なお、先日の記事ではフセインさんを「Aさん」と表記していましたが、ご遺族のご意向を受け、実名を公開することとしました。
仮放免者の会としては、みなさまに東京入管への抗議をよびかけます。事実関係などについては、以下の申入書をご参照ください。
抗議先
- 東京入管総務課電話 03-5796-7250
- 東京入管代表ファクス 03-5796-7125
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申 入 書
2013年10月25日
法務大臣 殿
法務省入国管理局長 殿
東京入国管理局長 殿
仮放免者の会(関東)
2013年10月9日、12時20分すぎ頃、ミャンマー(ビルマ)人男性でロヒンギャ民族の、Anwar Hussinさん(1957年4月7日生まれ、以下「フセインさん」という。)が東京入国管理局(以下「東京入管」という。)のD-6号室で倒れ、搬送先の病院で「動脈瘤破裂によるくも膜下出血」で10月14日、4時21分に死亡した。フセインさんは、ビルマで迫害を受け逃れてきたロヒンギャ民族であり、難民申請をしていた。フセインさんは、2006年12月28日以降、7年近く仮放免の状態にあり、2013年10月9日に再収容された。我々仮放免者の会は、フセインさんの再収容からフセインさんが東京入管で倒れ、搬送先の病院で死亡するに至った経緯における東京入管の対応に対し、強く抗議し以下申し入れを行う。
(1)フセインさんは、10月9日、12時20分すぎ頃、D-6号室で嘔吐し体を痙攣させ、意識不明の状態になった。12時22分には同室の被収容者達がブザーを押し東京入管職員を呼んだ。職員は1~2分後に同室に来て、フセインさんの血圧を測る等した。東京入管処遇部門が当会及び当会の支援するフセインさんの遺族に説明したところによると12時26分に職員が測定した際には、フセインさんの血圧は、上242下111であったという。フセインさんは、常識的に考えてもただちに救急車を呼び病院に搬送すべき状態であったにもかかわらず、東京入管はこうした措置を行わず、同処遇部門の説明によると、12時50分にはフセインさんをGブロックの単独房に隔離する等しており、最終的に119番して救急車を呼んだのは13時15分とフセインさんの血圧測定時からしても50分近くが経過してからであったという。フセインさんがD-6号室にて意識不明で倒れている間、同室の被収容者達によると、同室の者達が直ぐに医師に診せるか救急車を呼ぶように職員に対し繰り返し求めたにもかかわらず、職員達は「医者は食事中なので来れない。」「癲癇なので大丈夫。」等と言い、取り合わなかったという。東京入管側はこのような職員の発言は「なかったものと信じる」としているが、こうした発言が実際にあったかどうかはひとまず措くにしても、フセインさんがこの時点ですでに生命の危険のある重篤な状態にあったことは、上記経緯に照らしてみても明らかであり、一連の東京入管の対応は被収容者の人命を著しく軽視するものであったといわざるを得ない。現在、被収容者及びその家族、友人の間には「自分も(自分の家族、友人も)病気になり倒れたときには医師に診せてもらえず、救急車も呼ばれないまま命を落とすのではないか。」といった激しい動揺と恐怖、入管に対する不信感が広がっている。フセインさんのような重篤な状態にある者は速やかに医師に診せ、その判断を仰ぐ事、医師が不在の際にはただちに救急車を呼び病院に搬送する事はごく常識的な対応である。これら常識的な事が然るべく果たされるように強く申し入れる。
一般的には嘔吐や痙攣、意識障害があれば脳の障害が考えられるので一刻も早く救急車を呼ぶべきであり、病院への搬送の遅れが生死に直結する事は当然である。病院への搬送の遅れと死亡の因果関係は、今後明らかにしていかねばならないが、これをひとまず措くにしても、今回の東京入管の対応の遅れには著しい人命軽視に基づく重大な誤りがあるといわざるを得ない。当会では東京入管に対し、なぜこのような非人道的対応がなされたのかに関する全面的な真相究明と再発防止策の徹底と公表を求めると共に、今回の事態を招くに至った責任を負う者への処罰、遺族に対して今回の対応がなぜ、誰によって取られたかに関する詳しい説明と謝罪を強く申し入れる。
同室の被収容者達が、フセインさんを医師に診せるか救急車を呼ぶように求めた際、職員達が「癲癇なので大丈夫。」等と言い取り合わなかったという事に関してだが、これには医師でないものが診断を下していたという極めて重大な問題がある。この発言はなかったと東京入管は言うようであるが、この発言がもし万が一なかったにしても、同局処遇部門の説明によれば、同局では、月・水・金しか医師は来ておらず、医師不在時には、体調不良を訴える等する被収容者の健康面に関する判断は常習的に同局職員が行っているという。医師でない者が実際に医療的判断を行なっているという事実は動かしようがない。週7日終日医師が常駐する事が望ましいが、仮に医師が不在の場合であっても入管職員が被収容者の病状を過小に評価し医療的な処置が遅れるような事があってはならない。フセインさんのような痛ましい犠牲者を今後一人たりとも出す事のない様、救急医療体制及び通常の医療体制の整備を強く申し入れる。
