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Wednesday, March 11, 2015

なぜ入管の収容施設で死亡事件があいつぐのか?――医療処遇について仮放免者の会の見解


1  あいつぐ死亡事件

  入管の収容施設において、被収容者が病死する事件があいついでいます。1年あまりのあいだに4人もの死亡者を出すというきわめて異常な事態です。


  • 2013年10月14日  ロヒンギャ難民フセインさん死亡(東京入国管理局)
  • 2014年3月29日  イラン人Sさん死亡(東日本入国管理センター)
  • 2014年3月30日  カメルーン人Wさん死亡(東日本入国管理センター)
  • 2014年11月22日  スリランカ人ニクルスさん死亡(東京入国管理局)


  法務省入国管理局は、このうち東日本入国管理センターでの2件の死亡事件(昨年3月末にイラン人とカメルーン人が死亡)について、11月20日に記者会見をひらき、調査結果と改善策を発表しました。この法務省入管の報道発表の2日後、11月22日、こんどは東京入国管理局でまた死亡事件がおこりました。

  法務省入管は、東日本センターでの2件の死亡事件のうち、イラン人の死亡については「入国警備官らの措置は適切であった」と結論づけています(注1)。一方、カメルーン人の死亡については、法務省はセンター側の措置と医療態勢の問題点をみとめており、「改善すべき点」をいくつかあげています。ところが、あとで述べるように、報道発表で示された改善策をみるに、法務省入管の問題認識はあまりに甘すぎると言わざるをえません。

  私たちは、このたび死亡者を出した東日本センター、東京入管はもとより、東京入管横浜支局、大阪入管、名古屋入管等、どの収容施設でも、いつ被収容者の死亡事件が起きても不思議ではない状況にあるものと認識しています。入管の収容施設の医療についての根本的な欠陥の所在を、この間つづいた一連の死亡事件はあきらかにしています。これに手を打たないかぎり、第5、第6の死亡事件を今後ふせぐことはできないでしょう。




2  医療処遇の根本的欠陥

  仮放免者の会としては、一連の死亡事件をうけて、入管収容施設における医療処遇の根本的な欠陥として、以下の2点を重視しています。第1に、医師ではない職員による医療判断が横行していること。2点目は、医師の独立性が確保されず、その診療行為に入管が介入し、不当な制約をくわえていることです。


2-1 職員による医療判断がおこなわれていること

  昨年11月22日の東京入管でのニクルスさん死亡事件においては、心臓の痛みを訴え、病院への搬送を求めるニクルスさんに対し、職員が「立ってるし、歩けるから大丈夫じゃないの」と言ったとの同室の被収容者による証言があります。医者ではない職員が、ニクルスさんの病状について「大丈夫」だとの医療的な評価をおこない、病院に搬送する必要はないという判断をおこなったことになります。

  2013年10月9日にやはり東京入管でミャンマーのロヒンギャ難民、アンワール・フセインさんが倒れ、搬送先の病院で10月14日に死亡した事件についても、同室の被収容者による同様の証言があります。職員は、嘔吐し体を痙攣(けいれん)させているフセインさんについて、「癲癇(てんかん)なので大丈夫」だと発言したといいます。結果的に、職員がフセインさんの居室に到着してからおよそ50分のあいだ救急車は呼ばれず、フセインさんは5日後に「動脈瘤破裂によるくも膜下出血」のため病院で亡くなりました。

  職員によって「立ってるし、歩けるから大丈夫じゃないの」「癲癇(てんかん)なので大丈夫」といった発言があった事実を、東京入管はみとめていません。しかし、百歩ゆずって、こうした発言がなかったのだとしても、2件の死亡事件において、「病院に搬送する必要はない」との判断を職員がおこなったという事実は疑いようのないことです。

  そして、被収容者に診療を受けさせる必要があるかどうか、病院に搬送する必要があるかどうかの評価・判断を、医療の専門家ではない職員が勝手にくだしているのは、死亡事件のあいついだ東京入管・東日本センター両施設にかぎったことではありません。本人の訴え・要求をさしおいて、職員が勝手な医療判断をおこなって診療や病院への搬送を拒否するということは、入管のどの収容施設でも横行し常態となっているのが現状です。

  したがって、一連の死亡事件は、偶発的な「事故」ではなく、入管の収容のあり方がまねいた必然的な結果、起こるべきして起こった結果であるというべきです。また、職員による医療判断が横行している現状では、今後、死亡事件が入管のどの施設で起こっても不思議ではありません。


