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Sunday, March 8, 2015

ニクルスさん死亡事件、チャーター機送還、再収容、妊婦の収容などについて申入書(2月19日)

  前回の記事(「東京入管での行動予定3つ――ニクルスさん死亡事件、チャーター機送還、再収容に対し抗議・申し入れ」)で告知していたように、2月19日(木)に、東京入国管理局にて抗議行動と申し入れをおこないました。

  スリランカ、パキスタン、フィリピン、中国、インド、ネパール、インドネシアなど出身の仮放免者を中心に約50人が参加して、東京入管の総務課、処遇部門、違反審査部門に抗議・申し入れをおこないました。

  以下、提出した申入書の全文です。


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申  入  書
2015年2月19日
法務大臣  殿
法務省入国管理局長  殿
東京入国管理局長  殿
仮放免者の会(関東)


  2014年11月22日、土曜日、東京入国管理局(以下、「東京入管」という。)に収容されていたスリランカ国籍を有する男性、Mihindukulasuriya Nickeles Emmanuwel Fernando(1957年1月9日生、以下、「ニクルス」さんという。)が心臓の激しい痛み及び病院に行かせてほしいと職員に再三にわたり訴えるも聞き入れられず、同日死亡した。2014年12月18日には、スリランカ人男女26人、ベトナム人男性6人をチャーター機を使用して強制送還した。送還された者の中には、国籍国で、また日本国内において当時の政府に反対する活発な政治活動を行っていた活動家や日本で配偶者及び子供がいる者が含まれていた。また東京入管では、帰国すると迫害を受ける恐れのある難民申請者や家族が日本にいる者、長期滞在により生活基盤が本邦にしかない事等から帰国できない事情にある仮放免者に対する再収容がみられる。さらに東京入管では、2014年10月29日に妊娠中のインドネシア人女性を妊娠中であることを認識していながら、仮放免にして在宅審査とする等の措置を取らず収容した。我々仮放免者の会ではこれらの東京入管及び法務省入国管理局が行った人権侵害行為に対し強く抗議し、以下申し入れを行う。



(1)ニクルスさん死亡事件に関して

  ニクルスさんは、東京入管Gブロックに収容中の2014年11月22日7時19分、心臓の痛みを職員に対し訴えた。ニクルスさんは、「ホスピタル!」と繰り返し泣き叫んでいた。ニクルスさんは、G-4 の部屋にいたが、同じ部屋のペルー人がニクルスさんと簡単な英語でやり取りをして、職員に通訳して「病院に行きたい」と伝えたが職員は、「無理です。今日は土曜日」「立ってるし、歩けるから大丈夫じゃないの」と言ったという。東京入管処遇部門首席(以下、「首席」という)からの遺族及び当会に対する説明によると7時30分、職員は、ニクルスさんが日本語を話せず、英語もさほどできないことから、同じブロックのスリランカ人被収容者を通訳とし話を聞いた。通訳をしたスリランカ人Aによると、ニクルスさんは、聖書を手に持ち職員に見せる等して「私はクリスチャンだ。嘘は言わない。本当に心臓がひどく痛む。病院に行かせてほしい。」等と泣きながら職員に懇願したという。応対した職員二人は、「今日は土曜日だから救急車は来ない」等と言い取り合わなかったという。首席によるとニクルスさんが心臓に痛みを訴えたことに対して7時41分、「救心」2粒を与えニクルスさんがこれを飲んだ後、容体観察の為として8時16分、G単3のカメラ付き独居房に移動させたという。Gブロックの被収容者たちの話によると、ニクルスさんは、移動させられてから8時50分頃までGブロック全体に聞こえる声で「うーっ」という苦しそうな叫び声をあげていたという。首席によるとニクルスさんは、9時半頃から13時過ぎに意識不明の状態で発見されるまで、寝具にうつ伏せに横たわり就床しているように見える状態だったという。その後、東京入管としてはニクルスさんが寝ていると認識していたという。13時過ぎにAがニクルスさんの居室に行ったところ、ニクルスさんは、すでに意識がなく、体は冷たくなっていたという。Aを含む被収容者によるとニクルスさんは、よだれをたらし、尿を漏らして寝具に大きなシミができていたという。首席によると13時3分、職員が呼ばれ、意識不明、体の冷たくなっている事を確認。13時11分救急車が呼ばれた。13時20分救急隊が到着し、東京都済生会病院に搬入され心臓マッサージ、心肺蘇生法等の処置がとられたが、15時3分、死亡が確認されたという。遺体は警視庁東京湾岸警察署から11月23日、東京医科歯科大学附属病院において死因究明に関する解剖が実施され、約2か月後に死因が判明する見込みであり、判明次第遺族にも知らせるとのことだった。しかし、現在に至るまで東京入管から遺族に対し死因に関する説明の連絡等はない。