今回の東京入管による対応の背景には収容されている外国人に対する、人命軽視、差別、蔑視が入管内部に根深く存在するのではないかというのは、被収容者達の多くから聞かれる意見である。すなわち「もし外で日本人がこうした状況にあったならば直ぐに救急車が呼ばれるはずだ。そうならなかったのは外国人を差別し、死んでもいいと感じているからだ。」というものである。こうした感情を被収容者が持つに至った理由としては、今回の事件のみならず、日ごろの被収容者に対する職員の言動、態度、体調不良を訴えても病院に行かせないか、診察まで何週間も待たせるといった対応があげられる。このような感情を被収容者達に抱かせることのないよう、東京入管には、適切な医療体制の整備、職員への教育の徹底を求める。
入国管理局には外国人を収容する以上、被収容者の生命、安全、健康を守る収容主体責任がある。フセインさんのような状態の者はただちに医師に診せ、医師が不在の際には即座に救急車を呼ぶことは当然であるが、体調不良を訴える者は医師に診せ、病気の者には適切な医療を提供する事、病状が重篤な者はただちに仮放免する事を求める。東京入管には収容する以上、被収容者の生命、安全、健康を守る責任を果たすよう重ねて申し入れる。
(2)ロヒンギャ民族がビルマで国籍を認められておらず、移動、就労、結婚等の自由を著しく制限される等、迫害を受けていることは周知の事実である。フセインさんは、ロヒンギャ民族であり、ビルマでの迫害を逃れて来日したものである。フセインさんの死亡に際しては、東京入管から遺体の送還を在日ビルマ大使館に打診するも拒否されたという話も聞いている。入管は、フセインさんを存命中のみならず、亡くなられた際にもビルマに送還する事が出来なかった。この事実は、フセインさんが難民認定されるべき、或いは難民認定されないにしても在留特別許可されるべき対象者であった事を明らかに示すものである。もしフセインさんが、入管により然るべく難民認定、或いは在留特別許可を付与されていたならば今回のような不幸は起こらなかった。フセインさんは、入管の極めて消極的な難民政策の犠牲者であると考える事が出来る。ロヒンギャ民族のみならず、難民申請者に対してはUNHCR難民認定基準ハンドブックに従って、難民認定或いは在留特別許可を付与して救済していく事を申し入れる。
(3)フセインさんは、2006年12月28日以降、7年近く仮放免の状態にあり、2013年10月9日に再収容された。再収容理由については、当会及び当会の支援するフセインさんの遺族に対して、東京入管から明確な回答は得られておらず判然としない。これについては当会及び遺族に対する明確な回答を求める。当会が掌握した情報の範囲では、フセインさんが再収容される前の状況からして東京入管はフセインさんが指定住居以外の場所に勝手に転居したと認識してこれを事由として再収容したと考えられる。しかし収容は生命にもかかわる重大事である。居住地の届出に関しては、届出に問題があるならば指導すればいいのであって、もし仮にこの事をもって収容したのならば明らかにいき過ぎであり、収容権の乱用である。フセインさんは逃亡したわけではなく、東京入管への出頭日には出頭しており、このような指導は充分に可能である。また、難民不認定異議申立棄却や行政訴訟での敗訴確定を契機とする退令仮放免者への再収容、また、行政訴訟での敗訴確定後、再審情願を申し立てている者等については、当人の帰国出来ない事情を十分に考慮した上、再収容を行わないよう強く申し入れる。行政訴訟等において敗訴が確定した場合でも、難民申請者や日本に家族がいる者等、どうしても帰国出来ない事情を抱えた者に対する収容、とりわけ再収容は被収容者、及び家族に人生を絶望させ、自殺未遂や疾病、或いは自殺といった最悪の事態に帰結する可能性のある重大な人権侵害である。フセインさんの件に関しても、再収容による極度のストレスが高血圧を引き起こし、脳の動脈瘤破裂に至った可能性は十分ある。再収容を行うにあたっては、細心の上にも細心の注意が払われるべきである。
(4)フセインさんを含めた仮放免者達は、自身の難民性のため、愛する家族との生活のため、病気の治療のため、または自身が長年かけて築いてきた生活、人間関係、社会とのつながりを守るため等、それぞれの理由のために日本での生活を希望している者である。彼ら、彼女らにはどうしても帰国出来ない理由、断ち切りがたい絆が日本に存在している。2010年の西日本、東日本両入国管理センターでの大規模ハンスト、東日本入国管理センターでの被収容者の相次ぐ自殺、国費無理矢理送還中にガーナ人男性が死亡した事件、退令仮放免者によるデモ、2012年におこった東日本入国管理センターでのハンスト等は、入管が退去強制手続きにおいて収容や再収容、送還といった暴力的方法に固執し対処しようとすることの限界を明らかに示すものである。仮放免者の問題についても、帰国出来ない退令仮放免者の事情を知りつつこれを斟酌することなくなお繰り返しの収容、送還に固執しようとすれば、そこには必ず無理が生じ、今回のような人の生命にかかわる事件を生じさせる原因ともなる。仮放免者問題に対し、入管が再収容、送還に固執することは退令仮放免者及びその家族の心身を収容によって単に痛めつけるためのものにしか過ぎず、退令仮放免者の抵抗や自殺や今回のような事件を含む痛ましい犠牲者を再び生み出すことにつながるのみで問題の解決には到底なりえない。我々仮放免者の会は、帰国出来ない退令仮放免者(①UNHCR難民認定基準にそった難民申請者②日本に家族がいる者③日本に生活基盤が移っている移住労働者)については本邦への在留を認めることで救済するよう強く申し入れる。
以 上
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