2016年9月30日
9月22日(木)、法務省はスリランカ人30人をチャーター機で強制送還しました。
法務省が2013年7月に初めておこなったチャーター機を使った強制送還は、今回で5回目になります。
2013年7月6日 フィリピン人75名を送還
2013年12月8日 タイ人46名を送還
2014年12月18日 スリランカ人26名とベトナム人6名を送還
2015年11月25日 バングラデシュ人22名を送還
2016年9月22日 スリランカ人30名を送還
私たちは、無理やりの送還そのものに反対していますが、とりわけチャーター機による集団送還には強く反対し、抗議してきました(注1)。集団送還は、その実施そのもの、あるいは送還対象の人数集めということが目的化して、被送還者ひとりひとりの事情はますますかえりみられなくなることを、私たちはこれまでも指摘してきました。2013年のタイへの集団送還では、学齢期(小学生)の子ども2人が送還されました。2014年に送還されたスリランカ人のなかには、送還によってフィリピン人永住者である妻と子と引き裂かれたひとがいます。法務省にとっては、航空機を一機わざわざチャーターするわけですから、それなりに費用にみあった人数をいわば「かき集め」なければ、かっこうがつかないわけです。
1.難民申請者の裁判を受ける権利の侵害
今回の送還がおこなわれた翌日の23日(金)に、法務省は記者へのレクチャーというかたちで発表をおこないました。これによると、法務省がスリランカに送還したのは、男性27人、女性3人の計30人、年齢は24才から58才だということです。
また、法務省は、送還された30人のうち、訴訟中、難民申請中の人はいないと発表したそうです。しかし、この法務省の説明は、ウソとは言えないものの、重大なごまかしをふくんだものと言えます。
2014年、15年、そして今回の集団送還において、難民不認定処分に対する異議申し立てを棄却されて即座に送還された人がいます。たしかに、このようにして送還された人たちは、送還直前に異議申立の棄却を通知され、難民不認定処分が決定しているわけですから、送還される時点では、法務省の説明どおり「訴訟中、難民申請中」ではない、ということになります。しかし、行政処分を受けた者が処分を不服としてその取消をもとめて裁判所にうったえるのは、当然の権利です。入管も、難民申請者に対して難民不認定や異議申立棄却の通知をおこなうときには、不服がある場合は6ヵ月以内に訴訟をおこなうことができるむね、教示しています。
送還する直前に異議申立棄却を通知するという、法務省がチャーター機送還においておこなってきた手口は、行政訴訟を封じるものであって、難民申請者の裁判を受ける権利を侵害するものです(注2)。法務省は、今回送還されたなかに「訴訟中、難民申請中の人はいない」と発表しています。しかし、訴訟の機会をうばう形で送還したのはほかならぬ法務省なのであって、その法務省自身が「訴訟中の人はいなかった」などとぬけぬけと言ってのけているのは、あきれるよりほかありません。2014年以降、こうした手続き上きわめて問題の大きい強引な手口で送還がなされてきたのは、法務省・入管当局にとって、チャーター機送還での被送還者の人数確保が課題となっていることのあらわれであろうと考えられます。
2014年に送還されたスリランカ人3名らは、同様の形で送還されたことにより裁判を受ける権利を侵害されたなどとして、日本弁護士連合会に人権救済申し立てをおこなっています。
- チャーター機を使った一斉強制送還による人権侵害に対して人権救済申立て - 暁法律事務所(2015年11月17日)
さらに、同じチャーター便で送還されたべつのスリランカ人は、8月2日、名古屋地裁に国家賠償請求訴訟を提起したばかりです。
- 難民不認定の男性、国を提訴=「強制送還で裁判できず」-スリランカ人・名古屋地裁 - 時事ドットコム(2016/08/02-16:37)
チャーター機を飛ばす予定日の直前に難民不認定についての異議申し立て棄却を通知するという、この手法がまさに法廷において問われようとしているそのときに、その問題の手法で送還する、ということを、法務省はおこなったわけです。
2.「大義」なきチャーター機送還、送還のための送還
さて、2014年12月の集団送還以来、法務省はこうした強引な手法をつかってまで被送還者数をかき集めてチャーター機を飛ばしてきたわけですが、ここまでする意義はいったいどこにあるのでしょうか。