2-2  医師の診療行為への入管による介入

  入管の医療処遇の根本的欠陥としては、医師の独立性が確保されていないという点も指摘しなければなりません。施設内の診療室での診療においても、外部診療機関での診療においても、入管が医師の診療行為に介入し、これを制限するという事例がしばしばみられます。

  たとえば、大阪入管では、外部診療において医師が患者にMRI検査をすすめたにもかかわらず、同行した職員が「(費用が)高い」からと言ってこれをさまたげた事例があります(注2)。東日本センターにおいても、外部診療で、職員が医師に「先生、この人はもうすぐ帰国する人ですから」などと口をはさみ、継続性をもった治療をさせないよう介入したという多数の事例について、被収容者たちによる証言があります(注3)

  本来、医師は、患者の意思にもとづいて、その医療上の最善の利益を追求する責任を負います。医師が患者に対する責任を果たすためには、医者と患者の関係に入管が介入しないこと、すなわち医師の独立性を確保することが必要です。(医療法第一条の二  「医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づき、及び医療を受ける者の心身の状況に応じて行われるとともに、その内容は、単に治療のみならず、疾病の予防のための措置及びリハビリテーションを含む良質かつ適切なものでなければならない。」)

  医師が患者に負っている責任をはたすことと、入管の退去強制令書を発付し、執行するという業務とは、たがいに対立する局面があることは否定できません。やや極端な言い方をすれば、入管には、被収容者に適切な医療を提供せずに苦痛を与えるというインセンティブが存在します。収容生活がたえがたいものになるほど、被収容者が退去強制令書に服して送還に応じる可能性は高くなるからです。個々の職員の主観的な意識がどうであれ、組織としての入管には、医療処遇を劣悪・貧弱なままにとどめておく動機が客観的に存在します。

  当然ながら、優先的に尊重すべきなのは、入管の退去強制手続きにかかわる業務ではなく、被収容者の生命と健康です。入管の職務遂行が、患者の医療上の利益を追求すべき医師の職務と対立・矛盾する局面が存在しうる以上、被収容者の生命・健康をまもるためには、医師の独立性を確保し、医師と患者の関係に入管が介入することをふせぐ仕組みが不可欠です。




3  法務省の改善策では再発をふせぐことはできない

  さきに述べたように、法務省入管はカメルーン人の死亡については、東日本センターの対応に問題があったことをみとめています。しかし、法務省入管が具体的にあげている改善すべき課題をみると、その問題認識が十分なものとは、とうてい言えません。

  法務省入管は、「改善すべき点」として第1に、常勤医の確保に向けた努力を継続するとしています。第2に、重症事案の見落としを防止できるよう、診療申出から受診までの手続き・手順を見直すとしています。

  まずは2点目から検討していきます。

  「診療申出」というのは、被収容者が職員に対し、診療をもとめることです。法務省入管が「見直す」と言っているのは、被収容者が職員に診療をもとめ、職員が診療の要不要を評価し、受診が必要だと判断すれば、そこではじめて医師のもとに連れて行く、という一連の手続き・手順についてです。被収容者の「診療申出」に対して入管職員が許可を出さないかぎり、「受診」できないという仕組みそのものは、問題にされていないのです。つまり、法務省入管の改善策では、診療が必要か不要かという医療的な評価・判断を、職員にさせる、ということは前提になっているわけです。

  しかし、まさにこの、医療的な評価・判断を、医療の専門的知識・技能のない職員にゆだねてきたという点こそ、重大な問題だというべきなのです。職員が診療の可否を判断しているという仕組みそのものを根本的にあらためずに、その「手続き・手順」をいじっただけで「重症事案の見落としを防止」できるかのように考えている法務省入管の認識は、まったくまとを外したものと言うほかありません。医療従事者ではない職員に「見落としの防止」を要求するのは、限界があります。職員に能力をこえた職務を課している仕組みと、この仕組みの存続を現在までゆるしてきた入管の組織こそ、その問題を問われるべきなのです。

  法務省入管が「改善すべき点」としている常勤医の確保についても、これによって被収容者の生命・健康におけるリスクが大きく改善されるとは考えられません。常勤医がいても、受診にいたるまでのプロセスに職員が介在してその可否を判断するということでは、「重症事案の見落とし」が起きるのは必然的であるからです。

