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Monday, September 3, 2018

長期収容の実態――大村入管センターを事例に


(1)「収容の長期化をできるだけ回避する」(法務省の公式見解)

 入管施設の長期収容について、このブログでも以下の記事などで問題にしてきました。

  1. 入管施設の収容長期化問題について――被収容者「嘆願書」によせて - 仮放免者の会(PRAJ)(2018年2月28日)
  2. 入管にとって長期収容の目的はなにか? - 仮放免者の会(PRAJ)(2018年6月27日)

 1の記事は、「長期収容」とはなにか、また、それがなぜ問題なのか、概説したものです。

 2は、2015年9月の法務省入管局長による通達を契機にして収容長期化が顕著になってきた経緯をおさえつつ、収容長期化などにあらわれている強硬方針を入管当局がどのような目的意識のもとに進めてきたのか、批判的に分析しました。

 1の記事で述べたように、私たちは6ヶ月をこえる収容を「長期収容」と呼んで問題にしてきました。入所時には健康だった人の多くが、収容期間6ヶ月をこえるころまでに高血圧や頭痛、不眠、胃腸の不調など、拘禁反応と思われる症状を発症するからです。入管施設での面会活動を通して私たちが把握するところでは、6ヶ月以上の長期収容により何らかの形で健康を害していない人は例外的と言っていい状況があります。

 入管施設での収容は、無期限収容です。収容の期限の定めがなく、したがって被収容者にとっては、いつ出所できるかわからないということです。また、国籍国へ送還されれば迫害などの危険のある人、あるいは家族や生活基盤をすでに日本にきずいている人にとって、いつ無理やりに送還されるかもしれないというおそれをいだきながら施設に監禁されるということは、大変なストレスです。こうした極度のストレスのもと、長期間にわたって収容を続けるということは、それ自体が深刻な人権侵害です。

 2の記事にみたように、法務省・入管当局自身も、報道発表や国連機関への説明、各入管地方局等への通達などを通じて、収容の長期化は「できるだけ回避する」べき問題であるとの認識をくりかえし表明してはいます。ところが、入管当局は、こうした公式の見解とはうらはらに、近年、収容を長期化させてきたのです。

 今回の記事では、その長期収容の実態の一端を、いくつかの統計データを参照しながら、あきらかにしていきたいと思います。

 2の記事でもすこしふれましたが、法務省は、長期収容の実態を小さくみせるような操作をした統計資料を国会議員に提出しています。問題を矮小化しようとする法務省のこうしたゴマカシに対しては、各施設に収容されている当事者たちのなかからも怒りの声があがっています。大村入国管理センターの被収容者たちは、法務省がごまかすならば自分たちで調査をおこなうと言って、みずから実態調査をおこなっています。そうした調査資料なども使いながら、この記事では、長期収容問題の実態の一端を示していきたいと思います。



(2)収容長期化問題を小さくみせる仕掛け(法務省データのごまかし)

 下の画像は、法務省が昨年、国会議員の質問に対して回答した文書にのっている表です(クリックで拡大します)。タイトルのとおり、昨年12月時点での「収容期間別総被収容者数」の収容施設ごとの数字がまとめられています。


 この表によると、2017年12月19日時点で、全国の収容施設には1386人が収容されていました。6ヶ月以上を長期収容とした場合、全国の施設で510人(36.8%)が長期収容ということになります。

 ところが、この表には重大なゴマカシがあります。表の右下に、「※各収容施設における収容期間を計上」との注釈がつけてあります。入管の収容問題について一定の知識がないかぎり、これだけを読んでも、その意味するところはピンとこないでしょう。しかし、ここに収容長期化の実態を小さくみせる仕掛けがあるのです。

 入管は複数の収容施設をもっており、その施設間での被収容者の「移収」をしばしばおこなっています。たとえば、ある被収容者が、東京入管に9ヵ月間収容されたあと、東日本入管センターに移収され、そこに2ヶ月間収容されているとします。この場合、この人は通算で11ヶ月間収容されていることになります。ところが、「各収容施設における収容期間を計上」するという、入管がおこなった計算方法にかかると、この人の収容期間はたった2ヶ月間だけだということになってしまいます。つまり、被収容者をべつの施設に「移収」することで、その被収容者の収容期間をゼロにリセットすることが可能な計算方法なのです。


 ところで、上の法務省の公表している収容施設ごとのデータのうち、大村入国管理センターについては、これと比較するのに格好のデータがあります。大村センターの被収容者たちは、2017年11月24日付で、96名の連名で「上申書」と題された文書を同センター所長に提出しています(→右の画像。クリックで拡大)。長期収容が日本政府の国際公約に反することを指摘し、仮放免によって収容長期化を回避するように求める内容です。


 この「上申書」には、96名の被収容者の署名がなされ、このうち94名についてそれぞれ通算での収容期間が記されています。法務省は11月末日時点での大村の被収容者数を101名としていますので、ほぼ全員の収容期間が「上申書」から判明したわけです。この「上申書」の日付は11月24日。いっぽう、法務省の統計資料は12月19日時点のデータですから、1ヶ月ほどの時期のずれはあり、その間の入所・出所が多少はあるでしょうが、両者のデータのもとになっている被収容者はほぼ重なっているとみなしてもよいでしょう。

