1.ハンストの現状
東日本入国管理センターで、被収容者死亡事件を受けて、集団ハンガーストライキがおこなわれていることを、前回記事で報告しました。
インド人被収容者Dさんの死亡が確認されたのが4月12日(金)。Dさんと同じブロック(収容区画)の被収容者たちが15日(日)の朝からハンガーストライキを始めました。他のブロックでもこのハンストに合流する動きが続き、18日(水)時点で122名の被収容者がハンストに参加する事態となりました。
私たちは、19日(木)、20日(金)にも、ハンスト参加者を中心に被収容者と面会をおこないました。
20日時点で最長の人でハンストは6日目になり、目に見えて衰弱している人、めまいや頭痛をうったえる人もいました。病気のある人や高齢の人など食事を再開している人もいる一方で、あらたにハンストを始める人びとが出ているブロックもあります。ハンストは収束にいたっていないというのが現状です。
2.ハンスト参加者の健康状態
こうしてハンストが長引くと、ハンスト参加者の健康状態が心配されます。ところが、20日までの時点で東日本センター側の対応は、被収容者の健康維持についての収容主体として責任をはたしているとは言えないものです。
マスコミ報道によると、センター側は取材に対してハンストは「健康を害する恐れがあり、中止するよう説得している」と説明しているようです。
- 入管収容者が集団ハンスト 東日本センター 長期の拘束抗議 - 東京新聞(2018年4月17日)
ところが、私たちがハンスト参加者たちから聞いた事実は、このセンター側の説明とはまったく異なるものでした。各ブロックのハンストをおこなっている被収容者たちに面会して聞いたところ、入管側はハンストに対して20日までの時点で基本的に無視、黙殺する姿勢をとっているということです。入管側はだれがハンストをおこなっているかの把握をしようともしなければ、各人の健康状態についてもハンストの目的についてもいっさい聞き取りをおこなっていない、といいます。マスコミの取材への説明と異なって、「健康を害する恐れ」を心配してもいるそぶりもまったくないし、「中止するよう説得している」事実もないわけです。
入管は、人を収容してその身体を拘束している以上、被収容者の健康・医療に責任があります。ハンストがおこなわれているという事実を無視するのではなくきちんと認知したうえで、ハンスト参加者それぞれについて健康状態を把握するようつとめるべきだし、食事をとるよう説得すべきです。この点は、20日(金)の午前に、東日本入管センター総務課に口頭で申し入れました。
3.再発防止
ハンストの問題とはべつに、東日本センターは、「自殺」と思われる死亡者を出した以上、その再発をふせぐことは、きわめて緊急性の高い課題であるはずです。自殺は連鎖してあいつぐ危険性が高いからです。そうでなくても、こういうかたちで仲間を亡くした被収容者たちの精神的なケアは、喫緊に取り組まなければならないことであるはずです。
私たちがこのかん面会した被収容者のなかにも、自身の精神状態がおかしくなっているとうったえる人がいます。自分自身も自殺を考えてしまう、また、他の被収容者が自分も自殺したいとほのめかすのを聞いたという話も聞きました。とくに、生前のDさんと親しかった人の精神的なケアは、緊急に必要です。
ところが、東日本センターは今までのところ、こうした課題に取り組もうとしているようにはみえません。Dさんとおなじ5Aブロックの被収容者は、つぎのように語っていました。「Dさんがああいうことになって5Aの人がどう感じているのか、入管は気にしていない。Dさんを悼むために花をかざるのだってこっちが言わないと入管はやらなかった」。前回記事で述べたように、センター側が花を用意したのは、Dさんが亡くなった4日後の17日(火)で、それも被収容者が要求してようやくそうしたにすぎないのです。
Dさんが亡くなった13日(金)の夕方には、その5Aブロックで、被収容者たちのDさんを悼む気持ちを逆なでするような職員の言動もありました。開放処遇の時間が終わっても居室に戻らない被収容者たちに「部屋に戻りなさい」と命じる職員に対して、Dさんと同国のひとが「人が死んでるんですよ」と言うと、職員のひとりがこれに「それで?」との言葉を返したということです。この職員の発言の事実は、その現場にいた複数の被収容者の証言から裏づけられました。
この職員の発言、またこの発言にいたる経緯に、今回の死亡事件に対する入管の対応の問題がよくあらわれているように思います。決められた時間通りに帰室するという規律を日常どおりにまもることが何より優先されるべきであり、一方で、人が死んだという出来事とこれに直面した仲間の気持ちは取るに足らない些末なことがらであると、この職員は言ったにひとしいわけです。“人が死んだ? だからなに? そんなことより規律をまもれ”と。
この発言を近くで聞いていたべつの被収容者が「人が死んだのに『それで?』と言うな!」と厳しい語調で職員に抗議したそうです。この人は、このときに自分で自分の頭を壁に何度か強く打ち付けたといいます。職員たちはこの人を組み伏せておさえつけ、力づくで連行して隔離処分にしました。頭を壁に打ち付けた行為を「自傷行為」とみなしてこれを防止するための隔離処分なのでしょうか。しかし、自傷・自殺をふせぐために入管がなによりもまずしなければならないのは、入管が被収容者の人命を大事にするのだという意思と決意を被収容者全体に示すことではないのでしょうか?