  また、常勤医が確保されたとしても、その医師の独立性が確保されないのであれば、根本的な改善はみこめません。入管が、医師と患者との関係に介入し、患者に対して医師が責任をもって診療にあたるのを妨害するようでは、常勤医がいても意味がありません。そのような環境では、医師は、患者に対して誠実に責任を果たせないことに苦悩して辞職するか、あるいは、入管との癒着関係に適応して医師としての職業倫理をなげうって勤務をつづけるか、ということになるでしょう。

  非常勤の医師ですが、入管と癒着して職業倫理をなげうった例を、大阪入管の医師にみることができます。この医師は患者にむかって「なおそうと思ったら手術が必要」と言いながら、「ここではむり、治らない」と言い放ち、外部の専門医につなぐことすらしていません(注4)




4  死亡事件の再発をふせぐために――改善すべき4項目

  以上をふまえて、当会としては、つぎの4点を改善すべき課題であると考えます。


(1)医師でない者、入管職員が被収容者の病状について判断し、予断にもとづく対応をしてはならない。

(2)各収容施設に勤務する医師が医道に基づいて良質かつ適切な医療をほどこせるよう、医師の独立性を尊重し、その診療を制約させるような介入をしてはならない。

(3)医師にはそれぞれの専門性、すなわち能力の限界がある。また収容施設内の診療機器・薬剤などの制約がある。そのため、医師が患者への責任を負ううえで、しばしば外部病院の専門科・専門医による受診の必要性があるとの判断が出る。その場合、速やかに被収容者(患者)を外部受診させなければならない。

(4)以上のために必要な予算を確保すること。



  (1)は、東京入管での2件の死亡事故の教訓から、急患発生時に医師不在であれば救急搬送することも含みます。

  (1)~(4)ができないならば、被収容者の健康、生命を守る責任を入管は果たすことができないということです。その責任を果たせない以上、入管は人を収容する資格がありません。

  私たちがもとめているこれら4項目は、ごくごくあたり前のことがらであるはずです。こうしたあたり前の処遇が入管の施設ではこれまで実現されてこなかったし、死亡事件を受けての法務省入管の調査にもとづいて発表された「改善すべき点」においてすら示されていません。そこには、入管組織の深刻な外国人差別・人種差別の体質があるのではないかと考えざるをえません。


◇      ◇      ◇      ◇      ◇      ◇      ◇

【注】

1.この「適切であった」という法務省入管の評価は、当会として、とうてい容認できるものではないことを、1月に法務大臣らにあてて提出した申入書において述べた。


2.【転載】大阪入管への申し入れ


3.外部診療機関の医師に対してしばしばなされているという東日本センター職員による「この人はもうすぐ帰国する人ですから」といった発言は、同センター被収容者の実態に合ったものではない。同センターの被収容者は、すでに退去強制令書が発付されているとはいえ、その多くは退去強制令書発付処分を不服として行政訴訟をおこなっているか、難民認定を申請している。そうでなくても、収容期間が1年をこえるのが通例になっており、2年をこえる者もめずらしくない。同センター被収容者の大多数において、「もうすぐ帰国する」から、継続的な治療ができない、またそれが必要でないと言えるような状況にはない。


4.【転載】大阪入管 に支援5団体が申入書「死亡者がいつ出ても不思議 ではない危機的な状況」


◇      ◇      ◇      ◇      ◇      ◇      ◇

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Sunday, March 8, 2015

ニクルスさん死亡事件、チャーター機送還、再収容、妊婦の収容などについて申入書(2月19日)

  前回の記事(「東京入管での行動予定3つ――ニクルスさん死亡事件、チャーター機送還、再収容に対し抗議・申し入れ」)で告知していたように、2月19日(木)に、東京入国管理局にて抗議行動と申し入れをおこないました。

  スリランカ、パキスタン、フィリピン、中国、インド、ネパール、インドネシアなど出身の仮放免者を中心に約50人が参加して、東京入管の総務課、処遇部門、違反審査部門に抗議・申し入れをおこないました。

  以下、提出した申入書の全文です。


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申  入  書
2015年2月19日
法務大臣  殿
法務省入国管理局長  殿
東京入国管理局長  殿
仮放免者の会(関東)