 では、両者を比較した表と図をみてみましょう。


 上のグラフが法務省の出したデータ。通算での収容期間を計上した下のグラフと比べてみてください。「各収容施設における収容期間を計上する」という法務省のやり方によって、いかに収容長期化問題を実態よりも小さく見せることができるものなのか、わかります。実際には全体の80%近くいる6ヵ月以上の被収容者を、50%強と小さく見せることができるのです。また、1年半以上の被収容者は実際は30%をこえているのに、法務省のデータでは10%未満にまでおさえられています。

 収容の長期化が問題なのは、なによりも人権・人道上の理由からであって、それが被収容者の心身を破壊するものだからです。その点で重要なのは、通算での収容期間です。被収容者が別の施設に移収されるたびに収容期間がゼロにリセットされるような算出方法では、収容長期化が被収容者の心身におよぼす影響を考えるうえで意味がありません。

 入管がわざわざこのような方法で算出したデータを国会議員に提出したところには、収容長期化の実態をかくし、問題をできるだけ小さく見せたいとの意図が働いていたと考えざるをえません。



(3)被収容者たち自身による実態調査

 上の法務省のデータにごまかしがあることは、大村入管センターの被収容者たちにとって一目瞭然でした。周囲を見渡せば3人に1人はいる収容期間1年半以上の被収容者が、法務省の統計では10%にもみたないということになっているのですから。先のみえない長期間にわたる収容に日々苦しんでいる被収容者たちが、こうしたゴマカシに怒るのも当然です。

 そういうわけで、大村入管の被収容者たちは、自分たちの手で被収容者の実態調査をおこなうことにしたそうです。その調査データを以下に紹介していきます。

 まずは、収容期間別被収容者数です。さきほど、被収容者による連名「上申書」から計上した2017年11月時点でのデータをみました。大村の被収容者たちは、2018年8月時点での被収容者90名の収容期間を調査しています。両者のデータを比較してみます。



 このおよそ10ヶ月のあいだに、収容の長期化がいっそうすすんだことがみてとれます。

 2018年8月現在、被調査者90名のうち、収容期間が1年をこえている人は、66人(73%)です。全体の半数弱(43名)が1年半以上です。そして、じつに3人に1人(30人)が2年超というすさまじさです。

 国籍別の被収容者数は、以下のとおりです。


 ほかに、アフガニスタン、バングラデシュ、カナダ、カンボジア、イギリス、ラオス、タイ、トルコ、ウガンダ、スペインが1名ずつです。

 年齢構成はつぎのようになっています。



 つぎは、被収容者の日本での滞在年数です。


 大村センターは、正式名称を「入国者収容所大村入国管理センター」といいます。「入国者収容所」という名称からは、日本での滞在歴の浅い人が多く収容されているようなイメージを持たれるかもしれません。しかし、被調査者90名のうち29名、じつに3人に1人の滞在期間が20年をこえています。帰国しようにも帰国できない、したがって長期収容にもたえざるをえない人たちのなかには、日本での滞在期間が長く、すでに日本にしか生活基盤がないという人も多くふくまれるのです。

 最後に、日本での在留を希望する理由です。被調査者90名が、「家族」「難民」「その他」の3つの選択肢から自身の在留の理由を答えています(複数回答あり)。

なお、大村入管センターは、現在、男性のみを収容しています。



(4)結語

 以上、大村の被収容者自身による調査データから、収容長期化問題の深刻さの一端をうかがうことができたのではないかと思います。

 大村の被収容者には、大阪・名古屋・東京などの地方入管局から移収されてきた人が多くいます。この「移収」によって収容期間をゼロにするという計算方法によって、法務省が収容長期化の実態を小さくみせるゴマカシをおこなっていたことは、先にみたとおりです。

 しかし、収容長期化問題の隠蔽は、こうした統計データのゴマカシによるものには限りません。関東・近畿などの大都市圏から離れたところにおかれた大村入管センターは、その立地ゆえに収容の長期化や処遇が比較的問題化されにくいということがいえます。関東・近畿の施設にくらべ、報道される機会も少ないし、議員が視察に行くということも少ないのです。

 いわば監視の目のとどきにくい大村センターに、大阪・名古屋・東京の被収容者を「移収」するということが、入管当局にとって、収容の長期化が問題化され批判されることを回避するという効果をもつのです。入管は、2015年からこの大村への移収をさかんにおこなうようになりました。大阪府茨木市にあった西日本入国管理センターが同年9月に閉鎖されたことにより、西日本の長期収容施設が大村収容所しかなくなったことが、移収の増えたきっかけではあります。さらに、冒頭にあげた2の記事にみたように、2015年9月の法務省入管局長通達を受けて、全国の各施設において収容の長期化がすすめられてきました。大村センターでも、仮放免の許可が非常に出にくくなっています。その結果、2014年10月末時点で20名だった大村センターの被収容者数は急激に増え、現在では100名前後で推移するほどにふくらんでいます。

 大村の被収容者たちは、さきに述べたとおり、法務省の統計データのゴマカシに憤慨して自分たち自身の手で実態調査に着手しました。大村での収容の実態を日本社会にうったえるための調査です。かれらは、調査データを、当会のみならず、全国の報道関係者、複数の国会議員らにも送っているとのことです。大村についても、メディアの報道、国会議員等による視察は必要ですし、被収容者たち自身、それを望んでいます。大村入管センターの収容の実態についても、ぜひ注目・関心をむけていただくようお願いします。

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