面会等をつうじて被収容者から聞くのは、不安や動揺にかられ、ときに自殺をほのめかす人すらいるなかで、仲間どうしではげましあったり、相互にケアしあったりを、被収容者たち自身が一生懸命やっているのだという現状です。入管がやるべき仕事をやらずに、被収容者たちに丸投げしているのです。このように収容する側としての最低限の責任をはたせないのなら、ただちに収容をやめるべきです。
4.5Aブロック被収容者の「上申書」
18日(水)に、5Aブロックの被収容者の18名全員が、法務大臣・法務省入国管理局長・東日本入国管理センター所長の三者あてで「上申書」を提出しました。Dさんの間近にいて寝食をともにしていた仲間たちで、話し合って書いた文書です。
この文書の全文を紹介するとともに、ひきつづき法務省入管および東日本入管センターへの抗議・意見提示を呼びかけます。
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上 申 書
平成30年4月18日
法務大臣殿
法務省入国管理局長殿
東日本入国管理センター所長殿
私達は以下要望し、かつ説明・回答を求めます。
1.本年4月13日に自殺で亡くなったインド人のDさん[原文では実名]の葬式等を本人の宗教に基づいて最後まで全て(費用等含め)の責任を取ることを強く求めます。
2.もう2度と入管週施設での死亡事件が起きないよう適切な処置を施すことを求めます。
2010年の当所でのブラジル人自殺事件【注】、2013年東京局でのミャンマー人搬送先の病院死亡事件、翌14年の当所でのイラン人、カメルーン人連続死亡事件、同年の東京局でのスリランカ人、2017年には当所でのベトナム人死亡と続きました。この過程では、仮放免・放免直後の死亡もありました。私達の生命や健康については、収容主体である貴職らが責任を負わなければなりません。
以上
[省略――5Aブロックの被収容者18名の署名]
【注】2010年には、2月のブラジル人自殺事件につづいて、4月には韓国人被収容者が自殺する事件も起きています(引用者補足)。
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抗議先
法務省入国管理局
電話:03-3592-7090
FAX:03-3592-7393
東日本入国管理センター(総務課)
電話:029-875-1291
FAX:029-830-9010
抗議・意見提示の例
- 健康な人であっても拘禁反応を生じさせる6ヶ月以上の長期収容をやめるべきである。
- Dさんの死亡の原因・経緯について被収容者全体にていねいに説明するべきである。
- ハンスト参加者それぞれの健康状態を把握するようつとめること。
- なぜハンストをおこなっているのか、ハンスト者からていねいに話を聞き、食事をとるよう説得すること。
- ハンストに参加しているかどうかにかかわらず、死亡者が出て被収容者が動揺し不安をきたすのは、当然である。精神的なケアにつとめ、これ以上の死亡者が出ないようにすること。それができないなら、収容をやめるべきであるし、職員の人員等がたりないのであれば、仮放免によって被収容者数を減らすこと。
- 被収容者が提出している要求書等に対しては、誠実に検討し回答すること。
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