  2014年11月22日、土曜日、東京入国管理局(以下、「東京入管」という。)に収容されていたスリランカ国籍を有する男性、Mihindukulasuriya Nickeles Emmanuwel Fernando(1957年1月9日生、以下、「ニクルス」さんという。)が心臓の激しい痛み及び病院に行かせてほしいと職員に再三にわたり訴えるも聞き入れられず、同日死亡した。2014年12月18日には、スリランカ人男女26人、ベトナム人男性6人をチャーター機を使用して強制送還した。送還された者の中には、国籍国で、また日本国内において当時の政府に反対する活発な政治活動を行っていた活動家や日本で配偶者及び子供がいる者が含まれていた。また東京入管では、帰国すると迫害を受ける恐れのある難民申請者や家族が日本にいる者、長期滞在により生活基盤が本邦にしかない事等から帰国できない事情にある仮放免者に対する再収容がみられる。さらに東京入管では、2014年10月29日に妊娠中のインドネシア人女性を妊娠中であることを認識していながら、仮放免にして在宅審査とする等の措置を取らず収容した。我々仮放免者の会ではこれらの東京入管及び法務省入国管理局が行った人権侵害行為に対し強く抗議し、以下申し入れを行う。



(1)ニクルスさん死亡事件に関して

  ニクルスさんは、東京入管Gブロックに収容中の2014年11月22日7時19分、心臓の痛みを職員に対し訴えた。ニクルスさんは、「ホスピタル!」と繰り返し泣き叫んでいた。ニクルスさんは、G-4 の部屋にいたが、同じ部屋のペルー人がニクルスさんと簡単な英語でやり取りをして、職員に通訳して「病院に行きたい」と伝えたが職員は、「無理です。今日は土曜日」「立ってるし、歩けるから大丈夫じゃないの」と言ったという。東京入管処遇部門首席(以下、「首席」という)からの遺族及び当会に対する説明によると7時30分、職員は、ニクルスさんが日本語を話せず、英語もさほどできないことから、同じブロックのスリランカ人被収容者を通訳とし話を聞いた。通訳をしたスリランカ人Aによると、ニクルスさんは、聖書を手に持ち職員に見せる等して「私はクリスチャンだ。嘘は言わない。本当に心臓がひどく痛む。病院に行かせてほしい。」等と泣きながら職員に懇願したという。応対した職員二人は、「今日は土曜日だから救急車は来ない」等と言い取り合わなかったという。首席によるとニクルスさんが心臓に痛みを訴えたことに対して7時41分、「救心」2粒を与えニクルスさんがこれを飲んだ後、容体観察の為として8時16分、G単3のカメラ付き独居房に移動させたという。Gブロックの被収容者たちの話によると、ニクルスさんは、移動させられてから8時50分頃までGブロック全体に聞こえる声で「うーっ」という苦しそうな叫び声をあげていたという。首席によるとニクルスさんは、9時半頃から13時過ぎに意識不明の状態で発見されるまで、寝具にうつ伏せに横たわり就床しているように見える状態だったという。その後、東京入管としてはニクルスさんが寝ていると認識していたという。13時過ぎにAがニクルスさんの居室に行ったところ、ニクルスさんは、すでに意識がなく、体は冷たくなっていたという。Aを含む被収容者によるとニクルスさんは、よだれをたらし、尿を漏らして寝具に大きなシミができていたという。首席によると13時3分、職員が呼ばれ、意識不明、体の冷たくなっている事を確認。13時11分救急車が呼ばれた。13時20分救急隊が到着し、東京都済生会病院に搬入され心臓マッサージ、心肺蘇生法等の処置がとられたが、15時3分、死亡が確認されたという。遺体は警視庁東京湾岸警察署から11月23日、東京医科歯科大学附属病院において死因究明に関する解剖が実施され、約2か月後に死因が判明する見込みであり、判明次第遺族にも知らせるとのことだった。しかし、現在に至るまで東京入管から遺族に対し死因に関する説明の連絡等はない。