  ニクラス死亡事件に関しては医師でないものが医療的判断を常習的に下しているという東京入管に限らず入管施設全体に見られる極めて重大な問題がある。ニクルスさんが心臓の痛みを訴えた際、職員が「立ってるし、歩けるから大丈夫じゃないの」といったと被収容者は証言している。2013年10月9日にも東京入管でミャンマーのロヒンギャ難民、アンワール・フセインさんが倒れ搬送先の病院で10月14日に死亡しているが、嘔吐、体を痙攣させて倒れ、意識不明の状態になったフセインさんに対して被収容者の証言によると職員は「癲癇なので大丈夫」等といい、結果的に50分程度の長時間救急車を呼ばなかった。医師でないものが医療的判断を常習的に下しているという問題がこうした発言にも表れている。両方の事件での職員の発言に関して入管側は、そのような発言はなかったと考えている等としているが、これを真実と受け止めることは難しい。首席は遺族及び当会に対する説明の際、なぜ心臓の痛みを訴えるニクルスさんを病院につれていかなかったかとの問いに対する回答の一つとして、自身で立って歩いていたこと、独居房で手を洗っていたので大丈夫と思った等とした。病気を訴えているものに対して「大丈夫」であるかそうでないかといったような判断を下すことができるのは専門家である医師あるいは医療従事者であって入管職員ではない。また、ニクルスさんを容体観察するために独居房に移しておいて異常を発見できなかった怠慢は甚だしいものがあるが、容体観察すべき者が長時間動かないままでいる状態を寝ていると判断する事そのものが入管職員によってなされていいものではない。フセインさん死亡から1年近くの間に入管施設で四人もの命が失われたのは入管施設内の医師でないものが医療的判断を常習的に下しているという入管施設の根本的欠陥があるといえる。こうした欠陥が解消されない限り、第五、第六の犠牲者が生み出されるといっていい。週7日24時間医師が常駐することが望ましいが、これが無理でも、被収容者の状態を外部の医療機関に速やかに相談、判断を仰ぎその指示に従い速やかに救急車を呼ぶ等の仕組みを整えることが必要である。たとえこのような仕組みが現状で存在するにしてもこれらが機能していないことがフセインさんの件、ニクルスさんの件でもすでに明らかである事を踏まえて医療体制を整備することを強く申し入れる。

  首席はニクルスさん事件を受けて、原因究明、再発防止に向けたプロジェクトチームを作っていると説明したが、その一方でニクルスさんは「病院に行きたいとは言わなかった」「胸の痛みを訴えたのは1度だけ」等という。これらは複数の被収容者達の証言と大きく食い違う。また、被収容者達からは入管側からのヒヤリング等が一切なかったと聞いている。原因究明、再発防止をうたいながらこうした公正さを著しく欠く対応は問題である。入管は今回の事件を真摯に受け止め、なぜこのような非人道的対応がなされたのかに関する全面的かつ公正な形での真相究明と再発防止策の徹底と公表を行うと共に、今回の事態を招くに至った責任を負う者への処罰、遺族に対しての謝罪と補償をすることを強く申し入れる

  入国管理局には外国人を収容する以上、被収容者の生命、安全、健康を守る収容主体責任がある。東京入管には収容する以上、被収容者の生命、安全、健康を守る責任を果たすよう重ねて申し入れる。



(2)チャーター機強制送還について

  今回行われたチャーター機送還では、異議申し立て棄却の通知がなされていない難民認定申請者が送還の直前に収容され、そのうちの1人のスリランカ人男性は、入管に収容された直後に外部への電話連絡を禁止され、「弁護士に電話をしたい」と職員に申し出たものの、許可されなかった。こうして弁護士などの外部との連絡・通信手段を暴力的にうばわれた監禁状態で、彼は入管から異議申し立て棄却を通知されている。また彼は、その場で裁判をする意思を示したにも関わらず、職員は、今はできない等とし、裁判を受ける権利を事実上剥奪した。異議申し立てを棄却された場合、申請者はその行政処分の取消しをもとめて訴訟をおこなう権利がある。入管は、行政訴訟をおこなう意思を認識しながら、その機会をあたえず妨害し、無理やりに送還している。難民認定申請者に対する法務省・入管のこのような送還のやりくちは、裁判を受ける権利に対する明白な侵害である。また入管は配偶者のいる者は送還していないと公式には発表していながら、実際は永住者のフィリピン国籍所持の女性と事実上の婚姻関係にあり、2人の間に当時生後11ヶ月の子がいるスリランカ人男性を送還している。彼は送還されて、家族は引き裂かれることになってしまった。さらに今回の送還では、人身取引の被害者であるスリランカ人男性2人も送還された。2人は賃金未払いで日本企業を訴え、分割払いで和解が成立していたが、未払い賃金を一部しか回収できていない状態だった。人身取引の加害者に加担してその片棒を担ぐがごとき行為は決して容認できない。またスリランカで、日本国内においても当時の政府に反対する活発な政治活動を行っていた活動家のスリランカ人男性も送還された。男性は難民認定されるべきであり、送還は難民条約違反である。我々はこのようなチャーター機送還を含む強制送還を行わないよう申し入れる。



