7月22日に東日本入国管理センターは、2人のイラン人(「Aさん」「Bさん」とする)をふたたび収容した。2人はこのわずか2週間前の7月9日に、おなじ東日本センターから仮放免されて出所したばかりであった。この2人の再収容は、東日本センター等で広がっているハンストを弾圧するための見せしめ・恫喝を目的としたものであることはあきらかであり、当会としても断じてこれを容認することはできない。
1.事実経過
超長期収容に対する抗議のハンストが、今年の5月以降、東日本入管センターをはじめとする各地の入管収容施設で広がっている。AさんとBさんも、東日本入管センターにおいてハンストをおこなっていた。Aさんは6月4日からおよそ25日間、Bさんは5月10日から50日間にわたり食事を絶ち、2人とも自力で歩くことができなくなるほどに衰弱していた。
2人がようやく仮放免がみとめられ、収容所から出ることができたのが、7月9日。ところが、そのわずか2週間後の7月22日、入管はAさんとBさんの身体を拘束し、東日本入管センターに連行して収容した。
2.長期収容・再収容の不当性
今回、入管当局は、2年をこえる超長期収容とハンストでぼろぼろになった心身が回復するまもなく、AさんとBさんを再収容した。しかも、いったん拘束を解いたうえでたったの2週間でふたたび拘束するというやり方、わずかな希望を与えてすぐさまこれを打ち砕こうとするサディスティックな入管のやり口には、強いいきどおりをおぼえずにはいられない。
2人に対する長期収容、そして仮放免した直後の再収容の不当性をあきらかにするために、まず入管法にさだめられている収容の目的を確認しておこう。入管法(「出入国管理及び難民認定法」第52条第5項)は、「退去強制を受ける者を直ちに本邦外に送還することができないときは、送還可能のときまで」収容することができると定めている。あくまでも、送還にいたるまでの身体の拘束・逃亡防止が、法にさだめられた収容の本来の目的である。入管による収容は、懲罰や制裁を目的としたものではない。したがって、収容が長期化して被収容者の健康がそこなわれるようなことがあってはならないのはもちろん、身体を拘束して自由をうばう期間は極力みじかくなければならない。
山下貴司法務大臣は7月2日の記者会見で、大村センターでのナイジェリア人被収容者が死亡した事件を受けて、つぎのように述べている。
「健康上の問題等のため速やかな送還の見込みが立たないような場合には,人道上の観点から仮放免制度を弾力的に運用することにより,収容の長期化をできるだけ回避するよう柔軟に対応しているところです。」
送還の見込みが立たないようなケースで収容が長期化することを回避するための制度として、仮放免制度が位置づけられていることに注意したい。この法務大臣の発言は、これまで法務大臣・入管当局が、国会答弁などでくりかえし表明してきた内容でもある。送還の見込みが立たないにもかかわらず収容を継続することは、入管法に規定された収容の目的に照らしても無駄かつ不当であり、そのような場合は仮放免によって長期収容を回避すべきなのである。
この点で、まずAさんもBさんも2年以上という超長期にわたって収容されていたこと自体が、不当である。この収容期間の常軌を逸した長さこそ、入管が2人を送還の見込みが立たないことがあきらかであるにもかかわらず無駄に収容しつづけ、自由をうばい心身に苦痛を与えてきたことの証左なのであって、もっと早くに仮放免すべきであったのである。
そして、入管は、あまりに遅すぎる仮放免許可を与えて2人を出所させたが、そのわずか2週間後に再収容した。このわずかな期間に、AさんおよびBさんについて送還の見込みが立つような状況の変化など生じていない。また、2人とも入管の指示したとおりに出頭したところを再収容されたのだから、「逃亡」の意思がなかったことはあきらかである。
したがって、入管は、送還という法に定められた収容の目的を達せられないことがあきらかであり、しかも「逃亡」のおそれがなく身体拘束の必要性がないことがあきらかであるにもかかわらず、AさんとBさんを再収容したのである。
とすると、なぜ入管が2人を再収容したのか、その目的はあきらかである。AさんとBさんはじめ、長期収容に抗議してハンストをおこなう被収容者たちに対して、「抗議しても無駄だ」「おまえたちの声を聞くつもりなどない」と恫喝するためである。このように、人間の生命をもてあそび、身体的・精神的に人を痛めつけてこれを見せしめにするような卑劣な行為を、われわれは絶対に許さない。
3.明確な悪意の存在
さきにみたように、山下法務大臣は「速やかな送還の見込みが立たないような場合には,(中略)仮放免制度を弾力的に運用することにより,収容の長期化をできるだけ回避するよう柔軟に対応しているところです」と発言している。
しかし、この大臣発言は、入管当局の現におこなっている運用からみれば、まったく事実に反している。「速やかな送還の見込みが立たないような場合」に「仮放免制度を弾力的に運用」していたならば、2年や3年をこえる超長期収容が常態化しているという入管センターの現状は生じるはずがない。送還の見込みが立たないケースでも、仮放免せずに収容継続に固執しているからこそ、収容の超長期化と言うべき現状がもたらされているのだ。
つまり、入管は、長期収容は回避すべきであり、送還の見込みが立たない場合は仮放免制度を弾力的に運用していると口先では言いながら、まったくこれと反する行動をとっているのである。問題は、入管はなぜこうしてウソをつくのか、という点である。
入管は、この法務大臣発言がそうであるように、長期収容は回避すべき問題であるということを口先では一貫して表明してきた。そう言うことで、まるであたかも、この収容長期化という事態が入管にとって意図せざる不本意な結果であるかのようにふるまっている。しかし、その事態を回避する手段として仮放免制度にふれながらも、いっこうにこれを活用して収容長期化問題を回避しようとはしてこなかった。それは、入管が口先で言うのとはうらはらに、この収容長期化が意図されたものだからだ。
入管は、ある明確な目的意識のもと、長期収容をおこなっている。それは、長期間にわたって身体を拘束し、自由をうばい、心身を痛めつけることによって、被収容者が送還に「同意」するように追い込むというものである。つまり、長期収容を帰国強要の手段として意図的におこなっているのである。
したがって、今回のAさんとBさんに対する再収容は、入管がこれまでおこなってきたやり口の延長線上にあるものにすぎない、ということも言える。個人に苦しみを与え、また、そうして苦しんでいる様子をまわりの人びとへの見せしめにすることで、抵抗する者たちの意思をくじこうとする。こうした入管のやり方は、今回の再収容だけでなく、長期収容を帰国強要の手段としてきたことにもみられるものなのである。その意味で、入管のやり方は一貫しているとすら言える。
ただし、今回のAさんとBさんへの仕打ちにおいて、入管幹部どもの陰湿で残虐な悪意、被収容者・仮放免者を虐待によって従属させようとする意図は、もはや隠しようがなくあからさまになった。AさんとBさんをはじめ、被収容者たちの闘争・抵抗が、これを暴露したのである。
入管当局は、AさんとBさんらを即座に解放するとともに、長期収容と再収容によって人間をいたぶることをやめるべきである。
2019年7月29日
仮放免者の会(関東)
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