  ニクラス死亡事件に関しては医師でないものが医療的判断を常習的に下しているという東京入管に限らず入管施設全体に見られる極めて重大な問題がある。ニクルスさんが心臓の痛みを訴えた際、職員が「立ってるし、歩けるから大丈夫じゃないの」といったと被収容者は証言している。2013年10月9日にも東京入管でミャンマーのロヒンギャ難民、アンワール・フセインさんが倒れ搬送先の病院で10月14日に死亡しているが、嘔吐、体を痙攣させて倒れ、意識不明の状態になったフセインさんに対して被収容者の証言によると職員は「癲癇なので大丈夫」等といい、結果的に50分程度の長時間救急車を呼ばなかった。医師でないものが医療的判断を常習的に下しているという問題がこうした発言にも表れている。両方の事件での職員の発言に関して入管側は、そのような発言はなかったと考えている等としているが、これを真実と受け止めることは難しい。首席は遺族及び当会に対する説明の際、なぜ心臓の痛みを訴えるニクルスさんを病院につれていかなかったかとの問いに対する回答の一つとして、自身で立って歩いていたこと、独居房で手を洗っていたので大丈夫と思った等とした。病気を訴えているものに対して「大丈夫」であるかそうでないかといったような判断を下すことができるのは専門家である医師あるいは医療従事者であって入管職員ではない。また、ニクルスさんを容体観察するために独居房に移しておいて異常を発見できなかった怠慢は甚だしいものがあるが、容体観察すべき者が長時間動かないままでいる状態を寝ていると判断する事そのものが入管職員によってなされていいものではない。フセインさん死亡から1年近くの間に入管施設で四人もの命が失われたのは入管施設内の医師でないものが医療的判断を常習的に下しているという入管施設の根本的欠陥があるといえる。こうした欠陥が解消されない限り、第五、第六の犠牲者が生み出されるといっていい。週7日24時間医師が常駐することが望ましいが、これが無理でも、被収容者の状態を外部の医療機関に速やかに相談、判断を仰ぎその指示に従い速やかに救急車を呼ぶ等の仕組みを整えることが必要である。たとえこのような仕組みが現状で存在するにしてもこれらが機能していないことがフセインさんの件、ニクルスさんの件でもすでに明らかである事を踏まえて医療体制を整備することを強く申し入れる。

  首席はニクルスさん事件を受けて、原因究明、再発防止に向けたプロジェクトチームを作っていると説明したが、その一方でニクルスさんは「病院に行きたいとは言わなかった」「胸の痛みを訴えたのは1度だけ」等という。これらは複数の被収容者達の証言と大きく食い違う。また、被収容者達からは入管側からのヒヤリング等が一切なかったと聞いている。原因究明、再発防止をうたいながらこうした公正さを著しく欠く対応は問題である。入管は今回の事件を真摯に受け止め、なぜこのような非人道的対応がなされたのかに関する全面的かつ公正な形での真相究明と再発防止策の徹底と公表を行うと共に、今回の事態を招くに至った責任を負う者への処罰、遺族に対しての謝罪と補償をすることを強く申し入れる

  入国管理局には外国人を収容する以上、被収容者の生命、安全、健康を守る収容主体責任がある。東京入管には収容する以上、被収容者の生命、安全、健康を守る責任を果たすよう重ねて申し入れる。



(2)チャーター機強制送還について

  今回行われたチャーター機送還では、異議申し立て棄却の通知がなされていない難民認定申請者が送還の直前に収容され、そのうちの1人のスリランカ人男性は、入管に収容された直後に外部への電話連絡を禁止され、「弁護士に電話をしたい」と職員に申し出たものの、許可されなかった。こうして弁護士などの外部との連絡・通信手段を暴力的にうばわれた監禁状態で、彼は入管から異議申し立て棄却を通知されている。また彼は、その場で裁判をする意思を示したにも関わらず、職員は、今はできない等とし、裁判を受ける権利を事実上剥奪した。異議申し立てを棄却された場合、申請者はその行政処分の取消しをもとめて訴訟をおこなう権利がある。入管は、行政訴訟をおこなう意思を認識しながら、その機会をあたえず妨害し、無理やりに送還している。難民認定申請者に対する法務省・入管のこのような送還のやりくちは、裁判を受ける権利に対する明白な侵害である。また入管は配偶者のいる者は送還していないと公式には発表していながら、実際は永住者のフィリピン国籍所持の女性と事実上の婚姻関係にあり、2人の間に当時生後11ヶ月の子がいるスリランカ人男性を送還している。彼は送還されて、家族は引き裂かれることになってしまった。さらに今回の送還では、人身取引の被害者であるスリランカ人男性2人も送還された。2人は賃金未払いで日本企業を訴え、分割払いで和解が成立していたが、未払い賃金を一部しか回収できていない状態だった。人身取引の加害者に加担してその片棒を担ぐがごとき行為は決して容認できない。またスリランカで、日本国内においても当時の政府に反対する活発な政治活動を行っていた活動家のスリランカ人男性も送還された。男性は難民認定されるべきであり、送還は難民条約違反である。我々はこのようなチャーター機送還を含む強制送還を行わないよう申し入れる。