この送還によって、たとえば治安の向上などという効果があるのでしょうか。そんな効果などまったくありません。たとえ一部のひとに利益になるのだとしても、その「利益」が別のだれかの人権を侵害することでえられるものならば、これを容認することはできません。ところが、チャーター機送還は、これによってだれひとりとして幸福にはならないし、だれの生活も向上しないという点で、まったくのムダなのです。
法務省は、今回30人を送還するのに3700万円の経費をかけたとしています。迫害のおそれをうったえ庇護を求めていた人を追い返し、あるいはその生活を破壊し、日本にいる家族や友人と無理やり引きはがすのに、ひとりあたり約123万円かけたのです。税金の使い方として最悪です。だれのためにもならず、なんの役にも立たないことに大金をつっこんだだけならばまだしも、ただただ人々に損害をあたえる結果をもたらしたわけです。いっそこの3700万円はドブにでも捨てたほうがマシでした。
さらに、法務省は、来年度の概算要求書において、「送還忌避者の専属輸送による送還経費」として今年度と同額の9300万円あまりを計上しています。
この「送還忌避者」の増大が法務省・入管当局にとって大きな問題となっていること、そして、その増大は日本政府の労働政策・入国管理政策がまねいた、いわば自業自得というべき帰結にほかならないことは、昨年の抗議声明などでくわしく述べてきたとおりです。
- 【抗議声明】バングラデシュへのチャーター機送還について - 仮放免者の会(PRAJ)(2015年12月13日)
チャーター機による送還、法務省の言うところの「送還忌避者の専属輸送」には、大義などないのです。このための予算を獲得し、ただ予算を消化するために、法務省はなりふりかまわず被送還者をかき集めている、というのが実態です。送還を実施することそのものが目的化しているのです。
法務省の発表によると、今回スリランカに送還された人のうち、日本に在留した期間がもっとも長かったのは、27年9ヶ月だったということです。これほど長期に滞在したのであれば、日本社会への定着性も高かっただろうし、反対に、スリランカにもはや生活基盤などないでしょう。在留資格を認めさえしていれば、この人を送還する必要などなかったのです。
在留資格を認めるべきひとに認めていないこと。あるいは、難民として認定すべき人を送還対象にしてきたこと。また、表向きは受け入れないことになっている、いわゆる「単純労働」を担う外国人労働者を、脱法的に導入し、使い捨てにしてきた日本政府の労働政策、出入国管理政策。こういった政策の道理の欠如や矛盾が、「送還忌避者」の増大をもたらしているのです。
仮放免者の会
《注》
注1
- チャーター機による強制送還に反対する3月行動(3月6日、水曜日) - 仮放免者の会(PRAJ)(2013年1月29日)
- 仮放免者問題と強制送還について――この10年の入管行政をふりかえって - 仮放免者の会(PRAJ)(2013年3月4日)
- チャーター機での強制送還に反対する声明(東日本入管センター被収容者より) - 仮放免者の会(PRAJ)(2013年5月2日)
- 【転載】同意なきチャーター便強制送還への非協力を求める要望書 - 仮放免者の会(PRAJ) - 仮放免者の会(PRAJ)(2013年6月27日)
- 入管による一斉無理やり送還に抗議します - 仮放免者の会(PRAJ)(2013年7月6日)
- 【抗議の呼びかけ】タイ人に対する一斉無理やり送還について - 仮放免者の会(PRAJ)(2013年12月9日)
- チャーター機によるタイ人一斉送還に抗議する申入書 - 仮放免者の会(PRAJ)(2013年12月25日)
- 【抗議声明】スリランカ・ベトナムへの集団送還について - 仮放免者の会(PRAJ)(2014年12月30日)
- ニクルスさん死亡事件、チャーター機送還、再収容、妊婦の収容などについて申入書(2月19日) - 仮放免者の会(PRAJ)(2015年3月8日)
- 【抗議声明】バングラデシュへのチャーター機送還について - 仮放免者の会(PRAJ)(2015年12月13日)
注2
難民審査についての棄却を通知してただちに送還するという手口の問題については、上記注1の8のでくわしく述べているので、あわせて参照してください。