入管収容施設の医療がきわめて劣悪であることは、これまでもこのブログで報告してきました。現在、東日本入管センター(茨城県牛久市)の医療の悪化がとりわけ深刻になっています。
たしかに、医療問題が深刻なのは、東日本入管にかぎらないことですし、それは帰国強要を目的とした入管収容施設のかかえる構造的な問題であって、最近になって始まったことではありません。しかし、わたしたちは収容者との面会をつうじて、最近の東日本入管の医療をめぐる状況はひじょうに悪化していると認識しています。
とくに、深刻なのは「外部診療」についてです。入管は、収容施設内部では対応しきれない病人やケガ人にたいし、外部の病院につれていき診療をうけさせることになっています。ところが現在、東日本入管では、深刻な病気・ケガをかかえた収容者のほとんどが、この外部診療を許可されずに放置されているという事態が生じています。収容者との面会をつうじて各ブロックのようすを聞いても、外部診療につれていかれたという話がぜんぜん出てこないという異常な状況なのです。
以下、Aさん(50歳代女性、フィリピン国籍)の事例を報告します。
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■Aさんの概況――深刻な拘禁症状、緊急の治療が必要
Aさんは、今年の1月末に東京入国管理局(東京・品川)に収容され、6月はじめに東日本入管センターに移収されました。収容期間は、あわせてすでに10ヶ月ちかくになります。
収容前には特別な健康上の問題がなかったAさんの体調が急激にわるくなったのは、3月11日の大震災以降です。高血圧、手足のしびれ、めまい、極度の食欲不振、不眠、頭痛等の症状があらわれ、東京入管収容時には3度、外部診療をうけています。
しかし、茨城の東日本入管に移収されて以降は、再三の申請にもかかわらず、5ヶ月間一度も外部診療を許可されていません。また、上記の深刻な症状にくわえ、脱力感、おしっこが出ない、腹痛、腰痛、背中の痛み、高血圧と低血圧をいったりきたりするなどの症状があらわれます。具合のわるいときは、職員にかかえられて面会室にあらわれるほどで、自力での歩行が困難なありさまです。ところが、8月末に3度めの仮放免申請が不許可になり、現在4度目の申請中です。
6月と8月の2度、Aさんの依頼で医師が面会におとずれ、問診のみですが(医師の面会にもかかわらず入管は触診などを許可しないので!)、診察をおこない、東日本入管センターあてに意見書を提出しています。
2通の意見書によると、病名は「心因反応」「胃炎/十二指腸潰瘍疑」「高血圧」とおもわれるとのこと。さらに、「椎間板ヘルニア」とこれによる膀胱神経のマヒが「神経因性膀胱」をひきおこしている可能性があるとのこと。
また意見書は、Aさんの症状を放置しておくと、将来、歩行困難になったり、脳梗塞・心筋梗塞を発症したりする可能性があり、専門医への早期受診が必要であると述べています。また、収容によるショックやストレスが病状の原因であること、したがって収容所内での治療は困難であることを指摘し、Aさんの仮放免を進言しています。ところが、東日本入管は、いまだAさんの仮放免を許可していないばかりか、外部診療すらも拒否しつづけています。
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■心停止しても、病院につれていかない
Aさんは、東日本入管に移収されてから、2度もたおれています。
まず、6月23日の夜にたおれ、10分ほどのあいだ心停止におちいりました。この間、職員はAさんの容態急変に気づかず、かのじょを放置しました。さいわい獣医師の資格をもつ収容者が同室にいて、かのじょの心臓マッサージにより、Aさんは一命をとりとめました。
6月27日の朝にも、Aさんはたおれました。おなじ日に、義母のBさん(Aさんの夫のお母さん)が面会におとずれていますが、職員は「『具合がわるいので会いたくない』とAさんが言っている」とBさんに告げ、ふたりを面会させませんでした。後日、Bさんが本人に直接確認したところによると、Aさんはそのような発言をしていないとのことで、職員が事態を隠蔽するためにウソをついたことが発覚しております。
この2度目にたおれたときには、Aさんとおなじブロックに収容されている約20人の仲間たちが怒り、担当職員に抗議をしたそうです。後日、かのじょたちからは、連名でのAさんの治療を要求する連名の要求書も提出されています(この記事の最後にのせましたので、あわせてお読みください)。
このような状況にありながら、東日本入管センターはAさんの収容をつづけ、外部診療の要求を拒否しているのです。
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■「外部診療を受けたければ金をはらえ」