(3)再収容について

  難民不認定異議申立棄却や行政訴訟での敗訴確定を契機とする退令仮放免者、また、行政訴訟での敗訴確定後、再審情願を申し立てている仮放免者等については、当人の帰国出来ない事情を十分に考慮した上、再収容を行わないよう強く申し入れる。難民申請者や日本に家族がいる者等、どうしても帰国出来ない事情を抱えた者に対する収容、とりわけ再収容は被収容者、及び家族に人生を絶望させ、自殺未遂や疾病、或いは自殺といった最悪の事態に帰結する可能性のある重大な人権侵害である。本年2月にはスリランカ人男性の難民申請者で永住者女性と婚姻が整い、妻は妊娠5か月という状態の仮放免者が難民異議棄却をもって再収容された。彼は難民申請者であるのみならず、家族が日本にいるためにどうしても帰国できないものである。このような送還の見込みのない者を再収容してどうなるのか。彼のように仮放免者達の多くは、自身の難民性のため、愛する家族との生活のため、病気の治療のため、または自身が長年かけて築いてきた生活、人間関係、社会とのつながりを守るため等、それぞれの理由のために日本での生活を希望している者である。彼ら、彼女らにはどうしても帰国出来ない理由、断ち切りがたい絆が日本に存在している。2010年の西日本、東日本両入国管理センターでの大規模ハンスト、東日本入国管理センターでの被収容者の相次ぐ自殺、国費無理矢理送還中にガーナ人男性が死亡した事件、退令仮放免者によるデモ、2012年におこった東日本入国管理センターでのハンストや今なお繰り返されるハンスト等は、入管が退去強制手続きにおいて収容や再収容、送還といった暴力的方法に固執し対処しようとすることの限界を明らかに示すものである。入管が再収容、送還に固執することは退令仮放免者及びその家族の心身を収容によって単に痛めつけるためのものにしか過ぎず、退令仮放免者や被収容者の抵抗や自殺者等を出すのみで問題の解決には到底なりえない。我々仮放免者の会は、帰国出来ない退令仮放免者(①UNHCR難民認定基準にそった難民申請者②日本に家族がいる者③日本に生活基盤が移っている移住労働者)については本邦への在留を認めることで救済するよう強く申し入れる。



(4)妊婦の収容について

  2014年10月29日、東京入管では妊娠中のインドネシア人女性を妊娠中であることを認識していながら、仮放免にして在宅審査とする等の措置を取らず収容した。こうした行為は、母体及び胎児の生命よりも収容に固執するという非人道的行為であり容認できない。またこうした行為は2010年9月9日付けの日弁連と法務省入管との間で交わされた「出入国管理における収容問題等協議会」の設置についての合意とそこでの協議で確認された妊娠中の母子の生命・身体の安全に配慮すべきことを周知することの意義と2011年4月13日付け法務省入管警備課長作成事務連絡を無視するものである。妊婦の収容等絶対にあってはならないし、仮放免の延長出頭時に日本人の子供を妊娠している妊婦等に対し、執行部門が子供を産んで国に帰れとかいい、帰国を迫るがこうしたことは母体と胎児の安全を顧みない行為であり即刻やめるべきである。



(5)入管の外国人に対する人権無視の体質

  東京入管のみならず東日本入国管理センター等、入管施設には重篤な状態にある被収容者に対し救急車を呼ばない、または、重篤な状態にある者でも病院に行かせない等の医療放置がしばしばみられる。こうしたことからは極言すれば外国人は死んでも構わないという入管の外国人の人権を著しく軽視する姿勢が見て取れる。この姿勢には入管の抱える根強い外国人蔑視、差別の体質がある。ニクルスさんの死亡事件や妊娠中のインドネシア人女性の収容にこれらは如実に表れている。我々は、入管・東京入管に対し、入管自らの組織内部にこうした外国人蔑視、差別が根強く存在することを認識した上でこれと向き合い、それら意識に起因する我々の申し入れてきた問題に関し取り組むことを強く求める。



以  上



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