(3)再収容について

  難民不認定異議申立棄却や行政訴訟での敗訴確定を契機とする退令仮放免者、また、行政訴訟での敗訴確定後、再審情願を申し立てている仮放免者等については、当人の帰国出来ない事情を十分に考慮した上、再収容を行わないよう強く申し入れる。難民申請者や日本に家族がいる者等、どうしても帰国出来ない事情を抱えた者に対する収容、とりわけ再収容は被収容者、及び家族に人生を絶望させ、自殺未遂や疾病、或いは自殺といった最悪の事態に帰結する可能性のある重大な人権侵害である。本年2月にはスリランカ人男性の難民申請者で永住者女性と婚姻が整い、妻は妊娠5か月という状態の仮放免者が難民異議棄却をもって再収容された。彼は難民申請者であるのみならず、家族が日本にいるためにどうしても帰国できないものである。このような送還の見込みのない者を再収容してどうなるのか。彼のように仮放免者達の多くは、自身の難民性のため、愛する家族との生活のため、病気の治療のため、または自身が長年かけて築いてきた生活、人間関係、社会とのつながりを守るため等、それぞれの理由のために日本での生活を希望している者である。彼ら、彼女らにはどうしても帰国出来ない理由、断ち切りがたい絆が日本に存在している。2010年の西日本、東日本両入国管理センターでの大規模ハンスト、東日本入国管理センターでの被収容者の相次ぐ自殺、国費無理矢理送還中にガーナ人男性が死亡した事件、退令仮放免者によるデモ、2012年におこった東日本入国管理センターでのハンストや今なお繰り返されるハンスト等は、入管が退去強制手続きにおいて収容や再収容、送還といった暴力的方法に固執し対処しようとすることの限界を明らかに示すものである。入管が再収容、送還に固執することは退令仮放免者及びその家族の心身を収容によって単に痛めつけるためのものにしか過ぎず、退令仮放免者や被収容者の抵抗や自殺者等を出すのみで問題の解決には到底なりえない。我々仮放免者の会は、帰国出来ない退令仮放免者(①UNHCR難民認定基準にそった難民申請者②日本に家族がいる者③日本に生活基盤が移っている移住労働者)については本邦への在留を認めることで救済するよう強く申し入れる。



(4)妊婦の収容について

  2014年10月29日、東京入管では妊娠中のインドネシア人女性を妊娠中であることを認識していながら、仮放免にして在宅審査とする等の措置を取らず収容した。こうした行為は、母体及び胎児の生命よりも収容に固執するという非人道的行為であり容認できない。またこうした行為は2010年9月9日付けの日弁連と法務省入管との間で交わされた「出入国管理における収容問題等協議会」の設置についての合意とそこでの協議で確認された妊娠中の母子の生命・身体の安全に配慮すべきことを周知することの意義と2011年4月13日付け法務省入管警備課長作成事務連絡を無視するものである。妊婦の収容等絶対にあってはならないし、仮放免の延長出頭時に日本人の子供を妊娠している妊婦等に対し、執行部門が子供を産んで国に帰れとかいい、帰国を迫るがこうしたことは母体と胎児の安全を顧みない行為であり即刻やめるべきである。



(5)入管の外国人に対する人権無視の体質

  東京入管のみならず東日本入国管理センター等、入管施設には重篤な状態にある被収容者に対し救急車を呼ばない、または、重篤な状態にある者でも病院に行かせない等の医療放置がしばしばみられる。こうしたことからは極言すれば外国人は死んでも構わないという入管の外国人の人権を著しく軽視する姿勢が見て取れる。この姿勢には入管の抱える根強い外国人蔑視、差別の体質がある。ニクルスさんの死亡事件や妊娠中のインドネシア人女性の収容にこれらは如実に表れている。我々は、入管・東京入管に対し、入管自らの組織内部にこうした外国人蔑視、差別が根強く存在することを認識した上でこれと向き合い、それら意識に起因する我々の申し入れてきた問題に関し取り組むことを強く求める。



以  上



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