さて、東日本入管では、Aさんにかぎらず、外部診療を申請したら職員から「診療費をじぶんではらうなら、受けさせる」と言われたという収容者からの証言が最近あいついでいます。
常識的にかんがえて、こうした職員のいいぶんは、かなりおかしなものです。収容者の身体を拘束している入管側に、診療費を負担する責任があるのは当然でしょう。入管は収容よって収容者がみずから所得をえる手段をうばっているうえに、収容そのものによって症状が発生ないし悪化しているケースがほとんどだと考えられるからです。法務省令である「被収容者処遇規則」でも、「所長等は、被収容者がり病し、又は負傷したときは、医師の診療を受けさせ、病状により適当な措置を講じなければならない」(第三十条)と収容所側の責任を規定しています。
Aさんのばあいも、8月5日に弁護士が東日本入管処遇部門統括の I氏に電話で確認したところ、Aさんを外部診療につれていくためには、家族がAさんに10万円を差し入れる必要があるとの回答がありました。 I氏のいいぶんは、10万円という金額にとくに根拠はないが、お金の差し入れがないと病院との受診の調整をおこえないということでした。2度も収容所内でたおれ、一度は心停止の状態にまでおちいったひとにたいし、この I氏の対応は、ひどいものです。Aさんの健康と生命を軽視しているとしかおもえません。
9月16日には、義母のBさんが支援団体をつうじて、8万円をAさんに差し入れしました。このとき、支援団体のかたにたいし、総務課係長T氏は「2,3日のうちに病院につれていく」と回答しています。ところが、東日本入管は依然Aさんを外部診療につれていっておりません。8万円を差し入れてから1ヶ月ちかくたった10月13日、Bさんが総務課に抗議にいくと、T氏はこんどは「いまから病院をさがす」と述べたそうです。
入管側の対応は、いわば「金をよこしたら、外部受診も考えないでもない」とほのめかしておきながら、Bさんが入金したらしたで1ヶ月以上も知らんぷりをきめこむというものです。この間、「2,3日のうちに病院につれていく」という約束を反故にしたことについて、AさんおよびBさんになんの説明もなし。収容者の生命・健康への配慮がないのみならず、収容者とその家族をナメきってるとしかおもえない対応です。
東日本入管センターには、Aさんのような病状をかかえたひとを、収容する資格も能力もなく、また人権を尊重する意思すらないことが、もはやあきらかだと言えます。「被収容者がり病し、又は負傷したときは、医師の診療を受けさせ、病状により適当な措置を講じ」るという被収容者処遇規則にさだめられた職務をすら、東日本入管センターがすでに果たせない状況にある以上、Aさんをはじめとする病人・ケガ人から、1日でも早く仮放免していくべきです。
【資料】
以下、Aさんの収容されている2Aブロックの連名での要求書を転載します。
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2011年8月7日
私たちは ここの 中で まじめに にゅうかん(IMMIGRATION)から 出した ほうりつ を ちゃんと まもって のりこえよう がんばって おります。ここ には 太陽 にも あたらないし、食べ物 も 野菜 など すくないし それぞれ の ストレス も あるし いろんな 事で 皆さん は いろんな しょうじょう 出て おります。(べんぴ、いたみ、かみのけ ぬけること、ねむれない こと ……)
2A 103 PHILIPPINE じん Aさん〔原文では実名〕は 今 けつあつ 高い 時 いろんな 薬 のんで おります。体 だるいし、めまいし、しょくよく ないし、でんわ も 出来ないし、さいきん トイレに いかないし(おしっこ でない こと)……いろいろ なって おります。
だから 元気 ない 人、体 びょうき ある人 に たいし ちゃんと ちりょうして 欲しい ので どうか 同じ 人間 として ごりかいして 下さいます よう よろしく おねがい いたします。
〔以下、2Aブロック22名の署名――省略〕
法テラスでも利用して、弁護士にアドバイスを受けながら、T課長と入菅と国を相手取って、裁判すべきじゃないですか?
ReplyDelete国連人権委に提訴していいレベルとは思いますが、一応は国内で救済を探るべき、となってるので。
田仁さま
ReplyDeleteコメントありがとうございます。
おかげさまでAさんに仮放免許可が出ました。
http://praj-praj.blogspot.com/2011/11/a2b.html
おっしゃるとおり「国連人権委に提訴していいレベル」の人権侵害とおもいます。
仮放免になったあとも、治療や生活など大変ではあります。こうして人権侵害を不当とするコメントをいただけるのは、心強いです。今後ともご注目のほどよろしくお願いいたします。ありがとうございました。