療処遇の根本的な欠陥を改善しえないまま、またもや死亡者を出してしまいました。もちろん、Nさんに対する入管センターの対応と、Nさんの死亡とのあいだの因果関係については、今後の検証・解明を待たなければなりません。しかし、痛みをうったえるNさんについて、医師ではない職員が予断にもとづいて「ウソ病気」と判断し、そのことによってNさんが亡くなるまで医療処置を受けられなかったという事実は、大変に重いものと言わざるをえません。

  法務省と東日本入管センターは、今回の事件について、処遇上の不備・欠陥がなかったのか、今後、真摯に検証すべきです。ところが、新聞報道によると、同センターは「現時点で処遇に問題はなかったと考えている」との所長(北村晃彦氏)によるコメントを発表しています(3月26日付『茨城新聞』)。

  死亡事件直後に発せられたコメントが、今後の検証作業を約束するものではなく、「問題はなかったと考えている」という、保身と責任回避を第一に考えたとしか思えないようなものであったことには、おどろかずにいられません。「問題はなかった」という(入管にとって)希望的な予断のもとにおこなわれる検証作業では、処遇上の問題の洗い出しが徹底的におこなわれるとは思えません。

  今回、同じブロックに収容されている被収容者たちが、Nさんが亡くなるにいたる経緯を記した手紙を、支援者にあずけてくれました。その手紙は、Nさんの死について「とてもかわいそうな死に方でした」とつづる一方で、「私たちはこんな場所で死にたくないです。これ以上、私たちは我慢できません」とも書かれていました。この言葉に、法務省および東日本入管センターは、真剣に向き合うべきです。